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身長
177cm
出身地
埼玉県さいたま市
出身校
県立浦和高校→
早稲田大学
入社年月日
1992年4月1日
星座
天秤座

2017/12/8  温泉と“おらが村の発電所”

師走に入り、冬の訪れを肌で感じるようになりましたね。こうした季節、特に恋しくなるのが、温泉ですよね。日本全国にある温泉地の数は3000か所を超えていて、日本は世界一の温泉大国ともいわれています。そして、同時に世界第3位の地熱資源を誇る地熱大国でもあります。

九州・熊本県の山間、大分との県境にある人口7300人ほどの小さな町、小国町。その小国町のはずれに、知る人ぞ知る秘湯があります。その名も、わいた温泉郷!ここでは、集落のあちこちで地面から常に蒸気が噴き出しています。その光景はまさに秘湯そのもの。住民の方々は、地下からの蒸気を利用して野菜の蒸し物を作るなど、大地の恵みを上手に利用し生活してきました。

しかし、温泉以外に特に目立った産業もないこの山間の集落では、年々過疎化が進み、若い人は村を出て行ってしまい、人口が減少する一方だったそうです。地域の高齢化率も上昇し、全国平均を大きく上回る状況が続いていました。

こうした流れを何とか変えたいと地域の有志の方々が集まり、一つにまとまって立ち上げたのが、日本初の住民が主体となって取り組む地熱発電所、『わいた地熱発電所』なのです。

この地域の豊かな地熱を活かし、2年前に運転を開始したこの地熱発電所は、すでに小国町全体の消費量を上回る発電量を安定的に生み出し、集落には年間でおよそ1億円以上もの収入が入っているそうです。

なんとも素晴らしい発電所ですが、ここまでの道のりはたやすいものではなかったそうです。今からおよそ20年前、大企業による大規模な地熱発電の計画がこの地域に持ち上がり、小さな集落は賛成派と反対派で二分されてしまいました。反対派の方々から上がっていたのは、地熱発電所によって地域の温泉が枯渇してしまうのではないか、という温泉資源への影響を心配する声でした。当時の地域の分断は深刻で、700年以上昔から続いてきた村の伝統の盆踊りも中止されてしまうほどだったそうです。

こうした厳しい状況の中で、地域の方々が悩んだ末に選び出したのが、大企業に頼る大規模な発電所ではなく、住民が主体となってかかわる小さな発電所、まさに、“おらが村の発電所”を建設するという道でした。
それは、20年前の大企業による計画と比べて10分の1以下という小さな規模の発電所計画でした。この小さな規模なら地域の温泉にも影響を与えないという調査結果も踏まえ、分断されていた集落は再び一つにまとまり動き始めました。そして試行錯誤の末に、ついに地熱発電所は完成したのです。

 この“おらが村の地熱発電所”は地域の暮らしを賄う量の電気を生み出しているだけではありません。地下から温水をくみ上げる際に余った熱エネルギーを利用して、グリーンハウスでパクチーやバジルを育て、都市部に出荷しているのです。地熱発電所で働いているのは集落の住民、そしてハウス栽培で働いているのも集落の住民たちです。地熱は今、この地域の雇用を生み出す大切な存在になっているのです。

 集落に働く場所ができたことで、都会に出て行った住民たちが戻ってくるようにもなったそうです。そして去年の夏には、10年以上にわたって中断されていた伝統の盆踊りが、再開されたのです。

おらが村の地熱発電所がお金を生み、そこから新しい雇用が生まれ、地域は活性化されました。集落の代表の方は、『次の未来につながる足がかりができた。希望は膨らむ。次の世代のためにいろんなことやりたい!』と希望に胸を膨らませていました。 

日本は世界第3位の地熱資源を持っている地熱大国ですが、地熱発電の開発はあまり進んでいません。地熱発電の設備容量で世界と比較してみますと、日本は世界10位にまで後退してしまうのです。

 日本で地熱発電の開発が進まない背景の一つには、温泉源への影響を心配する声があるといいます。わいた地熱発電は、そうした懸念を乗り越えた、一つのモデルケースともいえるのではないでしょうか。地域の環境に負荷をかけない小さな地熱発電所は、エネルギーの地産地消を実現し、地域に雇用を生み、地域を元気にする、大きなポテンシャルを持っていました。

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