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身長
177cm
出身地
埼玉県さいたま市
出身校
県立浦和高校→
早稲田大学
入社年月日
1992年4月1日
星座
天秤座

2015/9/3  ニュースは現場で起きている②沖縄と日米地位協定、そしてギャラクシー賞

沖縄の基地問題は、私がライフワークとして取り組んでいるテーマの一つです。
東アジアの中心に位置し戦略的な要衝としての地理的側面から沖縄に米軍基地が存在するという理由はわかります。しかし国土の僅か1%に満たない場所に在日米軍の74%が集中し、極東最大のアメリカ空軍基地である嘉手納基地に加えて、アメリカ海兵隊の唯一の海外拠点として、キャンプハンセンからキャンプシュワブ、さらに北部訓練場など実に多くの海兵隊基地が集中し、沖縄本島の18%が米軍基地で占められている実態には、沖縄を訪れるたびに疑問を感じてしまうのです。

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広大なジャングルに広がる北部訓練場

そして、そうした基地に所属する米軍人の起こす事件事故、基地周辺での低空飛行訓練の騒音問題や実際に起きている墜落事故、さらに基地跡地から次々と見つかる有害物質を含んだ大量のドラム缶などによる環境汚染問題等々…。
実はこうした米軍がらみの様々な問題の背景に共通しているのが日米地位協定で、基地周辺の住民の生活を苦しめる根源的な存在になっているのです。

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基地跡地から100本以上のドラム缶が発見された現場

日米地位協定は、戦後、日本が国際社会への復帰を果たしたサンフランシスコ講和条約締結の際にひっそりと結ばれた日米行政協定が前身になっていて、日米安保条約改定の際に名前を地位協定に変えました。
日米地位協定では、米軍人の日本での法的な地位や米軍の基地使用など多岐にわたって実に様々なことが決められています。ただ多くは米軍に有利な条件になっていて、この協定に基地周辺の住民の方々が苦しめられている実態があるのです。

戦後70年が経ちましたが、日本はこの不平等な協定をこれまで一度も改定していません。1995年の沖縄での少女暴行事件のように大きな問題が起きた際に、運用上の取り決めとして少しだけ改善された面もあるのですが、そこには必ずと言っていいほど米軍側の好意的配慮によるという補足が付いていて、不平等な実態は何も変わっていないと言っても過言ではないのです。

この日米地位協定について、今年6月23日の沖縄慰霊の日に合わせて報道ステーションで長めの特集を放送しました。
この放送は多くの視聴者の皆様から大きな反響をいただき、優れた放送に対して送られるギャラクシー賞の月間賞もいただくことができました。

特集では、戦後70年が経っても地位協定の壁に阻まれて泣き寝入りを強いられている沖縄の基地周辺の方々を取材し、その不平等な実態をお伝えした上で、同じ敗戦国であるドイツとイタリアはどうなっているのかを、現地まで飛んで実際に取材しました。
(イタリアは戦争終結前にパルチザンがムッソリーニ政権を崩壊に追い詰めたという経緯から敗戦国ではないという議論もありますが、番組では広義の意味で敗戦国としました。)

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ドイツにて

ドイツはこれまでにアメリカとの地位協定を3回に渡って改定し、米軍基地にドイツの国内法を適用させ、環境汚染問題が起きた場合でも米軍に原状回復させる新たなルールを作っていました。
イタリアも米軍基地の管理権は自国で持ち、イタリア軍司令官の指揮の下で米軍が訓練を許されるという内容の協定を結んでいました。

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ランベルト・ディーニ、イタリア元首相と

対する日本はどうかというと、米軍基地内に日本の法律は適用されず訓練は米軍の自由に行えます。また、返還された米軍基地の跡地からは未だに大量のドラム缶が発見され、周辺からはベトナムで使用された枯れ葉剤の可能性がある有害物質が検出されるという事態も起きています。さらにその原状回復の処理は日本側が日本の費用で行っているのです。
そして米軍人が基地の外で事件事故を起こしても公務中だと米側が判断すれば、日本側が裁くことはできません。中には、明らかに米軍側に過失がある死亡事故にもかかわらず、事故を起こした米軍人は公務中と判断され日本では裁かれず、アメリカでも全く刑事処分を受けていなかったケースもあるのです。

こうした不平等な日米地位協定ですが、なぜドイツとイタリアはそれぞれアメリカとの地位協定を改定できたのでしょうか?
これは現地で取材してみて初めてわかったのですが、ドイツやイタリアでも米軍絡みの様々な事件事故が過去に起きていました。そうした問題に国内で国民的な反発の世論が盛り上がり、国民のまとまった声が政治家を後押しし、政治家や官僚が覚悟を持って米軍側と粘り強く交渉し権利を勝ち取っていたという経緯があったのです。

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ドイツが地位協定改定を遂げたボンの会議室

一方の日本はどうでしょうか。
ドイツやイタリアと同じように日本でも1950年代にやはり様々な米軍絡みの事件事故があり、本土でも大規模な反基地運動が盛り上がりました。その時にアメリカは日本国民の反発を鎮めるために、当時は本土の岐阜と山梨にあった海兵隊基地を沖縄に移してしまったのです。そして沖縄では、いわゆる銃剣とブルドーザーによって、県民の土地が強制接収され次々と基地が作られたのです。
今、沖縄の米軍基地の7割を海兵隊基地が占めていますが、そもそも、50年代に本土から移ってくるまでは、沖縄には海兵隊基地は一つもなかったのです。

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キャンプシュワブ前での座り込み抗議活動

この時以降、米軍基地が減った本土では一般の市民からは基地問題の実態が見えにくくなり関心が薄れていきました。そして、沖縄の方々から米軍絡みの問題が起きるたびに怒りの声が上がる一方で、本土では無関心が拡がり国民的な世論が盛り上がらないという構図が生まれたのです。この日本独特の構図こそが、日本が地位協定を一度も改定していない最大の要因だとも言えます。
そしてこの構図は、今の辺野古をめぐる沖縄と本土の世論の乖離にも通じているのです。

報道ステーションの放送後に、視聴者の方からドイツとイタリアはNATOの加盟国だから地位協定を改定できたのではないか、という指摘もいただきました。
ではお隣の韓国はどうでしょうか?
実は韓国もアメリカとの地位協定をこれまで2度にわたって改定しているのです。韓国でも同じように米兵がらみの事件事故が多発しましたが、それはソウル近郊の米軍基地など国民の目につきやすい場所で起きていたのです。
こうした身近な場所で起きた事件事故は国民的な怒りの世論に火をつけ、韓国も地位協定を改定していたのです。やはり大切なのは国民全体の意識が盛り上がるかどうかなのです。
ちなみに韓国でも地位協定改定により、基地返還地で土壌汚染問題などが発覚した際には米軍側が浄化義務を負う取り決めを勝ち取っています。汚された土地の原状回復を我々の税金で日本側が行っている我が国とは大きな開きが生まれてしまっています。

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米軍恩納通信所跡地の海岸

沖縄の米軍基地の取材をするといつも思うのですが、ほとんどの米海兵隊の隊員たちは、紳士的でとても友好的です。しかし、物事にはやはり表と裏があります。割合は少ないにしても、実際に基地の周辺では米兵がらみの事件事故が起きているのです。
その際に、日本人に対してと同じようにしっかりと法の下の裁きを受けてもらう必要性がありますし、ドイツやイタリアのように基地周辺の住民の生活や環境に配慮した訓練や基地の使い方が求められると思います。

私は、日米同盟は日本の平和を守るためにも重要だと思っています。だからこそ、その負の側面=基地の負担を沖縄だけに過重に背負わせることなく、沖縄の方々の負担を正面から受け止め、その根源にある地位協定について、ドイツやイタリア、韓国と同じように速やかに改定して少しでも平等な協定に近づける必要があります。
その上で初めて、普天間や辺野古をどうするのか、本当に沖縄にあそこまで集中させなくてはならないのか、国民的な議論を行うべきなのではないでしょうか?

今から20年前、1995年の少女暴行事件の時から私は沖縄の基地問題の取材を始めました。基地問題の現状は何も変わっていないとも言えますが、この20年間で沖縄の基地問題に対する全国的な世論は少しずつ変わりつつあると感じています。
大切なのは、日本人全体で基地問題に理解を深めることです。安保法制が国会の最大のテーマとなる中、米軍基地や地位協定について私たちが知っておくべきことはたくさんあります。
基地問題が少しでもいい方向に進むためにも、これからも沖縄の取材を続けていかなくては、と思っています。

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