7月26日の後楽園ホール、1人の若者が新しい道を歩き出した。
高橋裕次郎24歳
今年3月に大学を卒業したバリバリのルーキーである。
大学時代はアマレスで全日本学生選手権を制し、
強さを求めて新日本プロレスの門を叩いた。
入門からデビューまで4ヶ月弱というのも異例の早さだが
既に100キロを超えるビルドアップされた肉体は
現在のIWGP王者である藤田和之を思い起こさせ、
これだけ早いデビューも当然とうなずかせるものがある。
しかし試合は2年先輩の山本の前にキャリアの差を見せ付けられ、
7分28秒逆エビ固めでギブアップ。
苦い第一歩を踏み出したがドラマはその後に待っていた。
試合後、記者に囲まれる高橋のもとを
IWGP藤田戦で肋骨骨折の重症を負い、現在治療中の
柴田勝頼が訪れたのだ。
元来柴田は口数が少ない寡黙な青年である。
その柴田がデビュー前からこの高橋を見込んでいるという話は
風のうわさに聞いていた。
自分が面倒を見てきた後輩のデビュー戦を見て、
柴田はボソッとこう言った。
「お前、打たれ弱ぇな」
ねぎらいの言葉を期待していた周囲は一瞬凍りついた。
「打たれ弱ぇよ」
こう言われた高橋は「はい」と言うしかない。
しばらく気まずい空気が流れた。これから先輩の説教が始まるのだろうか
誰もがそう思い始めた時、突然はにかんだ表情になった柴田は
右手を差し出し、「これから頑張れよ」と高橋に握手を求めたのだった。
その瞬間、高橋の中でデビュー戦で張り詰めていた気持ちの
糸が切れたのだろう、差し出された先輩の手を握り返し、
声にならない礼の言葉を述べながら男泣きに泣き出したのである。
リングの上だけではない。ここにもドラマがある。
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