前の記事を読む 次の記事を読む  

トップ > パーソナルトップ > プロフィールトップ > エッセイバックナンバー
 
 
11月7日

10年目の取材メモ 「およぐイノシシ」


イノシシは突然、海から上がってきた。
次の瞬間、イノシシの牙が釣り客の男性2人を襲う。
1人は、長靴を貫通してすねを刺され、
もう一人は太ももを刺された。


どうしてイノシシは海から現れたのか?
現場は、かつてオランダとの貿易港として栄えた
大航海時代の城下町、長崎県平戸島。
現場周辺の港へ直行すると、答えはすぐに出てきた。
「およぐイノシシを見た」という漁師が何人もいるのだ。


その描写は極めて詳細だ。
@イノシシは犬掻きでおよぐ
Aその速度はかなり速い(つまり、およぎがうまい)
Bイノシシは何頭かの群れになっておよぐことが多い
Cイノシシは列を作っておよぐ
D疲れると前のイノシシが後ろに回り、順番を入れ替えながらおよいでいく
Eときにイノシシが後ろに回った後、前のイノシシにあごを乗せて休む…


かなり岸から離れたところでも船の上から目撃するらしく、
にわかには信じがたいが「九州本土や周辺の島を行き来している」という。
「周辺の無人島にもイノシシが生息し始めているのは、
イノシシが自ら泳いでいったからだ」という漁師もいた。
えさを求めてイノシシたちが“決死の遠泳”を繰り広げているのだ。


平戸島ではイノシシが人に襲いかかることは滅多にないというが、
海から上がった瞬間に人と遭遇し、びっくりして襲ったのか、
あるいは、親のイノシシが子を守ろうとして襲いかかったのではないかと
見られている。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

【取材後記】

実は、平戸島では「イノシシがおよぐ!」と珍しがっている場合ではないほどに、
近年、イノシシによる被害は深刻だ。
被害の9割は“稲”。
稲刈りを終えた田んぼには、無数の大きな穴が残る。
イノシシに荒らされ、「収穫は壊滅的だった」と農家は嘆く。



赤の棒線:イノシシの捕獲頭数(左目盛り) 
黄色の折れ線:農作物被害額(右目盛り)
(ともに平戸島。平戸市調べ)

平戸市では、地元猟友会の協力のもと捕獲用の檻を仕掛けたり、
高圧の電流が流れる柵を田畑に取り付けたりと対策に取り組んでいるが、
イノシシの増える勢いが勝っていて、解決策になりえていないのが実状だ。
対策を立てては破られる“いたちごっこ”に
農業をやめてしまった人もいて、
雑草と凸凹だらけの荒れ果てた畑も目につく。

折しも来年の干支は、亥(いのしし)。
抜本的な解決策を探らなければ、本物のイノシシが大暴れする年になってしまう。


   
 
    
前の記事を読む 次の記事を読む  

トップ > パーソナルトップ > プロフィールトップ > エッセイバックナンバー