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「カナダ車窓撮影日記1」

9月19日、バンクーバーからカナダへ入国。いよいよ1ヶ月に及ぶ撮影の始まりだ。約9時間飛行機に揺られて幾分かの疲労感は否めないが、無事入国ができ、まずはホッとする。カナダの「西の玄関口」と称されるバンクーバーは人口およそ200万人。アメリカ同様"移民の国"であり"人種の坩堝"であるこの国でも、特にアジア系の人々が多いことで知られる。 それでも、空港からの道すがら目にする人の半数が黄色人種であるのには驚いた。実際は日本人の観光客なども多いのだが、入国前にあった欧米然としたカナダのイメージとは少々違った。ワーキングホリデーでカナダを選ぶ日本の若者も多いと聞くし、治安も良く清潔と言われるこの国はアジアの人にとっても住み易いのかもしれない。そういえば、国連の調査では1993年から3年間連続で「世界中で最も生活のしやすい国」に選ばれているという。 ホテルに着いてシャワーを一浴びしたら、時差ボケする暇もなく撮影開始だ。

バンクーバーの町は西側は海が広がり、北側はグラウス山が迫っていて、地理的には何だか日本的。落ち着いた佇まいでもある。町中の人々もどことなくシャイな感じがして、地続きの隣国アメリカとは随分と印象が違う。 町の様子を少し撮った後、バンクーバーっ子の足「スカイトレイン」の取材。高架の上を滑る様に進む姿はモノレールにも見える。近未来的な名前もちょっとカッコ良い。実はこのスカイトレイン、リニアモーターを導入しているとのこと。云われてみれば線路の真ん中に(都営大江戸線で見るような)帯状の金属が伸びている。ここで磁力を出して滑らかに列車を走らせるのだろうか。更に驚いたのは乗務員がいない無人操縦の電車だということ。なんと管制室にいるたった5人のオペレーターが全車両をコントロール、ダイヤを運行させているのだそう。それでいて事故も遅れもないなんて、まさに「夢の列車」だ。

撮影に立ち会ってくれた職員のバーバラさんは、70歳を越えた温和で上品なご婦人。優しくシャイなところは僕が感じたカナダ人のスタンダードな印象そのものだ。駅に停まる度に知り合いがいて、いかつい警備員や工事のオジサンが声を掛けてくる。愛されるお婆ちゃんといった感じだ。撮影の際、狭い車内ではスタッフの僕らがカメラのフレームに入ってしまう事がある。そんな時は瞬時に後ろを向いて顔が写らないようにするのだが、それを見た バーバラさんが同じように隠れるようになったのがおかしかった。撮影快調!幸先の良いスタートが切れた。
 
ディレクター 松永 清史
バンクーバーのスタンレー公園にて
スカイトレイン
パシフィック・セントラル駅
「カナダ車窓撮影日記2」

9月20日。いよいよ、というか早速というかカナダ入国2日目にして、今回のロケのメインである大陸横断鉄道カナディアン号の取材が始まる。まずは始発駅のパシフィック・セントラル駅へ。驚くべきことにこのカナディアン号、車両編成は24両、全長は何と655mにも及ぶ。列車はホームの長さに収まらず随分とはみ出していた。これだけ長いと撮影するのも一苦労だ。(短距離の五輪金メダリストが全力疾走したとしても1分以上は掛かるんですよ!)列車の外観や駅のホームを撮るにもままならない。想像してみて下さい、発車までの限られた時間の中、長いホームを必死に駆けずり回る健気な僕たちを・・・(涙)。そんなワケで、正直もう少し丹念に撮りたいところだったけれど、出発の時間となり列車に飛び乗る。

本来バンクーバーからトロントまで3泊4日の行程なのだが、とりあえずは内陸の中間地点ウィニペグまで2泊の撮影。もちろん車中泊だ。これが結構揺れる。“それもまた列車の旅の醍醐味”と思えば苦にならないのかも知れないが、こちらはお仕事。誰よりも遅く寝て誰よりも早く起きねばならない。短い時間で効率よく体を休ませたいのだ。しかし、時差ボケが抜けていない上、時速100キロオーバーで飛ばす車内で熟睡するのは至難の業だ。(あ、これはカナディアン号の旅が快適でないということではないので、くれぐれもお間違いのないよう。)

そんな中で印象的だったのが乗務員達のプロフェッショナルぶりだ。僕らと同様睡眠時間も少ないだろうし、揺れる車内での立ち仕事はなかなかの重労働なのだ。しかし、どんな時でも乗客には笑顔で接し、テキパキと仕事をこなす。ロケの最中、僕らが不快な思いをすることは少しもなかった。たまに少し変わった(?)乗客がクレームを云っても、ソツなくにこやかに応待する。こうして、文章にしてしまうと簡単な様だが実際に職場でそのように振る舞えるのは仕事への並々ならぬ愛情があるからだと思う。ウィニペグで乗務員の交代があったのだが、仕事を終えたスタッフはもうゲッソリ、たった2泊で随分とやつれた感じだ。それでも別れ際には皆、とびきりの笑顔で手を振って去って行った。彼らのサービス精神と仕事に掛けるプライドが画面を通じて視聴者に伝わると嬉しいな。
 
ディレクター 松永 清史
カナディアン号の機関車
24両編成全長655mのカナディアン号
シャンパンを乗客にサービスするベテラン乗務員
「カナダ車窓撮影日記3」

「カナダ人ってホントいい人だ。」って、このロケが始まって以来、毎日5回は言ってるな。すかさずスタッフから、「出た!姐さんのカナダ人いい人説。」とツッコミが入る。が、思った事がそのまま口に出るタイプだから仕方がない。いろんな国に行かせてもらっているけれど、先進国でこんなに素朴で寛容な国民は珍しい。“マジであなた達と仲良くしたい”っていう気持ちが優しく伝わって来て感動する。 

今回の大陸横断列車カナディアン号がパシフィック・セントラル駅を滑り出した時から、乗務員の皆さんが、お客はもちろん、我々クルーも心から歓迎してくれるのがとても嬉しい。 豪華でクラシックな24両編成のカナディアン号。最後尾のシルバー&ブルークラスの車両を担当している、ビックママの風格漂うダイアンが、人懐っこい笑顔でエレガントな前菜とシャンペンをサーヴィスしながら、「日本のドキュメンタリーTVクルーが乗っているんですよぉー。」とサロンカーの乗客にアナウンスしてくれていた。おっいいタイミング!っと、「私たちデース!」と撮影しながら入っていくと、豪華なラウンジカーは、アメリカ老人団体客ご一行様で満席。「Oh〜」どよめきとともに、デジカムでパシャパシャ写真を撮られてしまった。旅が始まった高揚感で、皆様すでにノリノリ。日本のどこから来たのか。そのカメラは何kgか、この番組はどうやったら見られるのか、等々質問攻めにあう。(いつものパターン)。

列車は全長655mの巨体を大蛇のようにくねらせながら、山間を縫うようにカナディアン・ロッキー山脈のまっただ中へと進んでいく。展望車は天井部分も窓になっているから、雄々しい山脈が覆い被さる様で迫力満点。前方の雲の切れ間に最高峰のマウント・ロブソンが迫って来る。ダイアンが「マウント・ロブソンは1年で12日しか快晴はありません。殆どの場合は、山頂が見えないよのー。」と、皆を益々どきどきさせる。列車は蛇行走行しているので撮影チャンスはわずかしかない。車窓には乗客がカメラ片手にびっしり張り付いているが、あたしだってばっちり撮影したい。心臓ばくばく。何とか山頂が見えますように! 頭を左右に振りながら必死に山頂の方を見ている乗客の顔も撮りつつ、マウント・ロブソンへ渾身のパン。見えたぁー!沸き立つ雲の合間に青空を背負ったマウント・ロブソンの輝く山頂だぁ〜。撮ったどぉー!車内に歓声があがる。車窓に広がるカナディアン・ロッキーの雄大な景色は何と言ってもこの旅のハイライトの1つ。天候不順で見えない事も有るから、車窓から撮影できたのは、大きな収穫だった。ダイアンも嬉しそうだ。乗客の中には、長年この列車の旅に憧れていた人が何人もいた。その気持ちがよく分かる。まだ始まったばかり。この山脈を越えれば、国立公園の街ジャスパーが待っている。
 
撮影 馬場 宏子
雄大なカナディアン・ロッキー
ロッキーの鉄橋を渡るカナディアン号
ロッキーの車窓を楽しむラウンジカーの風景
「カナダ車窓撮影日記4」

ドライバーズ
番組では駅の周辺にある名所や人々の暮らしぶりも大事な要素なのだけれど、列車を途中下車したら、そこからは現地のドライバーが新たにスタッフに加わる。ジャスパーでのドライバーは、ザ・ナチュラリスト、テリーとスタンだった。どちらも国立公園のライセンスガイド兼プロドライバーで、恐ろしく目が良かった。へら鹿、ビッグホーン、エルク、等々国立公園に生息する野生動物を撮影するには、強力な助っ人である。更に言うなら、スタンは地元の電話会社の技術者(家庭の電話取り付け工事)でもあるから、車を運転していると、街のあちこちで声を掛けられ、われわれスタッフの地元感もぐっと増す。(旅人は現地人に声を掛けられると嬉しいものです。)

マリーン湖で水面に映る冠雪した美しい山々を撮影していた時、冬なのに半袖半パン姿のスタンが、突然「ビッグホーンだぁ!」と双眼鏡をのぞきながら叫んだ。サファリパークじゃないから、野生動物とは簡単に遭遇しない。見つけたら絶対撮影しないといけない。「どこぉー。」肉眼で探すが全く見えない。スタンの指さす方向にレンズを向けると、虫みたいな白い点々が見える。「滅茶苦茶遠いよ。あんな遠いのよく見つけるよな。」と感嘆する。次のお題はビーバー。探し歩いたが、なかなか見つからない。“日が有るうちはムリだろう”と誰もが諦めてかけていたその時、スタンが声を殺して、「こっちこっち!」と手招きした。やはり野生動物を探すには知識と経験がモノを言う。夕暮れのちいさな池でビーバー親子が小枝をくわえて岸と巣を何度も往復している。“家”の増築工事をやっているのだ。「めっちゃ健気やなぁ」撮影するにはかなり厳しい条件ではあるが、働き者のビーバーに感動して撮り続けた。

次の日はテリーが来た。珈琲は飲まずハーブティーが好き。肉も食べない“100%ナチュラル”という感じの女性で、運転技術も素晴らしい。列車を風景の良いポイントで待ち、併走しながら撮影する、いわゆる“併走カット”は列車の速度や周りの交通状況、私のカメラワークなどタイミングが大切で、空撮のパイロット同様、カメラマンがその時撮っている映像をイメージ出来る人と組むと上手くいく。テリーにどういう映像を撮りたいか事前に説明すると、一言「オッケー!」事実、併走撮影はさらりとオッケーだった。気分上々。 
ロケ地でのドライバーとの出会いもまた、楽しみのひとつなのです。
 
撮影 馬場 宏子
ジャスパー国立公園
ロッキーのビッグホーン
ロッキーを疾走するカナディアン号
「カナダ車窓撮影日記5」

「コリドー」
9月29月、大陸横断鉄道カナディアン号の取材を終えて、「コリドー」と呼ばれる東部近距離特急の取材に入る。「コリドー」は「回廊」という意味だが、カナダではウィンザーからケベック・シティにかけての交通の要衝ルートを表している。大陸横断鉄道カナディアン号に比べれば路線も短かいし、ローカルな路線であることは否めない。それでもトロント、オタワ、モントリオール、ケベック・シティとカナダ東部の主要な大都市を繋いでいる。

乗客は地元のビジネスマン・ビジネスウーマンが多い。車内の雰囲気は、日本の新幹線(それも平日の)に近いかもしれない。本を読んだり仕事をしたり、皆、黙々と自分の時間を過ごしている。ファーストクラス(VIA1)の車両で自分の席に「車内食」が配られる点は、新幹線と少し違うけれど。興味深いことにファーストクラスの車両の乗客にはかなりのインテリ層が多かった。警察幹部だというキャリアウーマンや弁護士の中年男性、IT系の会社社長や大学の先生など。変わりダネとしては「カナダ版・詩のボクシング」とでもいうべき詩の朗読大会に出場した詩人の若い女性。自作の一篇を読んでもうおうとお願いしたのだが、シャイなのか面倒だったのか、やんわりと断わられてしまった。かなりの美人だったのでどんな詩を作るのかとても知りたいところだったが、残念!(笑)。

コリドーはカナダの東部地域の中を南西から北東に走っている。今年のカナダは秋の訪れが遅く、10月に入ってもまだかなり暖かい。出発前は「紅葉」をメインに撮影してきてほしいとのことだったが、まだ夏の盛りといった感じ。さて、困った。北上しながらの取材、路線のほぼ中間地点であるモントリオールでは10月6日で何と摂氏28度、(ちなみにモントリオールは北偉46度、日本の稚内とほぼ同じ。)町行く人たちもTシャツやノースリーブ姿だ。紅葉はちらほら目にするが、撮影するには及ばない。目につくのはそこかしこに掲げてある国旗の中のカエデばかり。そういえばユニ一クなものを見つけた。何かといえばマクドナルドのロゴマーク。日本でもおなじみの赤地に黄色の「M」マークだが、実はカナダのロゴマークだけちょっと違う。Mのロゴの中央部に凄く小さくカエデの葉っぱ(そう、国旗のやつ。)が、鎮座しているのだ。(カナダヘお出掛けの際はぜひご確認下さい。)ともかく、清らかな雪のイメージが強いカナダだが、今は雪はどこにも見当らない。
 
ディレクター 松永 清史
東部近距離特急 コリドー
メープル街道を駆け抜けるコリドー
車内で出会った3歳の少女
「カナダ車窓撮影日記6」

「ハドソン・ベイ号」
コリドーの取材を終えて、再び大陸横断鉄道カナディアン号の中間地点でもあったウィニペグへ。この駅から今度は北の町チャーチルに向かうハドソン・ベイ号に乗車する。チャーチルでは“ポーラー・ベア( 白クマ)”を撮影する主要命題。聞くところによればチャーチルは「ツンドラの町」と呼ばれ、地中には永久凍土が続いている。古くから毛皮貿易の港町として栄えたのだけれど、近年は野生の白クマを観察する“ポーラー・ベア・ツアー”なるものが大流行。人口1000人の小さな町は観光客でにぎわっている。春から秋の暖かな時期には白クマが食べ物を探し に町中をうろうろするらしい。
「クマさんに食べられませんように」と祈りつつ、ハドソン・ベイ号に乗車。2泊3日の行程だ。出発時間が夜の9時だったということもあり、車窓にはしばらく闇夜が続く。だが、目を空に転じれば、星が美しく瞬き、 清冽な夜気の中を行く我らがハドソン・ベイ号はさながら「銀河鉄道」だ。

更に幸運なことにトンプソンという途中駅では何とオーロラを見ることが出来た。エメラルド色の帯が天空で舞う自然の芸術。とても寒かったけれど、撮影の間、スタッフは息を飲んで見守っていた。絶景にしばし旅の疲れを忘れる。僕らが到着すると地元紙の記者と地元局のTVディレクターが待ち構えていた。ステーキハウスで夕食をとりながら取材を受ける。(実のところ僕らって自分 たちが取材されるとなると、からきし駄目なんです。緊張してしまって・・・(笑))翌日の撮影には件のディレクター氏もロケ車に同乗、僕らの一挙手一投足をカメラに収めていた。彼の番組はその後、DVDに焼かれて送られてきた。3分ほどの小片ニュースだが、カナダ全土で5回も再放送されたことを考えると汗顔の至り。でも自分の仕事が客観的に見られたのは面白かった。タイトルは「ジャパニーズ・トレイン・ハンターズ」!・・・・ちょっとカッコイイでしょ?!かくしてトンプソンを後にした我々は白クマの町チャーチルへ。

チャーチルの第一印象は「小さな港町」。そこらかしこに白クマのイラストや像を見かける。白クマは寒くなって海に氷が張ると沖へ出てアザラシを捕まえるので飢えから解放される。つまり他の野生動物とは逆で、暖かいシーズンの方がお腹を空かせているのだ。とても危険なので24時間体制の“白クマパトロール”が毎日町中を巡回している。実際、僕らが到着する数日前にもゴミ置き場に出現する事件があったそうだ。町中の至るところに「ポーラー・ベアにご注意」の看板も目にした。
 
ディレクター 松永 清史
カナダ北部のツンドラ地帯
トンプソンのオーロラ
チャーチル駅とハドソン・ベイ号
「カナダ車窓撮影日記7」

「SL搭乗記」
10月2日、長距離の鉄道取材が続いていたが、今回は小さな蒸気機関車に乗る。オタワ郊外にあるガティノーという小さな駅から観光用の蒸気機関車が運行しているのだ。その名も「ハル・チェルシー・ウェークフィールド蒸気鉄道」。沿線にある3つの町名を合わせて鉄道名にしている。5月から10月の間だけ、観光列車として30キロほどの道のりを往復する。機関車の整備や運転、乗客の世話から切府の販売まで、全てに渡って地元のボランティア達が運営に当っている。この蒸気機関車はスウエ一デン製。1907年に造られ、石炭でなく石油を燃料として走る珍しいタイプ。実は第2次大戦後しばらくの間、母国スウェーデンではお役目ご免になり倉庫に眠っていた。それをこのオタワ州で買い取って観光用に走らせたのだ。100歳のご老体とは思えない現役ぶりはやはりボランティアの人々の愛情のなせるわざだ。

取材日は朝早くから蒸気機関車を見たい、乗りたいという家族連れが大勢やってきていた。面白かったのは赤ちゃんを抱いた若いお父さんが大勢いたこと。ママ達はパパに子供を預け、束の間の骨休めといったところか。発車前、車内では小さな子供たちを退屈させまいと塗り絵用のクレヨンと画用紙が配られる。さて、いよいよ楽しい旅の始まりだ!

 午前8時30分、ゆっくリとガティノー駅を出発する。気温18度、快晴。列車は色付き始めた木々の間をゆっくりと走っている。乗客にとっては最高の休日となりそうだ。カナダでもこの辺りはフランス語圏で、乗務員兼ガイド役のボランティアは、最初にフランス語で説明した後、同じことを英語で繰り返す。車内では、これもボランティアの高校生がギターを奏で、フェイスペインターの女の子が無料で子供達の腕や顔に蝶々や花のぺイントを施していく。もう大人も子供も大喜びだ。ボランティアの学生達のほとんどが、自身も幼い頃にこの観光列車に乗っていたという。小さな小さな鉄道だけれど、皆で大切にしている思いが伝わってきて何だか嬉しくなった。時速20キロほどで走る列車の頭上には晴れ渡る秋の空が広がっている。ゆっくりと森の中を走る心地良さはこの上ない。仕事とはいえ、すっかり満喫してしまった。
 
ディレクター 松永 清史
ハル・チェルシー・ウェークフィールド蒸気鉄道
蒸気鉄道車内の親子
紅葉と湖の風景を走る蒸気鉄道
「カナダ車窓撮影日記8」

「マラハット号は地元の足」
10月16日、カナダ中部の路線の撮影を終えて、今度はバンクーバー島のビクトリアに入る。カナダ西岸のバンクーバーに、ジョージア海峡を挟んで向かい合うようにしてあるのがバンクーバー島。そして島の中心都市が人口34万人のビクトリアだ。ブリティッシュ・コロンビア州の州都でもある。ビクトリア女王からその名を冠した都市だが、やはりイギリスの植民地だっただけあって英国調の瀟洒な建物が美しく建ち並ぶ。風光明媚な佇まいに毎年大勢の観光客が魅了されているようだ。(1つ気付いたのだけど、カナダって女性受けするみたい。人種を問わず観光客の大半が女性だ。そういえば町並みも自然もどこか優美で女性的な気がしませんか・・・?)

ビクトリアの町の一角に、バンクーバー島を縦断するマラハット号の始発駅がある。キヨスクと見間違うばかりの東屋風の小さな駅舎。1日にわずか往復1本しか走っておらず、しかも列車はたったの1両編成。おそらくは赤字の路線・・・。でも地元の人たちにとっては大切な「足」だ。この日は時折り雨が降るあいにくの天気。秋も深まり、線路の上の濡れ落葉がもの哀しく見える。もうすぐカナダの撮影も終わる。身体は疲労で限界ギリギリだが、旅の終わりに惜しむ気持ちが募るのはいつもと変らない。

番組の中には盛り込めなかったのだけれど、印象に残る出会いが2つあった。
1人は、年老いた母親と一緒に住む家を探しているという40代後半の未婚の白人女性。昨年まではバンクーバーの会社でバリバリ仕事をこなしてきたいわゆるキャリアウーマンだったが、母親が年老いてきたので面倒を見るために田舎での同居を考えたという。それまでの仕事も辞め、この地を選んだとのこと。「これからは母と2人でゆっくりと田舎生活を楽しむわ」明るくそう語る彼女の親孝行ぶりと潔さに僕は少し感動してしまった。
もう1人は少し淋し気に座っていた30代の韓国人女性。話しかけると少しはにかみながら答えてくれた。彼女はビクトリアの英語学校に通っていて、母国を離れ、少しホームシックだという。2、3分インタビューを撮った後、「良い旅を」とお別れしたのだが、彼女が追い駆けてきて何か包みをくれた。見るとジップロックに入った手造りの稲荷寿司。「僕たちに?」微笑んでうなづく彼女。せっかくなので有難く頂戴する。彼女の孤独と優しさを思い、胸の辺りが熱くなった。僕らの仕事は正に一期一会なのだけれど、だからこそ素敵な出会いを大切にしたいと思っている。これでカナダの旅は終るけれど、いつか必ず、またカナダに来たいなぁ。
 
ディレクター 松永 清史
ビクトリアの街並み
ビクトリア駅のマラハット号
終点コートニーへ向かう女性
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フランス編撮影日記
フランス編の撮影日記が、中村ディレクターから届きました!
スウェーデン・ノルウェー編撮影日記
スウェーデン・ノルウェー編の撮影日記が、狩野ディレクターから届きました!