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アメリカ・カナダ篇撮影日記
「アメリカの旅 撮影開始」

 車窓のロケでは、いつも最初に列車に乗る日が一番緊張する。カメラを向けたときの人々の反応は、国によってそれぞれ違う。だから一番はじめの乗車日は、その国では乗客とのあいだにどれくらいの距離をとればいいのかを計りながらの撮影となる。今回の旅の始まりはニューヨーク・ペンシルベニア駅。ここからボストンへ向かうアムトラック版新幹線、アセラ急行に乗るのだ。ボストンまは3時間半。平日の朝ということもあって、目につくのはビジネス客の姿ばかり。座席に落ち着くとさっそくパソコンを広げ、書類に目を通している。車内に子供の姿はほとんどなく、わいわい家族旅行なんて光景は皆無。旅情漂うとはとても言えない雰囲気である。これは、さぞ撮影も難しいのでは…と不安になる。

車内の乗客を撮影するときのアプローチには、2通りある。1.カメラを構えながらニコニコと(大きなカメラで顔が見えなくても、あくまでもニコニコと)近づき友達になりながら撮影する。2.カメラを構えずにニコニコと近づきまず友達になってから撮影する。アメリカでは当然後者の方法がとられるわけだ。個人主義、権利意識の高いこの国で、いきなりカメラをむけたのでは、相手の気分を害して喧嘩になったり、下手をすると訴えられたりするかもしれない。

さて、緊張の中、車内の撮影開始。「こんにちは。撮影してもいいですか?」と笑顔のアプローチ。「ノーサンキュー」と恥ずかしがる人もいたけれど、たいがいの乗客は撮影の趣旨を説明すると快よくOKしてくれた。自然に今していたことをしていてくれればいいのですから…じゃ、失礼して…とカメラをまわす。するとみんな、われわれなどいないかのようにパソコンに向かい、本を読み、コーヒーを飲みはじめる。本当に自然なのだ。ちょっとの愛想もない。カメラを置いて「サンキューベリーマッチ」とお礼をいうと、そこでニッコリ「ユアウェルカム。」ああ、その笑顔!本当はそれをカメラの前で見せてほしかった…。でも、そうなのだ。彼らの多くはニューヨーカーやボストニアン。洗練された都会人。カメラの前に立ちはだかって「ハーイ、ママ!見てるー?」なんて手を振ったりはしない人たちなのだ…。これもまた素顔のアメリカなのだ。

ディレクター 森重直子

車窓から見えるニューヨークの街
ボストンに向かうアセラエクスプレス
「ダウンイースター号の旅」

 今回の車窓アメリカロケの準備が始った当初、受け取ったコース案には、ニューヨークからボストンを経てメイン州ポートランドまでとあった。「ポートランド?そんな所に客車は走ってません!」これまでの車窓ロケで集めた膨大な資料の中から、以前使ったアムトラックの沿線ガイドを見ながら思わずそう叫んでしまった。訝る私の横で、岡部プロデューサーはトーマスクックオーバーシーズ(時刻表)の最新版の地図を見て「ここに書いてあるでしょう」と冷静に答える。ほんとだ。線路は続いている...。よくよく調べてみると、ボストン・ポートランド間は、2001年に出来た新しい路線。驚いた!アメリカ国内の交通手段として、鉄道はとてもメジャーとは言えない。アムトラックの運行路線は減ることはあっても増えることなどないと思っていた。びっくりした...!数年後にはさらに東へと延びる予定らしい。線路は続くよどこまでも...。

そのボストン―ポートランド間を走るダウンイースター号に乗車した。メイン州といえば、自然豊かな森と海岸線が続くリゾートとして有名なところ。ダウインースター号の開通で、ニューヨークやボストンからはさらに手軽に行ける場所となったようだ。夏場は避暑客で混み合う列車も、今はオフシーズン。それでも、のんびりと旅を楽しむ人々でそこそこ席は埋まっていた。ボストンからポートランドまで3時間弱。ドライブはちょっと疲れるが、列車だったら十分に日帰りができる距離だ。乗客たちの中にも、観光や買い物を楽しんで、夕方の列車で帰路につくという人たちが多くいた。

そんな乗客たちの中でも、最もこの列車の旅を楽しんでいたのが、ある幼い兄弟。二人並んで窓ガラスにおでこをこすりつけながら、外の景色に見入っている。微笑ましい光景である。あんまり夢中になっていて、カメラがすぐ横に構えていても、まったく気がつかないほどだった。7才になるコール君と5才のクレイ君。パパ、ママと一緒にポートランドへ向かうところ。今年のハロウィーンの仮装は、列車の運転手。クリスマスに欲しいのは、アムトラックのモデルトレインという鉄道大好き兄弟。飛行機は数百回(!)も乗ったけど、列車の方が絶対楽しい!でも、飛行機もジュースがたくさん飲めるからやっぱり好きなんだそうだ。大きくなったらなにになる?とお決まりの質問をしてみた。答えは、運転手になるか、線路を作る人になるかまだ決めかねているとのこと。その夢、どうぞいつまでも大切に持っていてね!

ディレクター 森重直子
ポートランドの灯台
ニューイングランド地方を走る
「蒸気機関車で山を登る」

車窓のロケは、まずスケジュール作りから始まる。今回のロケのスケジュールを作る時、どうしても蒸気機関車の取材をひとつ入れたかった。アメリカ東部にもたくさんの保存鉄道があるのだが、10月おわりのこの時期に走っているものはほとんどない。
やっと見つけたのが、ニューハンプシャー州の山中にあるマウントワシントン・コグ鉄道。ニューイングランド地方の最高峰マウントワシントンへ上る世界一古い歯車式登山鉄道だ。山頂へ登る鉄道の今シーズン最後の運行日は11月最初の日曜日。やった!これこれ!この日で決まり!!!

前日からくずれ始めた天気は、取材当日には大雨となった。まさかこの悪天候で運休なんてことは...と不安を抱きながらも麓の駅へ。雨の中シュクシュクと蒸気をあげるSLたちの姿にひと安心。次々と集まる観光客の姿にふた安心。役者はそろった。
さあ、山を登るぞぉ!...でも、やはり足りないものがひとつあった。それはお日さま。それさえあれば、きれいな景色もついてくるのだが...。

標高822メートルの麓の駅から1917メートルの山頂まで、ほぼまっすぐに敷かれた線路を登るコグ鉄道。木造の客車1輛を小さな蒸気機関車が線路の間の歯車を頼りに後ろから押し上げて行く。ガタゴトとよく揺れる。標高があがるにつれ、沿線の木々はどんどんと低くなり、山頂近くでは木も生えない岩ばかりの景色となる。そして、麓で降っていた雨は、細かい霧となり車窓を包み込んでいた。ほんとうなら、遥か彼方の海までも見渡せるという絶景がそこには広がっているはずなのに、この日の車窓は白一色。なかなか幻想的ではあるのだが...。それでも、観光客はめったにないこの経験を十分に楽しんでいるようだった。

コグ鉄道は、山頂の駅で15分ほど停車する。客車から一歩外へ出ると、細かい雪が吹雪いていた。地面はツルツルに凍り、歩くのも容易じゃない。濡れた髪はあっと言うまに凍りつき、冷えきった手は感覚がない。まるで、瞬間冷凍されたようだった。
もちろん山頂からの眺めなど望めるわけもない。カメラをかまえても、何も写らない。早々に退散、客車内へ逆戻り。そしてじんわり解凍。髪からは、ポタポタと雫が落ちはじめる。残念無念。これは、今後のスケジュールをやりくりして、天気のよい日に再度撮影に来なくては。で、次ぎの運行日は...?えっ...!来年の5月...?!?
!うーん...。

ディレクター 森重直子
コグ鉄道 歯車式軌道
山頂を目指して走る蒸気機関車
「ロケは命がけ」

ま...またか...。地図を手に車で走りまわりながら線路を探すロケ隊を、おなじみの看板が邪魔をする。撮影では、列車内部を撮るのと同様に、列車の外観を撮るのが大切なのだが、今回はその列車が走る姿を撮るのに苦労している。車の方向を変え、気を取り直して別の場所へ。時刻表を再確認。列車通過の時刻が迫る。ああ、どこへ行けばいいのだ?と気持ちは焦ってくる。このくり返し。

その看板とは、「PRIVATE PROPERTY(私有地)」と「NO TRESPASSING(侵入禁止)」の2つ。アメリカとカナダの郊外では、そこら中で目にする。我々が目指す沿線のグッドポジションは、必ず「誰かの土地」なのだ。勝手に入ったりしたら何がおこるかわからない。訴えられるか、銃で撃たれるか...。アメリカロケ中に、まわりに住宅のない林の中へ入ったことがある。小川の向こうに、線路があったのだ。看板はなかった。なかなかいい場所だった。でも、コーディネーターのジュリエットにとっては、今や思い出したくない場所だろう。ひとり林の中に立っている時に、突然どこからともなく現れた犬連れの男に「俺の土地から今すぐ出て行け!」とすごまれたのだ。
どう猛そうなシェパードは今にも飛びかかりそうだったらしい。そして、その男のポケットには「絶対銃があった」と彼女は言う。

情況はカナダに入ってもあまりかわらない。モンクトンから車を走らせ、オーシャン号の走る線路を探していた。見つけた場所は、車もあまり通らない田舎道と林に挟まれて線路が走っているところだった。看板もない。やった!列車の通過まで、あと1時間近くもある。ロケ隊は、時間までのんびり車の中で待機することに。

一台のピックアップトラックがスピードを出して通り過ぎたのを、誰もそれほど気にしなかった。それから10分ほどたった頃、同じトラックが戻ってきて、我々が車を寄せていた場所から道を挟んだところに停まった。あたりには何もない。暇を持て余していた我々の目は、自然とそのトラックへ集中する。男が降りてきた。一同凍りつく。まさか!そんなわけは...!男の手にはライフルが握られていた。車のドアを閉め、つかつかとまっすぐこちらへ歩いてくる。ちょっと待ってー!!一同凍りついたまま。男はどんどん近づいてくる!次ぎの瞬間、男はちらりと我々を見てたが、そのまま横を通り過ぎて行った。狩りの獲物は我々ではなかった。ほっとすると同時に、押さえられない好奇心でカメラマンの中村氏と私は車を飛び出し彼の後を追った。何を撃つのか知りたかったのだ。「鹿だよ」と答え、彼は線路の向こうの林へと消えていった。

それにしても、びっくりした。でも、ただの鹿撃ちに行くところを、突然車から飛び出してきた東洋人に追い掛けられた男性も、ちょっとびっくりしたかもしれない。
ディレクター 森重直子
寒さに耐えながらカメラを構えるスタッフ
撮影に苦労した列車の走る姿
「白骨死体発見」

前回のロケ日誌でもわかるように、アトランティックカナダを走るオーシャン号の沿線は自然がいっぱい。野生動物も多いらしい。線路沿いに撮影場所を探していた時、列車に轢かれた狼がいた。私は実際には見ていないのだが、技術の市川さんの報告によると「犬じゃない何か=たぶんオオカミ」が無惨にも線路上に横たわっていたらしい。オオカミの絶滅した島国からやってきた私としては、ぜひ野生のオオカミが見てみたかったけど、目撃地点は線路沿いをずっとずっと歩いたカーブの先だった。でも、オオカミの絶滅した島国からやってきた市川さんの報告だから、ひょっとしたら「オオカミのような犬」だったのかもしれない。

ある日、いつものように線路沿いを歩いていると、まくら木の横に白骨を発見!いったい何の骨だろうと、近付いて観察。都会に住んでいると、目の前に骨が転がっていることはあまりない(あたりまえ)ので興味津々。辺りを見回すと、線路を少し下った草むらに白骨死体が!もちろん人間のではない。何か動物。それもかなり大きい。
骨格見本のように、きれいに並んでいる。撮影の中村氏とふたりでシカだ、いやヘラジカだと寒い中、熱い議論に。大きさ的にはシカなのだが、角の部分がヘラジカのよう。結局結論は出ず終い。しょうがないので(?)その横に三脚をたて、列車を待つことにした。

時折小雨がぱらつくどんよりとした曇り空のもと、列車を待ちながらもなんとなく足下の骨が気になる。あまりにもみごとな「骨」の形なので、ひとかけらぐらい愛犬のお土産に持って帰ろうか。いや、それはやっぱりまずいだろう。カナダロケのお守りとしてちょっと持って歩こうか。でも、撮影終了後にその辺に投げ捨てたら、やっぱり祟られちゃったりするかなぁ。それにしても、この天気、列車が通過する時だけでも晴れてくれないかなぁ。

列車は予定時刻をだいぶ遅れてやって来た。と同時に小雨が止み、雲間からほんの少し日が差した。おおっ!これは謎の骨のパワーか!(と、勝手に思った。)

列車が通り過ぎ、カメラのスイッチをオフにした途端に骨のことなどすっかり忘れ、急いで道路で待つロケ車へと戻った。
しかし、それ以来、曇り空の下での撮影では、なんとなくあの「骨」のことを思いだしてしまう。太陽が顔を出しますようにと祈りながら、頭の中で「シカノホネ、シカノホネ...」。

不思議なシカ(たぶん)の骨は、きっと今もあの草むらに横たわっている。
ディレクター 森重直子
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オーストリア篇撮影日誌
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インド篇撮影日誌
インド編の撮影日誌が、狩野ディレクターから届きました!