戦評
恩田が3位、澤田は5位 第5戦ロシア大会。世界を席巻する日本女子シングル勢、その底力を見たような大会だった。登場した恩田美栄、澤田亜紀とも、第一戦で表彰台に上がれず、今期のファイナル進出は難しくなった選手。ロシア大会でも、ショートで恩田6位・澤田7位と振るわず、日本勢連続表彰台記録は4戦で途切れるか、と誰もが肩を落としてしまう。しかし2選手のフリーでのがんばりには、目を見張るものがあったのだ。ミステリアスな雰囲気の漂う「レッド・ヴァイオリン」を滑ったのは恩田美栄。この日見せた柔らかな腕の動きも、拍手がもらえるようになったスピンも、もともとは彼女の武器ではなかったものだ。ジャンプに誰よりも大きな誇りを持ちつつ、ここ数年の海外トレーニングで基礎から身に付けなおしたたくさんの新しい武器が、恩田美栄にはあった。ショートの不本意な結果にめげることなく、グランプリシリーズ最後の演技で、落ち着いて、持てる力を出せたのは立派。大きく持ち直したフリーは2位で、総合3位。見事、日本勢連続メダルの記録に貢献してくれた。 ショート7位の澤田亜紀も、フリーでは最高の笑顔を見せてくれた。前日は一番得意としているダブルアクセルで失敗。思わぬミスに落ちこんでしまいそうなところだが、この日はきっぱりといい感じに開き直った笑顔で登場する。得意のジャンプは、ショートの失敗を帳消しにするような勢いで次々と成功。スローパートはゆったりとプログラムを見せて、清潔でパワフルな澤田亜紀本来の魅力も全開だ。特にすばらしかったのは、後半、ジャンプを決めてパアッと華やいだ笑顔を見せたまま、のびのびと進んでいったストレートラインステップ。演技後見せた満足の表情は、中国大会では100%出しきれなかった可愛らしさで、見ているこちらまでうれしくなってしまう。シニアデビューしたばかりの今年、グランプリシリーズを2戦戦い抜いた澤田亜紀。知名度・好感度ともに急上昇中だ。 恩田美栄、澤田亜紀。ふたりは注目の第6戦・日本大会にもエントリーしていないし、ファイナル出場権も逃した。今期グランプリシリーズの主役ではなかったかもしれない。しかし主役をのぞいても、表彰台争いに絡める選手が何人もいる、日本女子のこの強さ。世界のスケートファンは、改めて彼女たちの底力に驚愕していることだろう。 女子シングルはこの大会、2位のユリア・シェベスチェン(ハンガリー)、優勝のサラ・マイヤー(スイス)の2選手がファイナル進出を決めた。ふたりともソルトレイクシティ五輪のころから第一線にいるベテラン選手。しかし浅田真央、キム・ヨナ、サラ・マイスナーなど10代の新鋭たちが注目を浴びるのに対し、少し元気がなさそう……と思われていた世代でもある。同世代の荒川静香らが引退し、コーエンなど欠場する選手も多いなか、小国だが長く国内チャンピオンの座を守ってきたふたり、スケートファンにはおなじみのふたり。彼女たちがこうしてグランプリシリーズで活躍してくれるのは、ほんとうにうれしいことだ。シェベスチェンはステップからの踏み切りも軽快なジャンプ、マイヤーは羽の生えたように軽やかな上体の表現など、得意な部分を着実に伸ばし、ベテランらしい安定感でグランプリシリーズを勝ち抜いた。一足先にファイナル進出を決めたキム、安藤美姫など、フレッシュな10代との対決が楽しみだ。 男子シングルではフランス大会に続き、ブライアン・ジュベール(フランス)が圧倒的な強さを見せて優勝。しかも4回転を1プログラムに3回入れるという、エキサイティングな勝利だった。4回転3回――これは、新採点システム施行前、4回転全盛期であっても、本田武史ほか数名が成功させたのみ。大技にチャレンジしにくい現システムでの成功は、ほんとうに4回転に自信がなければトライすることさえできないはずだ。ステファン・ランビエール(スイス)やジェフリー・バトル(カナダ)らに比べると、スピンやスケーティングの面で劣り、それが彼のチャンピオンへの道を阻むだろうといわれてきたジュベール。しかし、ここまで圧倒的なジャンプを見せ付けたことで、バンクーバーまでの男子シングルの潮流をも変えてしまうかもしれない――そんな勢いを見た。 文/Hirono Aoshima
結果 SP=ショートプログラム FS=フリースケーティング
【女子シングル】
【男子シングル】
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「元祖天才ジャンパー」恩田美栄の2戦目! 終盤にさしかかったフィギュアスケートグランプリシリーズ。今週は第5戦ロシア大会。上位6名のみが出場できるファイナルへの切符をめぐり、緊張感のある試合が続く。 白熱必至の女子シングル。「世界一」と称されるビールマンスピンをもつアリッサ・シズニー、中国大会ではまさかの7位となったが実力は世界屈指「ロシアの演技派女優」エレーナ・ソコロワ、「元祖天才ジャンパー」恩田美栄、パワフルなジャンプを武器とする澤田亜紀と日本VS世界、ますます加熱する!!! 男子は独特の優雅な雰囲気をもつ「ビールマン貴公子」柴田嶺がシニア2戦目に挑む。初戦となった中国大会では10位だったが、自分のスケートを取り戻せるかが浮上への鍵。「勝負師」エマニュエル・サンデュ、「4回転サイボーグ」ブライアン・ジュベール、「全米チャンピオン」ジョニー・ウィアーと実力者揃いの男子シングルからも目が離せない。 |