前の記事を読む 次の記事を読む  

 
 

Vol.71 「サンドウィッチ日和」(2008/11/03)

10月25日(土)
早起きして、朝食にサンドウィッチを作る。
バゲットをトーストして、キャベツを千切りにして、お取り寄せの焼き豚を挟んで…。
ピクニックではなく、極めて個人的な、サンドウィッチ日和。
お笑いコンビ、サンドウィッチマンの単独ライブの日だ。


伊達みきおさんと富澤たけしさんがコンビを結成して、今年で10年目。
去年、漫才日本一決定戦『M-1グランプリ』で優勝して以来、
各局のバラエティ番組で活躍されている。
以前、担当していた深夜番組『虎の門』でご一緒したことがあった。
何組かの若手芸人さんたちがネタを披露するコーナーで、
「僕らもう若手じゃないんで…」としきりに繰り返していた。
生放送終了後、午前3時。
車輛用の出口で、渾身のネタを披露しきった芸人さんたちを見送る。
他の皆さんより、いささか貫禄のある二人のお腹。
丸まった背中に「お疲れ様でした」と声をかけたら、
心配そうに「…加齢臭、してなかったですか?」
その年の末、彼らはM-1王者に輝いた。

熱気に汗だくになりながら、ぎゅうぎゅうの客席から舞台を見つめる。
ぷっと吹き出す。そのうち堪え切れず、手を叩いて笑う。
でも途中から、逃げるように車輌出口を後にする、丸まった後ろ姿を思い出した。

「何だか涙が出てきました」
終演後。楽屋に伺ってご挨拶した後、レーズンサンドの入った紙袋を差し出す。
「いやいやいや。お笑いライブですから、笑って下さいよ!」
そう言って、缶コーヒーを下さった。
「村上さん飲まないかもしれないけれど…よかったら」

ライブ会場を出て、缶コーヒーをおでこにあてながら、夜の新宿を歩く。
“仕事と家庭”とか、“上司と部下”とか、“理想と現実”とか。
挟まって、押しつぶされるよりも…そうだ。
笑った方がいい。


(「日刊ゲンダイ 週末版」11月3日発刊)
   
 
 
    
前の記事を読む

次の記事を読む