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Vol.66 「カレーパン」(2008/07/21)

チューリップが切断された道路脇。白鳥が殴り殺された湖畔。

週末に現場に出て、2年が経つ。
担当している夕方ニュースが17:30に始まるので、限られた時間内での取材だが、
都内だけでなく群馬や茨城へ出向くこともある。
取材クルーは、カメラマン、カメラ助手、アナウンサーの3人。
到着したら、瞬時にリポートの構成を考える。
とは言っても、昼夜問わず取材に出ているカメラマンに助けてもらってばかりいる。

「村上さん、走って!」
「はい!」
「あっち、煙のにおいがするから!」

火事が起きた住宅地。
約8kgのカメラを担いだ彼の後を、ハンドマイクを持って追いかける。


30台以上ものカメラが置かれ、
総勢150人の技術スタッフが待機するテレビ朝日の取材部は、
おそらく社内一ハードボイルドな職場だ。
ソファには、徹夜明けのカメラマンがうつ伏せになったまま動かない。
恐る恐る起こして声をかけ、またしても次の現場へと向かう。

「村上さん、先週末さあ、宇都宮まで行ってなかった?」
「そうなんですよ、新幹線の扉が目の前で閉まりかけて、危うく乗り遅れそうに…」

以前から気になっていたのは、食事のことだ。
取材に出るのは、昼時であることが多い。

「あのう、お昼はまだですよね?」

いつ何が起きるか分からないので、決まった時間には落ち着いて食べられない。「それが仕事なんだからさ、気にしないでよ」菓子パンをほおばりながら、
気づいたら車の窓を全開にして既に煙草をぷかっと吸っている。


先日、副都心線が開通した時。
取材場所である新宿三丁目駅には朝4時に集合した。
せめて朝食はと思い、前日に評判の店のカレーパンを用意して車に乗り込む。

「ええと、これが激辛でしょ、こっちは揚げていないやつ…」
「村上さん…」
「あ、もしかして辛いの苦手ですか?」
「お母さんじゃないんだからさあ!」

水筒にはルイボスティーを用意していたのだが、ちょっと言い出せなかった。


(「日刊ゲンダイ 週末版」7月21日発刊)
   
 
 
    
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