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Vol.63 「クレヨン」(2008/04/21)

小学一年生の時に書いた「えにっき」が出てきました。
全てにおいて大胆です。
内容、文字、そして色使い。


1985.7.21.〜8.29.

懐かしい気持ちになりながら、今回は、色の話。


7/22 プール


8/2 ピアノのおけいこ


8/26 シンデレラじょう


7/23 はなび


8/21 おまいり


8/28 くつうりば

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しろ、きいろ、きみどり、みどり…。
長細い箱の上に目を滑らせて、色彩のグラデーションを奏でる。
「懐かしいでしょう」
振り向くと、作業着姿の工場長が立っていた。
「新品のクレヨン、久しぶりに見ました」
嬉しくなって、そう答える。


番組のロケで、茨城県の文房具工場を訪れた。
広大な敷地内では、絵の具やクレヨンが大量生産されている。
「大きなタンクの中にね、それぞれのカラーインクが入っているんですよ」
昔、クレヨンで描いた夏休みの絵日記が、頭の中でめくられていく。
ひまわりの黄。かき氷のシロップの赤。
箱の蓋に描かれた、向き合う男の子と女の子のイラストにも、見覚えがあった。
「この子たちはね、時代に合わせてちょっとずつ変わっていてね…」
1955年の発売当初、丸刈りとおかっぱだった二人の髪型は、
その後、マッシュルームカットとポニーテールに変わったらしい。
かつて、祖母が奮発して買ってくれたのは、50色のクレヨンだった。
学校で使っていた12色入りにはなかった「みかんいろ」や「レモンいろ」に、
胸が高鳴った。

「最近は、なかなか売れなくなってねぇ…」
工場長によると、少子化に加えて、ゆとり教育の影響もあってか、
図工の授業数が極端に減っているそうだ。
「入学した時にクレヨンを一式買ったら、
卒業するまで買い換えない子どもがほとんどだから…」
そう言って、力なく笑った。


色。
さっきの工場長の、寂しそうな顔。(はいいろ)
タンクに差し込む西日。(みずいろ、うすむらさき)
敷地内の葉桜。(ももいろ、うぐいすいろ)
顔色、陽の色、花の色。

色彩に満ちた日常に、一色ずつをのせていこう。
季節が染め上げた風景に、思いを重ねて塗っていく。

(「日刊ゲンダイ 週末版」4月21日発刊)
   
 
 
    
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