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Vol.60 「恵方ま記」(2008/02/18)

三月ですね。
少しずつ春めいてきたような。

桃の節句は、何かと忙しなく、お祝いし損ねました。
逆に、先月(↓)は、張り切りすぎました。

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避けて避けて、29年。
鬼でなくとも逃げ出したい時節は、節分だ。

今や、豆まきに並んで全国区となった恵方巻き。
福を呼ぶ「恵方」に向かって黙々と太巻きを頬張ると、
願いが成就するという風習だ。
私は、お寿司が全く食べられない。
酢が苦手で、つんとするあの匂いを少しでも感知しようなら、
息を止めて足早に立ち去ってしまう。


「今年もやるよー、恵方巻き取材!」

報道デスクは既に、気合十分である。
去年は、「変り種恵方巻き」と称して、
ロールケーキのまるかぶりを提案したのだが、
さすがに同じ事をやる訳にはいかない。

「実は私、お寿司が…」

恐る恐る告げると、「酢抜きで作ったらどう?」。
とは言え、触れた記憶のない太巻きの作り方など分からず、
この日から猛練習が始まった。
まず、巻き簾と寿司海苔を用意する。
具には、卵焼き、カニ風味かまぼこ、ほうれん草の胡麻和えを。
まな板に巻き簾を広げ、海苔を敷く。
白米をさっくり混ぜて冷ましてから、海苔の上に手早く広げる。
中央に具を少しずつ乗せて、一気にぎゅううっと巻いて…。
数分後。断面を見ると、見事に具の片寄った雪崩巻き。
それからは、3日3晩、我が家の食卓にはいびつな渦巻きたちが並んだ。

一日目。
思い切り右に寄っています

二日目。
お、だんだん…
三日目。
カタチにはなってきた?  
.

節分当日。東京には雪が降った。
取材先の神社で配られた恵方巻きは、明らかに小ぶりの大きさだった。
あ、そうだ。これを、完食するのだった…。
片や、白米1.5合を炊いて持参した恵方巻き3本(2本はお弁当用)はずしりと重く、
さながらダイナマイト。
神主さんの一声で、一同無言で食べ始めるも、
私の太巻きだけは一向に減らない。
自宅ではまるかぶりせず、一口サイズに切っていたのが大きな誤算だった。

2分間。

睫毛に、雪が積もる。最後は丸呑みして、お腹に流し込む。
願った事と言えば…早く減って、ご飯さん!
福のことなど、とんだ方向に向いていた。



ダイナマイト太巻き!


(「日刊ゲンダイ 週末版」2月18日発刊)
   
 
 
    
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