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Vol.59 「鉄道博物館」(2008/01/28)

今でこそちょっとしたブームだが、昔から列車は好きだった。
もっとも、鉄道好きといっても色々あり、乗るのが好きな「乗り鉄」
写真におさめる「撮り鉄」、発車ベルや走行音を録音する「録り鉄」など、
その種は多岐に渡る。

上記に順ずれば、私は乗り鉄だ。
かねてから車窓からの景色を眺めるのが好きで、
日差しが座席にこぼれていると、尚良い。

学生時代は、よく中央線に揺られた。
どこかに行くためにではなく、乗るために乗る。
背景の屋根や洗濯物が横に流れるさまを見ると、不思議と落ち着いたものだ。


この手の話を始めたら止まらないので、早々に本題へ…。



一目ぼれした電車グッズ
中央線の手ぬぐいです!


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休日に、鉄道博物館に行く。
開館初日に取材して以来、もう一度訪れたかった場所だ。
いそいそと水筒を持って、埼玉県の大宮まで、電車を乗り継いで。
池袋駅を過ぎた頃から、小さなリュックを背負った子どもたちの姿が目立つ。

開館時刻の10時。
祝日とあって、入口は既に長蛇の列だ。
30分近く待ってようやく入場すると、
そこここで興奮した子どもたちのさけび声が聞こえる。
食堂車のメニューを模したレストランからは、甘いミートソースの匂い。
悠然と展示されている寝台客車の前で、「どうして動かないの?」と男の子。
それに対し、「きっと、眠っているんだねぇ」と、お父さん。
さっきまでは、さけび声だったはずの声のかたまり。
耳をすますと、房から捥いだ葡萄の一粒のように、言葉が甘く酸っぱく跳ねている。
運転シミュレーターや、ジオラマ観覧プログラム。
人気コーナーの行列を掻き分け、館内を走るミニ新幹線の乗り場に辿り着いた。
小一時間待った後、腰をかがめて乗車する。
かたつむりほどの速さで、3両編成の車両はぬうぬうと進んでいく。

「行ってらっしゃーい」
「行ってらっしゃーい」

乗車を待つ小さな男の子が、並んだ列から大きく手を振っていた。
待ち時間に退屈しないよう、母親がそうすることを教えたのだろうか。
普段からああやって、過ぎ行く電車に手を振っているのだろうか。
男の子は、新幹線が通過した後も語りかける。

「さよならあー」
「さよならあー」

もう片方の手には、握りしめたりんごジュースの紙パック。
ラッシュアワーさながらの辺りに満ちていたイライラダイヤが、
少しだけ改正されたような気がした。
その奥には、毛糸玉のような夕日。
車両はいよいよ速度を緩め、
その後ろを、本物の埼京線がゴウゴウと走り抜けていく。

(「日刊ゲンダイ 週末版」1月28日発刊)
   
 
 
    
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