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Vol.31 「大谷さんのネクタイ」 (2006/03/04)

夜風が丸みを帯びてきました。
早朝番組『やじうまプラス』の放送のため、平日は午前2時半に家を出ます。
ゆるんだ夜気も束の間、日の出の頃には、煌々とした照明のスタジオで朝を迎えます。

「おはようございます!」
先日、コメンテーターの大谷昭宏さんは、淡い桜色のネクタイをなさっていました。
膨大なニュースを分刻みで伝える中、日に日に春めいてきていたことを、ふっと思い出します。
「今日は、胸元に春を纏っていらっしゃいますね」
CM中にそっと話し掛けると、慌ててネクタイに手を当ててこうおっしゃいました。
「あれ…この色で合っていたかな?」

大谷さんは、取材やテレビ番組への出演のため、全国各地を飛び回っていらっしゃいます。
日帰り出張は、週に三回以上。
その間に必要な数着のスーツは、全て奥様が用意されているそうです。
このシャツには、このネクタイの組み合わせ。
それでも、大谷さんはついついコーディネートを間違えてしまうらしく、
出演されている番組をご覧になった奥様からは、
「今日は大丈夫ね」
「あのシャツに、そのネクタイは違ったわよ」
といったメールが、毎回必ず携帯電話に送られて来るそうです。
「最近は、付箋に番号を振って、同じものどうしをシャツとネクタイに貼り付けてね。
格好悪いけれど…そのお陰で、ようやく間違えなくなったよ」
顔をほころばせて笑う大谷さんの頬は、ほんの少し色づいていました。

新聞記者時代には第一線で数々の事件を取材し、今も常に現場に赴く。
真実を厳しく追求し、番組では、時には顔を真っ赤にしてコメントされます。
そんな大谷さんが、言葉ではなく色彩で教えて下さるもの。
いつものように煙草とコーヒーを手にして、
「締め付けられているだけだよ」なんて、笑っておっしゃるのでしょうか。

やわらかな日差しが、足音を立てずに遠くまで伸びていきます。
明日のネクタイは、何色でしょう。


(「日刊ゲンダイ」3月4日発刊)
   
 
 
    
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