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Vol.18 「デーブさんのこと」 (2005/05/21)

日曜日の夜。
眠りの波間に漂いながら、私は作戦を練る。
翌日の早朝に挨拶を交わす、デーブ・スペクター氏への。
「週末、何してたの?」
以前、「考え事をしていました」と答えて大爆笑されて以来、
番組コメンテーターのデーブさんは、必ず私にこう問いかける。
今週こそは、打てば響く、返答の快音を響かせたい。

思い起こせば、去年の夏休みの予定を聞かれた時のこと。
「私、クロアチアに行きたいんです」
「え!?普通は、グアムとかハワイに行くでしょう?」
「どうしても、城壁でお昼寝がしたくて…」
以来、デーブさんには「謎のアナウンサー」と思われているようだ。

番組が終わった後は、社員食堂で皆が一緒に朝食を取る。
私のトレイにさつまいもの甘煮が二つ並ぶのを見て、
デーブさんの納豆をかきまぜる箸の動きが止まった。
「どうしていつも、同じおかずを二つ選ぶの?」
「だって、好きだから…」
きっと幼い頃、意地悪な人に食べ物を奪われたに違いない。
だから、一つ取られてもいいように必ず同じ物を二つ選ぶのだろうというストーリーが、
即座にデーブさんによって組み立てられた。
「もしかして、トラウマとか…大丈夫?」
食卓にどっと笑いが起こる中、ほお張ったさつまいもがますます喉を通りにくくなった。

デーブさんの機智に富んだお話は、ご存知の通りである。
その源は、張り巡らされたアンテナだ。
自宅では7台のテレビが常時ついていて、
特ダネを録音する為のボイスレコーダーも常に持ち歩いている。
新聞は全紙に目を通し、このエッセイの感想も話して下さる。

「どうすれば、きちんと伝わるでしょうか?」
かつて、会話も執筆もままならないことに悩み、デーブさんにお聞きしたことがある。
その時は冗談めかして笑っていらしたが、数日後、デーブさんからメールが届いていた。

「村上さん、もっとダークサイドを覗いてみたら?
伝えたいことをひねってみるのも、一つの方法です。
いっそ、真逆のことを言ってみるとか。
例え方や表現を少し珍しくするには、類語辞典が便利ですよ」

いつもの「冗舌」に潜んでいた、温かい眼差し。
思わず、今度はこう聞いてしまった。
「どうすれば、素敵な女性になれるでしょうか?」
返信メールは、すぐに届いた。

「私生活がある程度乱れないと、素敵な女性になれませんよ!」

デーブさん、私、昼夜逆転の乱れた生活時間ですよ。


(「日刊ゲンダイ」5月21日発刊)
   
 
 
    
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