- 170cm
- 福岡県福岡市
- 日本女子大学附属高等学校→
日本女子大学 - 2001年4月1日
- 蠍座
「こちらのパラソルはいかがですか?」
あまりに暑いので、立ち寄った店で日傘を買うことにした。
「夏のイングリッシュガーデンに咲く花々をイメージした刺繍を、全面に施しております」
初夏の表参道で汗だくなものの、パラソルと聞くとずいぶん涼やかに聞こえる。
以来、通勤には日傘が欠かせない。
凌げる紫外線に気を良くして、最近は会社まで歩くことが多くなった。
音楽を聴きながら、小一時間。
坂を上って、下って、商店街を抜ける。
開店前の甘味処に「冷やしあめ」の貼り紙。
駐車場のたもとに刺さっている、おもちゃの風車。
通勤時間は不規則だが、日曜日の夕方が特に好きだ。
精肉店の軒先から、焼き鳥のけむり。
オープンテラスでは、入り日がジョッキにこぼれる。
小さな公園で、子どもたちが遊ぶ。
「もーいいかい?」
「まーだだよ」
かくれんぼが、いまだ健在だったとは!
「もーいいかい?」
「もーいいよ」
狭い敷地に懸命に死角を探す、彼らを通り過ぎる。
もう、それでいいよ。
いや、それがいいよ。
投げやりにも前向きにも聞こえるから不思議だ。
もういいかい?
かくれたり、逃げたり、
ふいに現れたり、時には腹をくくったり。
もういいの?
まだまだ、もっと。
会社が近付くにつれ、自問自答が逡巡する。
今日の仕事と、来週の予定と。
イングリッシュガーデンの刺繍が、頭上でほどけて疑問符を描く。
逢魔が時には、うっかり日傘をたたむことも忘れる。