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7月11日 世界最高記録保持者テグラ・ロルーペ その1練習基地はドイツ」


テグラ・ロルーペ

デトモルト

選手達が生活をしているドイツの家

シドニーオリンピックで日本のメダルが有望視されているのはなんと言っても、女子マラソン。バンコクのアジア大会で酷暑の中2時間21分47秒の日本最高記録をマークした高橋尚子選手をはじめとして、山口衛里選手、市橋有里選手の3人は、史上最強のマラソントリオであるともっぱらの評判です。

「彼を知り己を知れば百戦あやうからず」孫子ではありませんが、まずは敵を知ることから始めましょう。3人の前に立ちはだかるのはなんと言ってもケニアのテクラ・ロルーペ選手。 高橋尚子選手をコーチしている積水の小出監督に「ロルーペにはかなわない、ありゃ別格だ。」と言わせるほどの選手です。

ロルーペは日本選手よりも小柄な身長153センチ、体重40キロ。子供が走っているのかと錯覚するほど小さな身体ですが、そのスピードはさすが世界一。先月NYで10キロのミニマラソンでロルーペと一緒に走った有森裕子さんが、「あっと言う間にぴゅーといなくなっちゃった」と言っていましたっけ。ちなみにマラソンベストタイムは2時間20分43秒。これが現在の世界最高記録となっています。

ロルーペ選手が普段練習しているところはドイツの北部、デトモルトと言う小さな町です。今万国博覧会が開かれ、日本の建築家が紙で作ったパビリオンが話題を呼んでいるハノーバーの町から車で一時間、南西に走ったところにある町です。至る所に緑の濃い森があり、その他はなだらかな丘に麦畑が輝いています。私がここを訪れたのは6月下旬でしたが、ドイツの北部バルト海に近いこともあり、朝晩はかなり冷え込み、厚手のパーカーなしではいられないほどでした。ケニアから初めて来たとき、ロルーペ選手は冬の寒さにはほとほとまいったそうです。マラソン選手の練習は朝早くから始まります。まだ真っ暗な6時過ぎ、故郷を遠く離れ、冬の凍てつく空気を切りながら白い息を弾ませて走るケニアの女性を思うとき、なんだか胸にぐっとくるものがあります。

そうそう、何でケニアの選手がドイツのデトモルトで練習をするのかですって?
それはとっても大切なことですね。

今から8年前、それは1992年のことでした。当時、ケニアの長距離有力選手たちはヨーロッパを拠点にして、賞金レースに参加してお金を稼ぎ始めていました。まだ実績はなかったものの将来性を見込まれたロルーペは、数人の男子選手と一緒にフランクフルトの空港に降り立ったのです。本当はデトモルトにいく予定ではなかったのですが、一人だけ女子選手ということもあり、他の選手と同じ合宿所で生活するのには抵抗がありました。そんなとき、「宿舎があるから、よかったら僕のところでトレーニングをしませんか」と声をかけてきたのが、現在のコーチ兼マネージャーのワグナーさんだったのです。このワグナーさん、普段は中学の数学と体育の先生。一体何者?

ワグナーさんはどんな人で、なぜロルーペに声をかけたのか、それは次回お話しましょう。

 
スポーツ古今東西
 
モスクワ大会に始まり、ロス、ソウル、さらには冬の大会も経験し、シドニー大会がなんとオリンピック取材10回目になる宮嶋泰子アナウンサー。取材ではその選手の持っている「根」を掘り起こそうと歳甲斐もなく?大声を張り上げて走り回り、スポーツを縦から見たり横から見たりと大忙し!他とは一味違うスポーツ企画をこのコーナーでぜひお楽しみください。
 
 
    
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