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12月15日 気まぐれNY通信 「ブッシュ難民」


アメリカではブッシュ大統領が再選されてから1ヵ月あまり。
ニューヨークなど、ブッシュ大統領に「No」を示した州では、
この地図を添付したEメールが飛びかっています。

【地図】(←をクリックしてください)

今回の選挙で、ケリー候補を支持した州は、
カナダと一緒になって、「カナダ合衆国」となり、
ブッシュ大統領を支持した州は「イエス・キリストの国」となっています。
保守的で宗教的な有権者に支えられたブッシュ政権への反発を描いたものです。

選挙結果に失望した有権者のなかには、
国を捨てて逃げ出そうとする人まで出てきています。
シアトル、トロントを取材しました。

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■ブッシュ難民セミナー
12月3日。ワシントン州シアトル。
ケリー候補を支持した西海岸の州で、新しいセミナーが始まった。
テーマは「カナダへの移住のしかた」だ。

主催者は当初50人の参加者を予想したが、それを大幅に上回る130人が参加し、
会場には立ち見が出た。
参加費30ドル(3150円)のセミナーでは、移住、引越しに関する手続きから、
カナダドルへの移し方に至るまで、実践的な内容が並んだ。
講義のあとには、質疑応答の時間が延々と続き、それでも物足りない参加者たちが、
セミナー終了後、弁護士の前に列をなした。

主催したカナダの弁護士は、選挙結果が出た後、
アメリカから移住したいという電話が殺到したため、
各地でセミナーを開くことにしたという。
彼らのオフィスでは、移住希望者たちのことを、「ブッシュ難民」と呼んでいる。

■祖国を捨てる一家
実際に移住の手続きを始めている人もいる。
シアトル郊外に暮らすキルボーンさん一家は、
先日、カナダのネルソンへ下見にいった。
トレイシー・キルボーンさん(48)はこう話す。
「選挙でこの国を変えようとしたがダメだった。
 もうブッシュ政権には耐えられないんだ」

コンピュータ会社に勤務するキルボーンさんは、弁護士の妻(46)、
2人の子供(7歳と10歳)の一家4人暮らし。
すでに移住申請書も出した。仕事も子供の学校も変わる。
15年前に買った自宅も売りに出す。

「子供との思い出が詰まった場所だから、確かにさびしい。
それでもカナダへ行くほうが絶対にいい」
とキルボーンさんに、もはや迷いはない。

■夢の国・カナダ
今回の選挙前、国民の7割近くがケリー候補を支持していたカナダは、
イラク戦争に反対し、かたくなに派兵を拒んできた。
半数以上の州で同性結婚が認められ、中絶は個人の権利とするなど、
ブッシュ大統領を嫌うアメリカ人にとっては、まさに夢の国だ。

アメリカ人との結婚を薦めるウェブサイトまで登場した。
「Marry An American」というこのサイトは、
「リベラルなアメリカ人が絶滅の危機に瀕している。
彼らと結婚して、保守的なカウボーイから彼らを救おう」
と訴えている。
アメリカ人がカナダ国籍を取るには、カナダ人と結婚するのが、
最もスムーズな方法だからだ。
自分の独身を捧げてもいいという登録者は、6500人以上に上る。

トロントで登録者の一人(22歳女性)に聞いた。
「本気で結婚したい?」
「ええ、したいです」
「どんなアメリカ人?」
「いけてるアメリカ人がいい。
政治にどういう考えをもっているかが大切で、共和党はまずダメね」

サイトを立ち上げた「THIS MAGAZINE」発行人のジョイス・ベインさんも
「最初は冗談のつもりだったが、本当のことになってきた」と
予想以上の反響に驚いている。

■ベトナム戦争、アメリカンドリーム・・・
アメリカ人が国を捨てるという現象は、実はベトナム戦争の頃にもあった。
12万人以上のアメリカ人が戦争と徴兵を嫌って、カナダへと逃れた。

前述のキルボーンさん一家が下見に訪れたネルソンは、
ベトナム戦争時代に、多くのアメリカ人が移住した場所で、
いまもそのコミュニティが残っている。

妻のベッキー・キルボーンさんは言う。
「うちの子が徴兵されるなんてことは考えたくもないが、
やっぱり心配なんです」

反ブッシュを掲げたものの、夢破れて、
アメリカを去ることを決意したキルボーンさん一家。
「アメリカンドリーム」はどこへいったのか?
最後に聞いた。

トレイシーさん「“アメリカンドリーム”が終わったとは思いたくないが、
決して魅力的だとは思わない。はー(深いため息)」
ベッキーさん「私たちは“カナディアンドリーム“を追い求めているんです」

様々な手続きや子供の学校を考えて、一家は来年6月にカナダへ移るという。

   
 
    
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