ことばのアレコレ

  1. top
  2. アナぽけっと。
  3. ことばのアレコレ
  • YUMIKO MATSUO

2018/1/25「おらおらでひとりいぐも」から方言を考える

先日発表された芥川賞の受賞作品は画期的でした。

「おらおらでひとりいぐも」
タイトルが方言です!
方言をそのままタイトルにした芥川賞受賞作、これまでにあったのでしょうか。
私の知る限りでは初めてで、インパクトを受けました。
方言を愛する者としては早く読みたい衝動に駆られると同時に、
はて…
ニュースでお伝えする際にどんなイントネーションで読めばいいのかしら?

正しくお伝えするには、岩手、とりわけ物語の舞台・遠野市の方、
もっと言えばご本人に聞くしかありません。

作者の若竹千佐子さんが報道ステーションでおっしゃったところによると、
「おら」は両方とも「ら」を上げて、「で」を下げます。
「ひとり」は普通の「一人」のアクセントで、「いぐも」はいわゆる平板。
ちょっと難しいですが、新しいアクセント辞書に出ている記号で表すと…

オラ\ オラ\デ ヒト\リ イグモ ̄

こうなりそうです。
それに加えて、
「私は私で1人でいきます」という意味を踏まえたリズムが正しい読み方…
ということになろうかと思います。

私は「おら」を頭にアクセントを置いて読んでいました。反省。

改めて広辞苑をひくと、4項ある説明の2番目に、
方言とは『共通語に対して、ある地方だけで使われる語』とあります。
それだけでなく、若竹さんが会見で話していたように、
方言には「そこに生きている人たちの生活の匂い」や「味わい」があり、
既に東京で人生の半分を過ごしている私にとっても、
ふるさとの言葉は「一番自分に正直な言葉」であり
「自分の思いが何のてらいもなく言葉として表れてくれる」言葉だと、
若竹さんに共感します。
アナウンサーは多くの人に自然に受け入れられる「標準的なアクセント」で話すことを求められますが、
たとえば取材する際に、相手が飾らず胸襟を開いて話してくれるのが一番なのだとしたら、
時と場合によっては、すすんでふるさとの言葉を使いたいなと個人的には思うのです。

ところで言葉ではなく音楽の話になりますが、
生まれ育った北海道に根付いていたリズムを
「ゴジラのテーマ」に盛り込んだと言われている作曲家の伊福部昭さんが、
こんなことをおっしゃっていることを「題名のない音楽会」で知りました。

「芸術は民族の特殊性を通過して共通の人間性に到達しなければならない。」

(1966年11月3日 北海道新聞夕刊など)

表現の手段は違いますが、音も言葉も、その土地に根ざしたものは、
独特のリズムとともに、エネルギーや生命力に溢れているような気がします。
それを多くの人に響く作品に昇華できるからこそ、芸術なのですね。
伊福部さんの言葉は、今回の作品と通じる気がします。

宮沢賢治「永訣の朝」の「逝く」という哀しいイメージがあった「おらおらでひとりいぐも」。
今回漢字に当てはめるとしたら、「行く」、それとも「生く」?

皆さんはどう感じますか?

担当アナウンサー

このページの先頭に戻る