キャストが語る!
特捜9

青柳靖 役
吹越満さん
西武池袋線の大泉学園駅から歩いて15分のところに東映撮影所がある。今日は朝から雨だ。腹が立つ。
撮影所の西門の前を通り過ぎる。コロナ以前はここから入って控え室のある建物まで40秒ほどで着けた。今は閉鎖されている。なので、ここから更に5分ほど歩いて正門まで行き、いつもの警備員さんに挨拶をして敷地内を更に5分戻るかたちで控え室へ行かなければならない。
つまり、更の更に腹が立つ。
コロナはあけてはいるが西門はあいてはいない。
4階の控え室で自前の服を脱ぎ、衣裳を羽織り、2階のメイクルームへ。
メイクスタッフ女性二人。おはようございますおはようございます。おはよう。そして、おはよう。
ん?
見知らぬおばさんが隣の鏡の前に座っている。。
誰だ?
ひどい寝癖がない場合は放っておいて欲しい。俺は、ドライヤーが嫌いだ。髭は剃るが顔には何も塗らない。グリースで髪をなでつけ始めた当たりで、隣の女性に目をやると、ちょっと出来上がりかけていて、、、
あ!羽田さんだぁ。おはようございますぅ。
ごめんねぇ、もうちょっとで工事が終わるから。なんだよ言ってよ、誰かと思ったよぉ。あたしあたし!
この辺でYシャツのボタンを閉じネクタイを結ぶ。段々、青柳になる。だいたい、この会話で俺の機嫌が治る。
他の現場では、絶対アウトな俺がいる。
言っておくが、知らないおばさんの羽田さんも、出来上がった羽田さんも綺麗なんだよ。
田口は?
きっと、決められた時間より早く入り矢沢になりセット脇の喫煙所で煙草を吸いながら皆を待っているに違いない。
井ノ原くん深川さんも浅輪になり高尾になり、原さんも早瀬川先生になり全員揃ったのは、撮影開始予定の15分前だ。スタッフも全員スタンバイしている。。
よし。予定より少し早いですが始めますか?、、。始めるんだよこら。
もう俺たちは、誰のことも待たせてはいないし、誰のことも待ってはいない。
始まる。
あおわかたかかげ
あかわかたかかげ
きわかたかかげ
滑舌の悪い田口に言わせたい早口言葉だが、あいつはあまり乗ってこない。
まいまいは絵が上手い。気持ち悪い田口の似顔絵をよく描く。
いのっちが、台詞をとちった田口に、てめぇちゃんとしゃぶれよ、
と突っ込む。しゃぶれじゃねぇだろしゃべれだろ。台詞じゃねぇとちゃんとしゃべれんのな。と二人のやりとり。
スタッフの誰かが今のは、何秒ですか?と言った言葉に反応した羽田さんが、え?誰が難病なの?とか言っている。
いつもの馬鹿現場だ。
で、知らない間に午前中の撮影は一時間巻いているらしい。
来る。
午後に撮る予定のシーンをもうひとつ午前中にやっつけてしまうことになる。
来た。
今日の終わりの予定は夕食休憩を挟んで21時だ。
で、やるぞこらぁ!
昼の休憩前の時点で一時間巻いているわけだ。てことはつまり、このまま行けば夕食休憩一時間を抜けば、2時間巻きますね。だから、7時に終わります。
普通の晩ご飯の時間だろこらぁ。晩飯休憩なんかいらねぇだろ。家帰って家族と食え!やるぞー!ほい!!
で、結果的に、18時半に終わる。
行った!おつかれぇ!!
ざっくりだが、これが、渡瀬さんがいたころから続いている現場の雰囲気です。
もっとじっくり時間をかけて、撮っていれば、もっと面白いドラマになっていたかも知れない。
田口の危うい台詞も時間をかけて撮り直せば、あいつをもっといい役者にみせられたかも知れない。
けど、そういうことじゃないんです。
この空気なんだなぁ。
あり得ない。普通じゃない。
もっとあるんです。話したい話が。いや、ない。話せる話はない。話せない話がたくさんあるの。俺の宝物。
雨は上がっている。まだ明るいよ。嬉しいねぇ。
田口くんが車で俺の帰りに都合のいい駅まで送ってくれるの。いつも。通算、200本×3日くらい。もっとか。
撮影所から井の頭線の高井戸の駅まで。
今までで一度だけ。その道中。一度だけ。一度も赤信号で停まることなく、青信号だけで帰れたことがある。うおー!青だ行け!いや黄色だ行くな!ゆっくり行け停まるなよ!って、ほんとに青柳と矢沢がぎゃーぎゃぁ言ってたことがあるの。
都内で下道を30分以上、信号に引っ掛からず車で走ったことありますか?
それが歴史というものかも知れない、と思わなくもない。
短くても歴史は歴史だ。長い歴史の方が偉いわけではない。
しかし、ただ長かっただけの時間の中でも、そこにいた僕らだからこそ、僕らにしかみれない風景を、僕らはみることが出来たのだ。
さようなら。
撮影所の西門の前を通り過ぎる。コロナ以前はここから入って控え室のある建物まで40秒ほどで着けた。今は閉鎖されている。なので、ここから更に5分ほど歩いて正門まで行き、いつもの警備員さんに挨拶をして敷地内を更に5分戻るかたちで控え室へ行かなければならない。
つまり、更の更に腹が立つ。
コロナはあけてはいるが西門はあいてはいない。
4階の控え室で自前の服を脱ぎ、衣裳を羽織り、2階のメイクルームへ。
メイクスタッフ女性二人。おはようございますおはようございます。おはよう。そして、おはよう。
ん?
見知らぬおばさんが隣の鏡の前に座っている。。
誰だ?
ひどい寝癖がない場合は放っておいて欲しい。俺は、ドライヤーが嫌いだ。髭は剃るが顔には何も塗らない。グリースで髪をなでつけ始めた当たりで、隣の女性に目をやると、ちょっと出来上がりかけていて、、、
あ!羽田さんだぁ。おはようございますぅ。
ごめんねぇ、もうちょっとで工事が終わるから。なんだよ言ってよ、誰かと思ったよぉ。あたしあたし!
この辺でYシャツのボタンを閉じネクタイを結ぶ。段々、青柳になる。だいたい、この会話で俺の機嫌が治る。
他の現場では、絶対アウトな俺がいる。
言っておくが、知らないおばさんの羽田さんも、出来上がった羽田さんも綺麗なんだよ。
田口は?
きっと、決められた時間より早く入り矢沢になりセット脇の喫煙所で煙草を吸いながら皆を待っているに違いない。
井ノ原くん深川さんも浅輪になり高尾になり、原さんも早瀬川先生になり全員揃ったのは、撮影開始予定の15分前だ。スタッフも全員スタンバイしている。。
よし。予定より少し早いですが始めますか?、、。始めるんだよこら。
もう俺たちは、誰のことも待たせてはいないし、誰のことも待ってはいない。
始まる。
あおわかたかかげ
あかわかたかかげ
きわかたかかげ
滑舌の悪い田口に言わせたい早口言葉だが、あいつはあまり乗ってこない。
まいまいは絵が上手い。気持ち悪い田口の似顔絵をよく描く。
いのっちが、台詞をとちった田口に、てめぇちゃんとしゃぶれよ、
と突っ込む。しゃぶれじゃねぇだろしゃべれだろ。台詞じゃねぇとちゃんとしゃべれんのな。と二人のやりとり。
スタッフの誰かが今のは、何秒ですか?と言った言葉に反応した羽田さんが、え?誰が難病なの?とか言っている。
いつもの馬鹿現場だ。
で、知らない間に午前中の撮影は一時間巻いているらしい。
来る。
午後に撮る予定のシーンをもうひとつ午前中にやっつけてしまうことになる。
来た。
今日の終わりの予定は夕食休憩を挟んで21時だ。
で、やるぞこらぁ!
昼の休憩前の時点で一時間巻いているわけだ。てことはつまり、このまま行けば夕食休憩一時間を抜けば、2時間巻きますね。だから、7時に終わります。
普通の晩ご飯の時間だろこらぁ。晩飯休憩なんかいらねぇだろ。家帰って家族と食え!やるぞー!ほい!!
で、結果的に、18時半に終わる。
行った!おつかれぇ!!
ざっくりだが、これが、渡瀬さんがいたころから続いている現場の雰囲気です。
もっとじっくり時間をかけて、撮っていれば、もっと面白いドラマになっていたかも知れない。
田口の危うい台詞も時間をかけて撮り直せば、あいつをもっといい役者にみせられたかも知れない。
けど、そういうことじゃないんです。
この空気なんだなぁ。
あり得ない。普通じゃない。
もっとあるんです。話したい話が。いや、ない。話せる話はない。話せない話がたくさんあるの。俺の宝物。
雨は上がっている。まだ明るいよ。嬉しいねぇ。
田口くんが車で俺の帰りに都合のいい駅まで送ってくれるの。いつも。通算、200本×3日くらい。もっとか。
撮影所から井の頭線の高井戸の駅まで。
今までで一度だけ。その道中。一度だけ。一度も赤信号で停まることなく、青信号だけで帰れたことがある。うおー!青だ行け!いや黄色だ行くな!ゆっくり行け停まるなよ!って、ほんとに青柳と矢沢がぎゃーぎゃぁ言ってたことがあるの。
都内で下道を30分以上、信号に引っ掛からず車で走ったことありますか?
それが歴史というものかも知れない、と思わなくもない。
短くても歴史は歴史だ。長い歴史の方が偉いわけではない。
しかし、ただ長かっただけの時間の中でも、そこにいた僕らだからこそ、僕らにしかみれない風景を、僕らはみることが出来たのだ。
さようなら。
