放送したお宅
2012年6月29日(金)放送
神奈川県横浜市・石動邸
- 家の中に庭付き一戸建て -

2011年4月

敷地面積 73平米 (22坪)
建築面積 36平米 (11坪)
延床面積 85平米 (26坪)
W+RC造
建築費:2403万円 坪単価:94万円



ウナギの寝床形敷地の幅3.8m×奥行き11.2mの細長い建物。正面の開口は玄関ドアと窓が1つあるだけ。玄関の引き戸は通常のドアに加え、通気用のエキスパンドメタルのドアを持つ二重構造です。

庭付きの家を一回り大きな家で包んだ入れ子のような間取り。通常の玄関ホールにあたる場所は“庭部屋”です。プライバシーを保ちつつ趣味の庭いじりが楽しめます。

“外側の家”の内装は構造現し。吹き抜けの高さは最大で7m近くに達します。“内側の家”はコンクリート製の箱を地中に埋め、その上に木を架構したように見えます。

コンクリートの箱に載った形の13畳大のLDK。床はモルタル仕上げ。木枠の引き戸を閉じれば庭部屋と仕切られた“完全な”内部空間になります。

台所は居間側から見えない位置に冷蔵庫置き場を設け、スッキリした見た目を実現。居間・食堂との間には、コンクリート製のカウンターを設けています。

2階は“内側の家”の屋上テラス。屋内ですが屋外のような開放的な空間です。庭部屋上の天窓はフィックスでしたが、2つ目の天窓は開閉式です。

テラスに隣接した水回り。テラスとの間仕切りは透明ガラスで、開放感と明るさを確保しています。

子供室と主寝室は地階。床が地上から1.3m下がった位置にあり、1年を通して室温が安定しています。

建築家のプロフィール
谷尻 誠
1974年 広島生まれ
1994年~1999年 本兼建築設計事務所
1999年~2000年 HAL建築工房
2000年 建築設計事務所suppose design office 設立
2003年~ 穴吹デザイン専門学校非常勤講師
2011年~ 広島女学院大学 客員教授
主な仕事: designtide08,09、ミラノサローネ東芝インスタレーション、
これまで手がけた住宅は80を超え、現在国内外で、
インテリアから複合施設まで様々なプロジェクトが進行中。
主な受賞歴: AR Award (UK)、THE INTERNATIONAL ARCHITECTURE AWARD(Chicago)、
福岡県美しいまちづくり建築賞大賞、
モダンリビング大賞など、受賞多数

Suppose design office (HEAD OFFICE)
所在地 広島市中区舟入本町15-1 725ビル
電話 082-961-3000
FAX 082-961-3001
URL http://www.suppose.jp

Suppose design office (TOKYO OFFICE)
所在地 東京都渋谷区富ヶ谷1-21-8-403
電話・FAX 03-6416-8581

建築家の一言
瀬谷の家

自然という存在に興味がある。
時間や変化を受け入れ強く存在する自然、そんな自然に限りなく近い建築の姿について日々考えている。空や森や海、あらゆる自然は大きい。 これは誰もが周知の事実であるが、なぜ誰もが大きいと感じているのだろうか。
空が何ヘイホウメートルあるのか解らないし、森も同様であり、その大きさ、つまりはスケールが解らないと言うことが人々が大きいと認識してしまうきっかけがあるのではないだろうか。そんな大きさについて考えてみる。
建築にはスケールがあり、それ故に大きさや高さについて考え続けているようにも思う。自然と建築を等価に考える事で、互いが親密な関係を築くことができるとしたならば、建築のスケールを排除するのか、あるいは自然にスケールを与えることによって、新しい建築と自然の関係が生まれるのではないかと考えた。瀬谷の家は住宅地の中にある小さな敷地での計画である。
クライアントの奥様はフラワーショップにお勤めで、植物や花の似合う住宅を望まれていた。建築は内部空間をつくるために敷地内に壁という線を引くことでつくられていくが、ここでは内部だけでなく外部をも同時に壁によって囲い込むことにした。
それまでスケールのなかった外部が壁で囲まれたことによってスケールが与えられ、従来の室内と庭という関係ではなく、内部と内部の関係かのように置き換えられたことで、庭でありながらも部屋のような場所になった。
建物のアウトラインを木造倉庫のような、ざっくりとした壁で構成としており、今後ここでの生活がはじまると、時間と共に植物の成長、本棚が増設、絵が飾られるなどの生活の行為によって、日々変化のある自然と同じ原理をもつ、毎日が未完成であり毎日が完成とも言える空間となっていくだろう。建築は完成をむかえる。この建築は日々うつろう建築であり、その変化自体を受け入れる事から始まる。自然にスケールが与えられたことで、自然が建築化され、限りなく自然に近い建築となった。完成された住宅部分と、日々うつろう未完成な庭部屋との関係は、時間と共に徐々に混ざり合っていく。
完成を目指して建築をつくるのではなく未完に向かうことで、内部と外部の新しい関係がここには生まれた。予定調和な空間ではなく、予定不調和な状況自体をも許容できる、そんな空間は、ある意味では多くの要素を許容できる真の強度を持ち得るのではないだろうか。
未完成という完成の先にある、いままでにない豊かさが、この場所に芽生えていくことを私たちは建築を通して考えていきたいと強く思う。
渡辺篤史の感想
ご夫婦共に緑が大好きだそうで“庭部屋”は、その夢を叶えた空間です。屋内でありながら、大きな吹き抜けとトップライトからの明かりで、屋外空間のようです。狭小と言っていい建物です。この中に3層の居住空間とこうした趣味空間まで設けますと窮屈になりそうですが、設計力で見事に解決しています。敢えて未完成に感じる空間が、住み手のアート心を刺激するのではないでしょうか。