放送したお宅
2010年6月4日(金)放送
東京都板橋区・豊田邸
- “大樹”の下で暮らす家 -

2009年11月

敷地面積 163平米 (49坪)
建築面積 79平米 (24坪)
延床面積 80平米 (24坪)
木造
建築費:非公開 坪単価:非公開



14mの長いアプローチを持つ旗竿敷地。玄関を入ると、真ん中に“大樹”のような“大黒柱”のある大空間が目に飛び込んできます。

LVL(薄い板を貼り合わせて作られた集成材)で作られた32の門型フレームを放射状に配置した構造。フレームの間隔は360/32度=11.25度です。

“大黒柱”を中心に4分割した間取りは、伝統的日本家屋の田の字プランのよう。玄関を入ってすぐの土間に台所がある事も、その印象を強くします。

門型フレームの外周側の間に板を渡して棚に。南側の高窓からは、あえて残した既存樹木の柿の枝が見えます。夏には葉が繁って日除けになる事が期待されます。

土間から左回りに20cmずつ高くなっていく床。2段上がった居間にはテラスが隣接しています。2枚の大きな鉄枠の引き戸を全開すれば、庭と室内の一体感が高まります。

床と同様、左回りに高くなっていく天井に合わせ、屋上も螺旋状の勾配を描きます。一部を屋上緑化。“大黒柱”の中心に縦樋が内蔵されています。

開口を抑え、落ち着いた雰囲気の寝室。居間、土間とは引き戸で仕切っただけなので、全開して大きなワンルームにする事もできます。

水回りは玄関脇に設けられています。その上部は、1.8m×7mの細長いロフト。寝室と土間の2か所からアクセスできます。

建築家のプロフィール
原田真宏+原田麻魚
原田真宏
1973年 静岡県生まれ
1997年 芝浦工業大学大学院建設工学専攻総代修了(三井所清典研究室)
1997-2000年 隈研吾建築都市設計事務所
2001-2002年 文化庁芸術家海外派遣研修員制度を受け
ホセ・アントニオ&エリアス・トレスアーキテクツ(バルセロナ)に所属
2003年 磯崎新アトリエ
2004年 「MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO」設立
2005-2006年 慶應義塾大学 COE特別講師
2007年 芝浦工業大学工学部建築学科非常勤講師
2007年 慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科非常勤講師
2008年- 芝浦工業大学工学部建築学科准教授

原田麻魚
1976年 神奈川県生まれ
1999年 芝浦工業大学建築学科卒業
2000-2003年 建築都市ワークショップ所属
2004年 「MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO」設立


MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
連絡先 〒107-0052東京都港区赤坂 9-5-26赤坂ハイツ 501
TEL 03-3475-1800
FAX 03-3475-1800
E-mail fuji-s@rmail.plala.or.jp
URL http://www14.plala.or.jp/mfas/fuji.htm
 
建築家の一言
都内北部の穏やかな丘陵地上の住宅地内に計画された、夫婦二人の為の住居。丘の頂部近くの旗竿型の敷地で、地盤は竿から旗へと緩く上っていく。周囲を隣家に囲い込まれ、旗竿地特有の薄暗さや圧迫感もあったが、それよりも少し街から奥まった外部に晒されていない深部といった場の性格が意識された。この様な情況では、余地の少ない水平方向へ向かうより、地勢的にも垂直方向への展開が相応しい。それは森の深部で、他の木々に囲まれた樹木がとる指向性と同様の理由による。

具体的には、51mm厚の LVLからなる門型の「柱ー梁」構造を、11.25°(360°/32flame)の角度を保って回転複製することで建築は構成される。各フレームは各々隣よりも55mm程高いので、一周すると1.7mの高低差が生まれることになる。これは滑らかな HP曲面の屋上テラスへの出入口になるのと同時に、東側に一部だけ開かれた空と、隣家の緑を借景として取り込むハイサイドライトとなっている。
極座標の中心には32本の LVL柱が集中し、直径約 1.1mの大きな大黒柱が形成される。
完成した住居は厳密な幾何学による建築ではあるが、どこか人工物とは言いきれない風情を持つことになった。大黒柱に背をつけてその足元に座り、上を仰ぐと放射状に伸びる梁が枝を広げた大きな樹木のように思えてくる。樹幹の様な大黒柱の周囲には、安心して暮らしていく「住む場所」が広がっている。「住宅」と名付けられた透明な「空間」とは、なにか異なる質がここにはある。
「空間」の中心には社会的な「意味」があるが、「場所」の中心には「存在」がある、という事なのだろう。
 
渡辺篤史の感想
円柱を中心に放射状に梁が走る構造。番傘のようにも見えます。オリジナリティ溢れるデザインに感心しますが、それを実現した大工さんも大いに賞賛されるべきですよね。
ユニークな構造の下は、玄関を入ってすぐに土間、そこに台所という、伝統的な日本家屋に見られる田の字プランという意外性も楽しいです。
屋上には、奥さんが大事に育てられている植栽があります。これから時を経て、緑に覆われた様子も見てみたい。そんな気持ちになる建物です。