放送したお宅
2009年11月20日(金)放送
千葉県市川市・森原邸
- らせん状に連なる空間 5角形の巻き貝ハウス -

2009年1月完成

敷地面積 213平米 (64坪)
建築面積 49平米 (15坪)
延床面積 84平米 (25坪)
木造2階建
建築費:2126万円 坪単価:76万円



急な坂を上った角地に立つ建物。敷地形に合わせた5角形の平面を持ちます。外壁は墨を混ぜたモルタルで落ち着いた色合いに仕上げました。

玄関を入ると、ホールから居間まではモルタル仕上げの土間になっています。最大6m以上の吹き抜けを囲むよう配置された「木箱」が個室です。

玄関脇の水回りは、壁・床にピンク色の丸タイルを貼りました。上部は透明ガラスにして、室内空間の繋がりを演出します。

外周に接した壁の内側は全て杉板の目透かし張り。居間の隣に作られた約4.5畳の和室は、藁を混ぜた土壁で仕上げています。

土間から約60cm高い食堂・台所。舞台のようにも見えます。収納は使い勝手を考慮して扉の無いデザインですが、目隠し収納のおかげですっきりしています。

食堂・台所が舞台なら、こちらは桟敷。巻き貝のように螺旋状の動線を描きながら少しずつ高くなる5つのスペースがあります。

スペース2と名付けられた少し広めの場所は、将来の子供室候補。スペース3はウォークインクローゼットとして使用されています。

スペース4は主寝室。完全に閉じず、吹き抜けと繋がっています。そして、最上部=スペース5は書斎。高台のさらに高い位置の部屋はツリーハウスのようです。

建築家のプロフィール
伊藤寛
1956年   長野県生まれ
1979年   神奈川大学工学部建築学科卒業
1979~84年   一級建築士事務所 長谷川敬アトリエ、小宮山昭+アトリエR勤務
1985~88年   早稲田大学大学院修士課程(88年修了)
1986~87年   ロータリー財団奨学金を得て ミラノ工科大学留学
1988年   伊藤寛アトリエ設立
現在、武蔵野美術大学・早稲田大学芸術学校非常勤講師
 
伊藤寛アトリエ
連絡先   神奈川県川崎市多摩区生田8-29-13
TEL   044-922-6412
FAX   044-922-6413
E-mail   ito@ito-kan.com
URL   http://www.ito-kan.com/
     
 
建築家の一言
家の中で毎日繰り返される些細な事柄は、知らぬ間に私たちの意識や気持ちの有り様に大きく影響を及ぼします。この家はPiccolo Teatro (小さな劇場)と名付けられました。毎日の暮らしのための臨場感溢れる舞台としての家です。
遠く家並みが見下ろせる高台の角地にこの家はあります。敷地の形状に合わせた五角形プランの家です。この中にオープンなスペースが逆のの字を描いて数珠つなぎに連続していきます。それぞれのスペースには腰壁又は間仕切り壁が取り付き、その壁がジグザグと曲がりながら繋がっていきます。変化に富んだ視点がこの空間の中には濃縮されており、どこかの街角に立っているかのような錯覚さえ覚えます。
この家の中にはいろいろな素材、いろいろな仕上げが同居しています。ここで使われている材料のほとんどは、私たちのすぐ足元の特別な価値の置かれていない物ばかりです。しかしその実現のために大工、左官、家具等の職人は蓄積されてきた技術を良く習得している腕利き達が動員されています。
 
渡辺篤史の感想
丘の上の5角形の建物。シンプルな外観から一転、内部は変化に富んだ空間が展開します。この建物を設計者は「ピッコロ・テアトロ=小さな劇場」と名付けました。1階の共有スペースと螺旋状に配置された個室群は、舞台と桟敷の関係を想起させます。家は正に人生の舞台。この建物にピッタリの名前です。
もう1つ感じるのは、職人の手業の確かさです。特に天井の、形と漆喰素材が生み出す陰影は抽象絵画を見ているよう。屋根を支える柱は、結束して家族を守ってくれている信頼を感じます。どこに身を置いても落ち着ける建物でした。