放送したお宅
2009年7月19日(日)放送
神奈川県鎌倉市・塚井邸
都心から近い別荘(1)
− 鎌倉 森の別荘 −

2008年3月完成

敷地面積 245平米 (74坪)
建築面積 72平米 (22坪)
延床面積 134平米 (40坪)
木造
建築費:3500万円 坪単価:85万円



都心から60分で行けるとは思えない深い緑に囲まれた環境。大屋根の下に多くの柱が林立し、建物自体も森のような雰囲気を漂わせています。

1階は、板土間を中心に左右2つの間に分けられています。3m近い天井高と柱の不規則な配置によって、室内に身を置いても、やはり森の中にいる気分です。

板土間の奥には暖炉が設置されています。建築家オリジナルのテーブルは脚の長さを調節できるので、配置が自由自在です。

床が板張りの外土間は、室内外を繋ぐ「曖昧な」空間。外収納を兼ねた箱段から玉砂利を敷いた緩やかな外階段が2階へと誘います。

黒光りする床が印象的な2階の広間。能舞台のようにも見えます。東面は、壁と半透明の窓が市松状に配置されています。

一度ベランダに出てからアクセスする畳敷きの離れの間。朱に塗られた内壁が印象的。トップライトは開閉できて屋根に上がることができます。

「温室」と名付けられた浴室。天井が全面トップライトになっていて木漏れ日が射し込みます。広間との境の市松状の壁の一部は開閉可能。

1階広間の裏側に厨房は未だ製作途中という雰囲気。これから少しずつ手を入れていく予定だそうです。

建築家のプロフィール
室伏 次郎 / スタジオアルテック
1940年   東京都生まれ
1963年   早稲田大学理工学部建築学科卒業
1963〜71年   坂倉準三建築研究所
1971年   戸尾任宏、阿部勤と共に建築研究所アーキビジョン設立
1975年   阿部勤と共にアルテック建築研究所設立
1984年   スタジオアルテック設立主宰
1994年〜   神奈川大学工学部建築学科教授
 
スタジオアルテック
連絡先   東京都目黒区柿の木坂1-12-13A101(東京スタジオ)
TEL   03-5731-7244
FAX   03-5731-7245
E-mail   st.artec@cronos.ocn.ne.jp
URL   www.studio-artec.net
 
建築家の一言

鎌倉の杜
高齢期を迎える夫妻の住処です。鎌倉の地に奇跡的に残された森の中かと思わせる自然景観にのみ開かれた場所です。大木の茂る崖を背にして目の前に広がる瑞々しい緑に家全体が開かれて、安心感と開放感にみちた空間です。あらゆる季節、時間を通じて豊かな自然の営みを総覧する贅沢な空間が計画されました。家族や友人を招いてゆったりと談笑する為の空間です。

1階と2階は劇的にその空間感覚が変化します。極めてシンプルなプランである事でそれが強調されます。1階は田舎屋を思わせる素朴な素材感と気楽さに溢れています。土間を通じて周囲の草木と一体の空間です。2階もまた伝統的な和の空間の雰囲気がありますが、黒を主調とする空間は様々な要素が抽象化されて、時間の流れに添った光の変化とともに自分と辺りの自然が空中で一体化する、浮遊感に溢れた幻想の空間です。そして周辺の豊穣な自然の営みの情景とともにあり、どこからも見られない秘密めいてしかもオープンな空間は、官能性イメージさせ、生きる喜びを感じさせる悦楽的な空間としたいと考えました。

高齢期の為の空間ですからハンディキャップが生じた時にプランの変化が容易に可能な想定がされています。1階は回廊状の動線に添って中心の2間の周辺で全ての生活機能が可能であるように設えることができます。また、ゆったりとした勾配のふたつの階段で家全体を回遊することができます。
高齢期のためと書きましたが、実は大広間と二つの小間をもち充分な納戸を備えた此のプランは誰にでも快適に住まえる原型としてのプランニングとなっています。

 
渡辺篤史の感想
都心から僅かの時間で来れる場所とは思えない深い森に囲まれた建物です。大屋根を支える無数の柱が木立を思わせ、建物自体が周囲の森に溶け込んでいます。ここに身を置くと、虫や鳥の鳴き声、小動物の蠢く気配までもが身近に感じられます。自分の体までが森と一体になったような感覚が味わえる、森と共生する建物です。