放送したお宅
2008年11月16日(日)放送
東京都新宿区・林邸
−千客万来 もてなしの館 都心の現代民家−

2005年8月完成

敷地面積 69平米 (21坪)
建築面積 40平米 (12坪)
延床面積 144平米 (43坪)
RC造+木造
建築費:非公開 坪単価:非公開



都心の住宅地。黒い板壁、木目を写したコンクリート塀、縦格子の門扉が落ち着いた和の雰囲気を醸します。大きな柳の木がシンボルです。

1階は、玄関と使い方を限定しない広間。アプローチ、土間、壁のコンクリートに施された削(はつ)り仕上げは、ご主人と息子さん、友人たちの手によるもの。竣工後、約半年かかったそうです。

2階は、約20畳のダイニングキッチン。2階から上は木造で、通し梁や藁入りの土壁など伝統的な工法で作られています。

現在暮らしている4人は全員料理人。4人が同時にキッチンに入っても余裕あるスペースです。業務用設備も楽々使いこなします。

2階中心の曲線を描く壁の中はトイレ。西側のバルコニー、階段前の円いスペースなどで、外部の景色を取り込みます。

3階は、現在主寝室として使われている広間。屋根の形そのままの屋根裏部屋感覚。3本の丸太で組み上げられた登り梁に迫力を感じます。壁面は和紙貼り。

同じく3階に水回り。浴室の壁の上半分は檜、下半分と床、浴槽は御影石貼り。ガラスの天井を透かして、ここからも迫力ある丸太の登り梁が見えます。

地階は仲間が集まるセカンドダイニング。専用の入口があるので、来客は外から直接出入りできます。土間に埋め込まれたレンガは、上海の取り壊されたビルで使われていた物だそうです。

建築家のプロフィール
川口 通正
1952年   兵庫県生まれ
独学で建築を学ぶ
1983年   川口通正建築研究所設立
現在、工学院大学非常勤講師、NPO法人家づくりの会代表理事、日本建築学会会員
1992年   「草絲館」でUD都市建築部門賞受賞
1999年   「土庵」で川口市都市デザイン賞まちかどスポット賞受賞
著書に『狭い敷地での間取り』(共著、1996年彰国社)
 
川口通正建築研究所
連絡先   東京都文京区小石川1-6-1春日スカイハイツ801
TEL   03-3815-9954
FAX   03-3815-3573
E-mail   kawag@hkg.odn.ne.jp
 
建築家の一言

この建築は都心のど真ん中の北新宿に建っている。敷地面積は約20坪である。もともとは建売住宅で家族と暮らしていたが、子供たちが自立し、建主も人生の節目にさし掛かっていたこともあり、老朽した建物を建て替えることを決意して設計の依頼があった。建主の要望は、どこでも寝られる家でありたい、そして民家のように力強くやさしい家であること。さらには、「気」の力のように人の動線は、時計回りにしたいというものであった。
敷地からは、運良く北側に新宿区指定の保存樹であるクスノキの大木が見え、南側には高層の東京都庁舎が見える。それを生け採るために南北に開口を設け、夜景が美しいので、その位置に食事空間を設けた。
この住宅では、地階と1階をみんなが集まる多目的な空間とし、鉄筋コンクリート造とした。2階は居間、食堂、台所として木造にした。3階は法規上の斜線制限の形態通りに3方向から丸太を組み上げた構造として屋根型を構築した。
この住宅では上層階に至るにしたがって素材が柔らかくやさしいものに変化するように考えた。地階は解体レンガ(上海ブルー)とコンクリートはつり仕上げ。1階は黒塗りの板張りとコンクリートはつり仕上げ。2階は骨太な木材と左官壁塗り。3階は和紙と黒塗りの板張りと丸太というように変化をつけた。私は、住宅の素材が年代を追ってどんどん軽薄になったと感じているので特に素材にこだわった、この建築は名棟梁である苔原順二さんとその二人の息子がコンクリート型枠も含めて、全ての工事を行なった。そして内部のコンクリートはつり仕上げは建主である林陽富さんとその息子と友人ふたりの4人で半年以上かかって達成した。

 
渡辺篤史の感想
都心の便利ではありますが厳しい敷地です。建主の林さんは「目利き」ですね。設計に川口さん、施工に苔原さんという、いずれも名手を選びました。そして、3人の出会いが、この個性豊かな建物を生み出しました。ハード面では骨格の逞しさに、ソフト面では多くの人を招き入れてもてなすことのできる設えに感心します。
人生には多くの出会いがあります。こんな素晴らしい建物にお邪魔できたのも、一つの「出会い」だと感じます。