放送したお宅
2008年4月6日(日)放送
東京都渋谷区・東邸
- 都市住宅の名作「塔の家」 20年ぶり再探訪 -

1966年9月完成

敷地面積 21.6平米 (6.2坪)
建築面積 11.8平米 (3.6坪)
延床面積 65.1平米 (19.7坪)
鉄筋コンクリート造(壁式)
建築費:非公開
坪単価:非公開



市街地の高いビルの合間に立つ、小さな「塔」のような建物。40年以上前の建物とは思えない斬新なデザインです。粗いコンクリート打ち放し仕上げが、今日の目で見ても新鮮です。

1階は車庫。外階段を昇った2階の玄関を入ると、すぐにLDK。内壁も外壁同様の粗いコンクリート打ち放し仕上げです。

7畳大のスペースですが、3階までの吹き抜けや部屋と一体化した階段室が広さを演出します。台所の窓からは街の様子がよく見えます。40年間の街の変貌を見つめてきた窓です。

竣工当時からは、床がビニールシートからフローリングへ、窓枠が鉄製から木製へと変更されました。造作家具もオリジナルと同じデザインで作り直されています。

3階は水回り。大通りに面していますが、外部吹き抜け分のセットバックがプライバシーを守っています。造作家具の中で唯一オリジナルのままのベンチは飾り棚として使っています。

4階主寝室。道路面は大きな窓で開放的ですが、庇の「垂れ下がった」部分が安心感をもたらします。

最上階=5階は元・子供室。3畳にも満たない部屋ですが、屋上テラス、そして部屋と一体化された階段室の効果で実際よりも広く感じます。

現在は収納として使われている地下室。「塔の家」完成当初は父・孝光さんのオフィスとして使われていたそうです。

建築家のプロフィール
東 孝光
1933年   大阪府生まれ
1957年   大阪大学工学部構築工学科卒業後、郵政省建築部
1960年   坂倉準三建築研究所
1967年   独立
1968年   東孝光建築研究所 設立
1985年   大阪大学工学部環境工学科教授
1997年   大阪大学名誉教授
1997~2003年   千葉工業大学工業デザイン学科教授
     
1985年~   東孝光+東環境・建築研究所
 
東 環境・建築研究所
所在地   東京都渋谷区神宮前3-42-13 鈴木ビル2F
TEL   03-3403-5593
FAX   03-3404-8936
E-mail   azuma.arch.assoc@nifty.com
URL   http://www.azuma-architects.com
 
 
建築家の一言
コンクリートは現代の土壁じゃないかというのが私の主張なんです。日本の土壁はその土地で採れる土を「わら」や「すさ」と混ぜて壁に塗りつけた仕上げですから、その土地の風土と密着した素材なんです。セメントも何処でも採れるといいながらやはりその国の大地から生まれたものですし、まして砂利とか砂は地域的なものだと思うんですね。そういう意味でコンクリート打放しというのは、土地の匂いと“人間の手”みたいなものを仕上げに反映させていくことのできる素材なんです。
それから皆さんからよく質問されるんですけれど、本当にコンクリート打放しでいいんだろうかという問題。私がコンクリート打放しを使うのはまず丈夫で中味のしっかりつまったものにしてもらうために、仕上げをしないでコンクリートをしっかりつくってもらうということがひとつ。それから当面、予算がないのに最初につくっておかなければならないものがたくさんあるということ。幸か不幸かコンクリートは長持ちする材料で人の一生を越えるぐらいの寿命があります。ですから最初から仕上げもなにもかも完備した状態でつくるというよりは、そんなに慌てないで最初に大事なものをしっかりつくっていきながら、少しずつそれに加えていくということでいいんじゃないかと思うわけです。
(1981年4月「設計セミナーレポート」抜粋)
 
渡辺篤史の感想
20年ぶりの「塔の家」再探訪でした。親子2代に渡って少しずつ手入れしながら大事に住まわれて来たからでしょうか、鉄筋コンクリート造の建物なんですが、どこか有機的な印象を受けます。建築家・東さんは約40年前にこの建物を設計された訳ですが、今日の住宅と比べても全く古い感じはありません。この時代を超越した普遍性を持っているからこそ、名建築と呼ばれているのだと感じました。
「建もの探訪」も20年目に入りました。「塔の家」のように長く愛されるよう、また新たな気持ちで番組作りに臨んでまいりたいと思います。