2007年4月22日(日)放送
静岡県沼津市・植松邸
− “ナイフで切った”7つのテラス 春の光がさしこむ家 −
2005年11月完成
敷地面積 365平米(109坪)
建築面積 169平米 (51坪)
延床面積 182平米 (55坪)
鉄骨造
建築費:5600万円
外構費・床暖房含む
坪単価:100万円



20世紀イタリアの画家フォンタナの、キャンバスにナイフで切れ込みを入れた作品から発想されたデザイン。夜になると“ナイフの跡”=7つのガーデンテラスが照明で浮かび上がります。

建物に入って最初はエントランスガーデン。周囲が全て透明ガラスで家全体を見渡すことができます。想像もしていなかった非日常的な空間です。

約28畳の広大なLDK。3か所のガーデンとガラス張りの個室を通して、あふれんばかりの光が降り注ぎます。

“ナイフで切って作られた”何と形容すればよいのかわからない変型リビング。一角にある畳コーナーの畳も職人さん泣かせです。

アイランド型キッチンは家全体を見渡す司令塔。エントランスガーデンに出られる勝手口もあって、動き易そうです。

主寝室、2つの子供部屋も壁はガラス。それぞれ2か所のガーデンに面していて明るく開放的です。もちろんカーテンは付いていますよ。

浴室の仕切りも透明ガラスで専用ガーデン付き。お風呂からリビング、寝室まで見渡せます。明るい時間の入浴が楽しそう。

お父さんの部屋だけ2階建て。らせん階段を上がった先の和室は、とても落ち着く空間です。

前田紀貞
プロフィール
1960・05   東京都生まれ
1985・03   京都大学工学部建築学科卒
1985・04〜1990・07   大成建設設計本部
1990・07   前田紀貞アトリエ 一級建築士事務所 主宰
     
現在   日本大学理工学部非常勤講師
    法政大学工学部非常勤講師
    東京理科大学工学部非常勤講師
 
前田紀貞アトリエ 一級建築士事務所
連絡先   〒201-0003
東京都狛江市和泉本町1-9-5 グラスハウスビル1F
TEL.   03-3480-0064
FAX.   03-5438-8363
URL   http://www5a.biglobe.ne.jp/~norisada/
E-mail   norisada@sepia.ocn.ne.jp
 
イタリアの画家、ルチオ=フォンタナの作品の中に、「何も描かれていないキャンバス」にパレットナイフで「切り込み」を入れただけのものがあります。この作品は、キャンバスに切り込みを入れることによって初めて、そこ(キャンバス)に張力が張っていることが視覚化され理解される、というものです。
この「キャンバス」を「空気」に置き換えた建築が【FONTANA】です。
【FONTANA】という住宅は、均質な空気のボリュ−ム(=内部)を7つの円弧状のガーデン(=外部)よって切り裂いています。この7つのガーデンから、光・風・雲・空等の自然が送り込まれ、更に、時間が経過することで、均質だった空間には、全く異なった表情が写し出されます。
究極に絞り込まれた光が幾つもの切り裂かれたガーデンから入ってくることで、人は、空間が時間と共に徐々に変化していくことに気付きます。光は1日をかけて、月は1カ月をかけて、そして四季は1年をかけて、この建物に周期という時間のリズムを付与してくれることになるのです。そしてそれは、光だけではなく、風でも、雲でも、空でも、月でも、皆同じことになります。
建築とは、空間的であるよりむしろ、とても時間的なものであるのかもしれません。
 
外観はいたってシンプルですが、一歩内部に足を踏み入れると想像もしていなかった豊かな空間が広がります。既成概念に捕われない新しい発想から生まれた建物です。
部屋の仕切りはほとんどが透明ガラスで、パブリックスペースから個室までを見通せます。建物のどの位置にいても建築面積分の空間が味わえるわけです。
これまで数多くの建物にお邪魔していますが、またしても驚かされてしまいました。建築の可能性に限界は無いのだなと、改めて感じました。