2004年7月31日放送
夏休みスペシャル(2)
兵庫県神戸市・大谷邸
-神戸10坪 構想6年 世界初!壁の無い家-
2003年3月完成
敷地面積       34平米(10坪)
建築面積     26.5平米(8坪)
延床面積    76.5平米(23坪)
PC造3階建て
建築費:3100万円   坪単価:134万円


大谷さんのお宅は神戸市街の敷地10坪に建っています。家の前の緑が美しいシンボルツリーはトネリコ。敷地の間口は約3メートル、奥行きは約9メートル。狭小敷地に家を建てるために世界初の工法が考え出されました。大手設計会社にお勤めのご主人が愛する妻と娘のために苦心して建てた建物です。

大谷さんのお宅は3階建て。全てのフロアの上下移動は階段で行います。しかも、階段は2つありました。2つの階段が交差し、オブジェにも見えます。わずかな敷地でありながら、階段に広いスペース割り当てた思い切った設計です。

LDKのある場所は最上階の3階。天井高3.7メートル、壁や柱は一切なし。10坪の敷地に建っているとは思えない開放的な空間です。トップライトからは日差しが入り込み、幻想的な空間を演出しています。

新しい工法は工場で造ったコンクリート平板を互い違いに積み上げていくというもの。このおかげで平板の間に隙間が生まれ、圧迫感の無い空間ができあがりました。この家を建てるにあたり構想だけで6年もの歳月がかかったそうです。ご主人は通勤途中や休憩時間に思いついたアイデアを手帳に書きとめたとか。石の上にも6年?七転八倒、考えに考え抜いて、この設計にたどりつきました。

キッチンは階段横に配置。収納はコンクリート平板の隙間に板を差し込んだだけのシンプルなもの。板を差し込めばどこでも棚になります。階段上の家事机とイスも板を隙間に差し込んだキャンティーレバーとなっています。

浴室は1階にあります。スペースは大変狭く、縦に置いたバスタブ分のみ。隙間に置かれたガラスが外の光を通し、明るく光っているようです。見上げればトップライトがありました。トップライトからは玄関のトネリコが見えます。

トイレ兼ユーティリティにはトイレと洗濯機が置いてありました。こちらには扉がありません。これには驚きました。慣れてしまえば、とても開放的になるそうです。洗濯機の奥はクロゼットになっていました。

1階には浴室、ユーティリティの他に多目的室がありました。中央に置かれたテーブルは結婚した時に作ったそうです。ここからは玄関前にあるトネリコの緑が見え、穴蔵から外を見ているような安心感のある空間となっています。

大谷 弘明

1962年   大阪府生まれ
1986年   東京芸術大学美術学部建築科卒
1986年   日建設計入社 現在に至る
 
E-mail (勤務先 日建設計)   ootani@nikken.co.jp
E-mail (自宅)   h.inatho@r8.dion.ne.jp
 
ここに暮らすために、次のような「非常識な」常識を考えた。(1)街にひらく。洞窟の奥から外界を眺めるような安心感を得る。(2)狭い土地でも、立派な樹を植え「森」と成す。(3)家全体の空気をひと繋がりとする。(4)狭い家だが階段を2本つくる。階段も一つの居場所となる。(5)すべて動線としてつくり、循環させる。どこにも終点をつくらない。わざと長く歩かせる。(6)視線の跳ぶ距離を長く通す。(7)収納はわざと少なめ、かつ目に見えるようにして、強制的に整理せざるを得なくする。(8)棚は、床から浮かせて隅々まで床を見せる。(9)埋込み照明や造り付け棚をつくらず、動かせるよう隙間に差し込むだけとする。(10)未完の状態を保つ。そして綺麗につくらず、最初から新品に見せない。
 
大谷さんのお宅はとても狭いボックスとなっています。そのスペースに階段を2つ設置しました。普通だったら階段ではなく他の部屋を広くするのではないでしょうか。しかし、大谷さんは思い切って階段スペースを広く取りました。大谷さんのお宅は3メートル四方の部屋が3つとキッチンが主な生活空間です。どのスペースも狭いですが、この階段とつながりを持たせることで、広く感じられようになっています。壁面はコンクリート平板を積層させています。トップライトの光があたると縦と横の影が交わった格子のようにも見えます。白っぽい部分、少し薄い影の部分、スリット奥の闇を感じる部分があり、これがスペースの拡大に役立っている感じがします。この番組を通し、いつも建物の新たな可能性と出会います。 今回の出会いは特別な感じが致しました。