2004年7月24日放送
夏休みスペシャル(1)
京都府京都市・長坂邸
−京都に暮らす 緑を眺める10坪の家−
2000年12月完成
敷地面積       73平米(24坪)
建築面積       42平米(13坪)
延床面積     90.5平米(27坪)
木造3階建て
建築費:1949万円   坪単価:71万円


長坂さんのお宅はいにしえの街、京都になじむ黒壁の建物。黒壁の素材は自然の砂の混ざった樹脂でできています。敷地の間口は4.8メートル、奥行き14.9メートル。間口が狭く、縦に長い、建築家のご主人が愛する家族のために設計した京都の町家となっています。

玄関からは2階へ上がる階段とその奥にあるダイニングテーブル、北庭の緑が見えま す。玄関からアプローチを見返すと前庭の緑と通りの奥にある借景を眺められます。 長坂さんのお宅は寺院の向かい側にあります。この土地を選んだのもマンションなどが向かいに建つことがないからでした。

ダイニングは中央に大きなダイニングテーブルを設置。北側の窓からは庭の緑を楽しめます。南側だけに庭などを設け、採光を獲得しようとするケースが多いですが、北側に庭をつくり植栽を植えることでとても豊かな空間になりました。

キッチンは全て大工さんに造ってもらったそうです。特注のステンレスのシンク、機器類を入れても50万円で出来たとか。素材は構造用合板やシナベニヤを使用。素材を安く押さえることでキッチンのローコスト化が実現しました。

2階、3階は全てがリビングのようなスペースになっています。名付けて「家族室」。スキップフロア−で構成され、どの空間にも個室がありません。他のスペースと間仕切りされた寝室も無く、2階の各フロアにベッドスペースがついています。

家族室はどこに身を置いても北と南の開口部から美しい緑が見えます。2階の南側のフロアではネコのKiKitちゃんが気持ち良さそうに横になっていました。居心地は最高のようですね。

3階は家族の憩いのスペース。屋上テラスへつながっています。室内のフロアはテラスのフロアレベルより一段下がっています。この段差を利用し、ベンチとして使用。家の中に縁側があるような不思議なしつらえです。

屋上テラスは比叡山を望めます。ここでかき氷、夕涼み、お月見と京都の夏を満喫できます。

長坂 大

1960年   神奈川県生まれ 
1982年   京都工芸繊維大学住環境学科卒業,松永巌・都市建築研究所
1985〜89年   アトリエ・ファイ建築研究所
1990年   Mega設立
1989年〜2002年   京都工芸繊維大学造形工学科助手
現在   奈良女子大学人間環境学科助教授,工学博士
 
Mega
〒606-8102
京都府京都市左京区高野清水町71
TEL   075-712-8446
FAX   075-712-6489
E-mail   mega71@venus.dti.ne.jp
 
この家の敷地は京都の大きなお寺の北側に隣接し、塀越しにのぞく樹木群が将来も保存されることを期待して選択されました。住み手は現在、夫婦と6歳の娘の3人。スキップフロアによって上下3層の立体的家族室をつなぎ、同時にその床の高さの工夫によって、道の向こうの緑と光を取り入れています。「北の庭」は密集地という条件に対する標準解答のひとつで、3階建ての1階北側であるにもかかわらず、明るい部屋になっています。この家には通常の「寝室」はありません。家族室に付属されたベッドコーナーがあるだけですが、それなりの死角となっており、小さな住宅を広く住むための工夫として機能しています。屋上テラスからは南側のお寺の緑や西側の神社 を一望できますが、最上階が南に開かれている心理的効果は大きいと思います。ちなみに外壁の素材は自然の砂を樹脂で固めたもので、その奥行きのある色合いが気に入っています。
 
長坂さんのお宅ではネコのKiKiちゃんがあちこちに身を横たえてくつろいでいました。ネコは居心地の良い所を発見する生き物です。ということはこの家全体が心地良いスペースになっていることです。空間の取り方である間取りは少し大げさに言えば、人間の解放につながっています。戦後復興の中で、住宅においての間取りは何LDKと形にとらわれてきました。建築家が考え出した実験的で新しい住宅を番組を通し、拝見して参りました。その度に人間自身がつくり上げた縛りから解き放たれ、自由度の増した住宅に出会えました。長坂さんのお宅も色々な意味で解放してくれる住宅となっていました。