2004年1月3日放送
東京都世田谷区・古谷邸
-樹木と光あふれる新2世帯住宅-
2001年1月完成
敷地面積   597平米(181坪)
建築面積    234平米(71坪)
延床面積   360平米(109坪)
木造2階建て
建築費:7780万円  坪単価:71万円(空調・衛生費含む)


古谷さんのお宅は緑に囲まれた2世帯住宅。家を囲んでいる木々は3世代続くものもあります。設計は建築家であるご主人が行いました。 子世帯が右側、親世帯が左側。テラスを挟んで一つ屋根の、ジグザグ形です。これは、地震にも強い形だとか。


子世帯のLDKは一続きの代空間。窓は高さ3.5メートルの縦長のスリットになっています。ガラスは強化ガラス。この窓高は、何処まで大丈夫か実験的な試みだったそうです。


リビングには箱形の収納が4つ。デザインガラスの扉からは中のものがすこし見えます、一方見せたくないものは、白い木製の扉の中へ。さて、同じような収納ボックスかとおもいきや、1つのガラス戸を開けるとその中は・・・・・

そこは水周りとなっていました。壁はガラスブロックを組み合わせた、ブロック塀。浴室にあるのはライムストーンをくり抜いて作った浴槽。職人さんは大変な苦労をされたらしく、二度とこんな浴槽は作らないと言われたそうです。

2階のフリースペースからも庭の美しい緑が眺められます。ここは親世帯と子世帯、お互いのプライバシーが気になるところでもあります。お互いの目線が少しでもずれるように2階のフロアレベルを変えています。こうするだけで正対している感じが薄れますね。

親世帯のリビングも緑を取り込んだ空間となっています。お父さんははじめガラス張りの家に抵抗があったそうですが、今では、緑を感じながら生活できる空間を気に入っているそうです。床は白モルタルで床暖房入り。

和室は広さ6畳。和室には2つのボックスが並んでいます。
床の間のように見えたボックスは、壁が開き、中は収納になっていました。

2階のお母さんの部屋は画室となっていました。この家のジグザグ型をモチーフにした絵もありました。息子さんの作った家に影響を受けてお母さんの作品が生まれる。作品を通してコミュニケーションが図られているような気がいたしました。

古谷誠章(ふるや・のぶあき)
1955年   東京都生まれ
1978年   早稲田大学建築学科卒業 
1980年   早稲田大学大学院修了 
1983年   早稲田大学助手 
1986-1987年   文化庁芸術家在外研修員としてマリオ・ボッタ事務所に在籍
1990年   近畿大学工学部助教授
1994年   早稲田大学理工学部助教授 NASCAを設立(共同:八木佐千子)
1997年   早稲田大学教授
     
主な著書    
    「Shuffled」(2002年,TOTO出版)
主な受賞歴    
1991年   第8回吉岡賞受賞「狐ヶ城の家」
1999年   日本建築家協会新人賞受賞「詩とメルヘン絵本館」
2000年   日本建築学会作品選奨受賞「香北町立やなせたかし記念館」
2002年   日本建築学会作品選奨「会津八一記念博物館」
2003年   日本建築学会作品選奨「ZIG HOUSE/ZAG HOUSE」
     
NASCA

〒160-0052
東京都新宿区戸山3-15-1 日駐ビル4F
TEL   03-5272-4808
FAX   03-5272-4021
E-mail   nasca@studio-nasca.com

医者の不養生、紺屋の白袴とはよく言ったもので、私は自分が建築の設計をするようになってからも、ずいぶんと長い間、いろいろないわゆる賃貸の空間に暮らしてきました。しかも、それぞれ住み始めた最初の頃は、まあそれなりにそのインテリアの「建築的工夫」を人に見てもらえるように整えたりしたものの、緊張感が弛むにつれ、次第にだらしない暮らし方になってきます。おまけに元は無かった子供ができ、彼らがアッという間に大きくなるにつれて、窮屈になるやら、コントロールが効かなくなるやらで、お世辞にも「シンプル」だの「ミニマル」などとはいえない居住空間ができあがってしまいました。
でも見方を変えると、これもまた何となくリラックスして住み心地も悪くはないと思えるようになります。ただ問題は、少々物が散らかった程度では空間の力を失わないぐらいの、ザックリとして骨太な家が必要なんだなということでした。東京23区内では6割以上の人たちが賃貸空間に住んでいるというのに、およそ貸間のたぐいは家賃の計算ばかりで作られてきちゃったので、なかなかいい空間には巡り会えないわけです。
ずっと後回しになっていた我が家を作ろうと思い立ったのもそんな事情が限界に達してきたからです。両親もあまり年をとり切っちゃわない前に、なんとかしたいと考えました。結果はごらんの通り(あるいは画面には隠れているところ?)で、家の中にはいろいろとゴチャゴチャしている部分もありますが、大振りな空間にまとめたおかげで、いざとなればまたちゃんと片づけられる程度の「復元力」のあるものになりました。
 
古谷さんのお宅の庭は巨樹が住む雑木林。この建物は、どこか庭とあいまって懐かしさを感じさせてくれます。ところが伺ってみると、実はあちこちに挑戦的な試みがなされていました。まさに、実験住宅。大学教授でもあり、建築家でもある古谷さんは、二つとして同じ建物を建てたことがないそうです。果敢に新しいものに挑戦されているんですね。そして、古谷さんのご家族は皆、創造、表現、芸術に対する理解がとても深いという事を感じました。