2003年11月8日放送
東京都小平市・笠原邸
-感動秘話 1500万と柿の木の家-
2002年10月完成
敷地面積   105平米(32坪)
建築面積    41平米(12坪)
延床面積    80平米(24坪)
木造2階建て
建築費:1500万円  坪単価:62万円


笠原さんのお宅は敷地32坪に建つ木造2階建て。ご主人は建築家から外観のコンセプトを「倉庫に使う外壁材を使用した倉庫のような外観」と説明されたとか。しかし、できあがった家を見たご主人の感想は「倉庫のようなというより、倉庫そのもの」だったそうです。当初は驚かれたそうですが、今ではとても気に入っているとか。家の前には大きな柿の木があります。この柿の木は敷地を購入した時からあったもの。ご夫婦は家を建てる際にこの柿の木を残したいと思っていたとか。そして、この土地を初めて見た建築家も同じように思われたそうです。敷地を見ただけでまず考えた事が一緒だったんですね。

1階のLDKは広さ16畳、天井高3.2メートルの空間。床はコンクリート、壁は化粧を施さず、あえて下地材の構造用合板剥き出しにしています。通常、下地材の上に仕上げ材を使用しますが、これを用いないことでコストダウンにつながっています。寒さの心配もありますが、外断熱もしてあり、床暖房も入っているため暖かく快適に過ごせるそうです。削るところは削って、その浮いた費用で快適に暮らすために必要なものが設置できました。

LDKの壁の一部に靴が入れられています。実はこれが下駄箱ならぬ靴収納。大工さんのアイデアで柱の間に板を入れただけの収納が完成したとか。現場で作業をする職人さんのアイデアも取り入れることで家のおもしろさが増しました。

キッチンはステンレス製。特別に作ってもらったものだとか。家族が動き易いようにカウンターとなるシンク台は斜めに設置。キッチンの棚も構造材の間に板を入れただけのもの。そして、広々とした床下収納もありました。スキップフロアーでできたスペースの有効活用です。

ご主人の仕事は漫画家。仕事場はLDKとカーテンで仕切られています。ご主人のデスクとアシスタント用のデスクが並べられていました。このデスクの並びは仕事の受け渡しや指示が出しやすようになっています。このスペースはLDKよりフロアレベルが高くなっているため、カーテンを開けると1階すべてを見渡せ、空間に広がりがでます。

キッチンの上にアシスタントの仮眠所も作ってありました。アシスタントにとってはホッと一息つけるスペース。ついついゆっくりしてしまいがちですが、あまりゆっくり休まれて困るので、そこはご主人の目がしっかりと光っています。

2階の子供室は広さ12畳。お子さん2人のスペースです。この部屋もカーテンで間仕切りできるようになっています。自分の部屋が欲しいというお子さんの夢が叶いました。

笠原さんのお宅には縦に長い突き出たデッキがあります。縦に長いのには訳がありました。一番端まで来ると目の前にあるのは柿の木。このデッキは柿の実を採る柿採り台だったんですね。


柴田 晃宏  比護 結子

柴田晃宏    
1968年   兵庫県に生まれる
1990年   大阪大学建築工学科卒業
1992年   東京工業大学大学院修士課程修了
1992年~1999年   ⑭デザインシステム
1999年   ikmo設立
1999年~   東京テクニカルカレッジ非常勤講師
2000年~   法政大学非常勤講師
     
比護結子    
1972年   愛知県に生まれる
1995年   奈良女子大学卒業
1997年   東京工業大学大学院修士課程修了
1999年   ikmo設立

一級建築士事務所 ikmo

東京都大田区池上3-15-10-300
TEL   03-3755-1183
E-mail   ikmo@neko.biglobe.ne.jp


建主との出会いは青山同潤会アパートの個展でコンクリートの花瓶を買っていただいたことでした.私達が敷地を訪れて先ず目に付いたのは柿の木でした.これは残せないかと話してみたところ笠原さんも残したいとのことでこの住宅のテーマ「カキノキノイエ」が決まりました.室内にはアトリエの他、仮眠スペース、アシスタントを含め8名で食事の出来るダイニング、子供部屋、寝室が必要とされ、限られたスペース内で、また予算的にローコストにこれらを満たす為に、外観をシンプルな形態にする、カーテンやスキップフロアを利用して壁や扉を必要最小限に抑える、外断熱として内装仕上げを省き間柱の奥行きを収納等に利用する、といった手法を採用しています。これらは様々な要素を切り詰めていますが、天井の高いリビングや床下収納等を確保して空間的な広がりや立体的な楽しさを作り出し、また配管・配線を全て露出としてメンテナンスも容易となるなど、逆にその潔さが面白さや豊かさにつながって、複合的に良い住宅になったと思います。
 
笠原さんのお宅は32坪と決して広くはありませんが、セットバックして緑を道行く人に提供しています。そして、建物は素材の質感を大切にした化粧気のないすっぴんな建物。モダンでとてもおしゃれな空間です。ディテールにこだわったしっかりとした建物で、使いやすくて、美しいという「美・用・強」という要素が入っています。建築家との出会いは“建築家の作った花瓶”。ひとめぼれした作品から、家作りにまで発展しました。この家は縁(えにし)が作り上げた建物といえるのではないでしょうか。