2003年7月12日放送
東京都・川崎邸
-構想16年 国籍、時空を超えて建つ-
1998年3月完成
敷地面積     311平米(94坪)
建築面積     155平米(47坪)
延床面積     396平米(120坪)
RC造地階+3階建て


川崎さんのお宅は家族4人が住まうRC造の建物。玄関に入ると向かれてくれるのは、アンティークの多くの家具や置物たち。川崎さんは16年もの歳月を掛けて、自宅を建てるときのために様々なアンティークの家具や置物を集められました。時には取り壊すお寺や神社に出向き、譲ってもらったものもあるそうです。アンティーク家具の中に色鮮やかな生け花がありました。こちらはフラワーデザイナーである川崎さんの作品。テーマは「出会い」。

川崎さんはトイレにもこだわりました。トイレには便器の正面に小さな坪庭を設け、山から採ってきた雑木を植えています。トイレが一番落ち着ける場所だという川崎さんは外で用を足す感覚が味わえるように山の一角を再現されました。また、鈴虫の巣にもなっているため、夏には虫の美しい音色が聞こえてくるそうです。情緒を楽しむ空間です。

リビングは広々としたスペースを確保されています。置かれた家具はアンティークからモダンデザインのもの、西洋から東洋のものまで年代や国籍を超えて色々なものが置かれています。面白いのが天井材。天井にはすだれを採用されました。意外なものを用いるのもいいものですね。

リビングには2つの庭が設けられています。2つとも雑木林を彷彿とさせてくれます。1つは自然の中の小さな沼が現れたような池となっています。ここには20種類もの昆虫や小魚が生息しています。そして、もう1つが野鳥の巣とも言うべき空間。ここには庭全体に網を張った巨大な鳥カゴとなっています。

2階には和室もありました。まさに男の隠れ家的な空間。ご主人はこちらで友人達を招いてお酒を酌み交わされるそうです。襖は以前屏風だったもの仕立て直したとか。奈良県の小道具店で安く譲ってもらったそうです。

ダイニングとキッチンはリビングから90cm掘り下げて囲われた穴蔵のような空間となっています。ご夫婦共に料理をされるので広めのスペースを確保。ここにもアンティークのものや面白いものが置かれています。中でも食器棚はイギリスでワイシャツ入れに使用されていたとか。

3階の浴室は広々としたスペースに大きな浴槽、そして、熱帯植物が植えられたジャングルにお風呂を設置したような雰囲気になっています。このお風呂に魅せられて近隣の方がもらい湯に来るとか。

お風呂の横にはデッキもありました。もちろんここも緑に囲まれています。湯あたりした時に涼むのも良し、友人達と湯上りに一杯やるの良し。川崎さんのお宅はどこにいても人生を楽しめる筆舌に尽くし難い建物です。


高橋 尚人

1953年 栃木県生まれ。
   
    東洋大学文学部卒業、大学院在籍後、早稲田大学専門学校(現 芸術学校)建築設計科卒業。
キタムラ アソシエイツ等を経て1989年アノニム建築設計室設立。
現在に至る。
   
アノニム建築設計室

さいたま市浦和区岸町7-6-1-206 
TEL   048-831-3831

建物とは施主と施工者と一緒に造ってゆくものだと思っています。この建物もそうです。これからも設計者だけが突出することなく、規模やコストに拘わらず良いものだけを造ってゆきます。
 
川崎さんのお宅のテーマは「共生」です。鉄筋コンクリートのしっかりとした建物に植物、鳥、昆虫、小魚などが共に生きています。川崎さんは集めたアンティーク家具を生かせる住まい造りを16年掛けて考えられました。ここまでできる方はあまりいないような気が致します。とにかくこのお宅に身を置いて時間が経てば経つほど肩の力が抜けて、とろけるような時が過ぎていく気が致しました。