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パク・チョンヒ元大統領暗殺を題材にした韓国映画「その時、その人々」をめぐる一部シーンの削除判決で、大きな議論を呼んでいる「表現の自由」と「検閲」の問題。実は、国ごとの価値観や考え方によって上映禁止の烙印を押される映画は数多くあります。では、日本でも密かに上映中止となった作品はあるのでしょうか。そして、世界ではいまどんな検閲・規制が行われているのでしょうか。映画の世界を例に、「表現の自由」と「検閲」の問題を考えました。
あの大ヒット作も上映禁止に!
これまで「セカイノニュース」でも何度か取り上げてきた韓国映画「その時、その人々」。バク・チョンヒ大統領暗殺事件を描いたこの映画は、日本語が使われたり日本の演歌が使われていることで上映前から話題となっていましたが、公開直前、遺族が元大統領の人間性の描き方に問題があると訴え、更に物議をかもすこととなりました。
この訴えに対し、裁判所が下した判決は、問題のシーンの削除命令。この判決を受けたイム・サンス監督が取った手段は、4分間にわたるそのシーンを全て黒塗りにして上映するというものでした。「明らかに政治的な判決でしたね。時代錯誤的で国際的なスキャンダルだと言えます。韓国ではパク・チョンヒ時代から映画に対する事前検閲が大変厳しかったのです。多くの映画人たちが一生懸命に戦って、ついに表現の自由を獲得してから数年も経っていないのに、再びこの事件によって検閲のハサミが入れられるとは、誰もがあきれているし胸を痛めています。」韓国政府が「表現に検閲を加えた」と主張する監督。さらにバク・チョンヒ元大統領の娘で最大野党ハンナラ党代表、パク・クネが、「この映画には問題がある」と発言。問題はますます政治的色合いを深め、公開から1ヵ月が経ったいまも、黒塗り映像のまま上映が続けられています。
このようなことはもちろん韓国だけのことではありません。実は世界的に大ヒットした映画であっても、国によっては上映禁止の憂き目をみることもあるのです。キアヌ・リーブスが悪魔払いの祈祷師を演じる「コンスタンティン」は、イスラム教を国教とするブルネイで上映禁止に。
理由は明らかにされていませんが、キアヌ・リーブスが神を激しく非難するシーンが問題にされたといわれています。マレーシアでは、アカデミー作品賞・監督賞など7部門を獲得した「シンドラーのリスト」が残虐なシーンが多いとして上映禁止。また、ニコール・キッドマンがアカデミー主演女優賞を獲得した珠玉の人間ドラマ「めぐりあう時間たち」では女性同士のキスシーンが全面カットとなっています。ほかにも、タイ王室を描いた、ジョディー・フォスター主演、「アンナと王様」が、王室に敬意が払われておらず、歴史をゆがめている、としてタイでは上映禁止になっているのです。

また、昔は上映できたものの、時代を経ることで上映禁止となった映画も存在します。それは、映画史に残る名作「風と共に去りぬ」。ハリウッド史上最大の観客動員数を誇り、作品賞・監督賞などアカデミー10部門を独占したこの作品が、アメリカでは現在、公共の場での上映を禁止されているのです。その理由は人種差別。乳母や爺やが白人農園主に忠誠を尽くす姿が、現在では受け入れられないというのです。この映画がいま、アメリカで行われる「好きな映画アンケート」などに登場しないのも、そのことが理由となっているのです。
黒澤、小津も…戦前・戦後の「検閲」
日本で初めて上映禁止処分となった映画は、1908年・明治41年のフランス映画「仏蘭西大革命ルイ十六世の末路」。東京・神田で上映されたこの映画は、市民の力で革命を起こし、専制君主、ルイ16世を処刑に追い込んだフランス革命を克明に描いたもの。これが、革命を助長しかねないととられたのか、「治安に害がある」としてまもなく上映禁止になりました。

1917年・大正6年には児童に悪影響を与える、として警視庁によって「活動写真取締規則」が発令されました。当時、洋画を見た子供が決闘シーンを真似するなどして、問題となっていたのです。この発令を受け、児童の映画鑑賞は禁止になり、映画館での男女の席が別々に。そして、内容の検閲も本格的に行われるようになっていきました。

更に1939年、ニッポンが軍国主義へと突き進んでいた時代になると、より一層、検閲は厳しさを増します。娯楽映画だけの上映は禁止され、同時にニュース映画の上映も義務付けられるようになったのです。検閲の結果、脚本段階で映画化を禁止されたこともしばしば。例えば日本を代表する映画監督・小津安二郎氏が、1939年、中国戦線から帰還したばかりのときに脚本を執筆した「お茶漬けの味」。鈍感なダメ夫が戦地へ赴くことになり、そのことをきっかけに妻が夫の存在の大きさを知る、というこの作品は、一見、何の問題もなさそうですが、軍部よる検閲の結果、「あまりにも日常的で非常時にふさわしくない」と、映画化を却下されたのです。小津氏は戦後、この脚本を「戦地への出兵」から「海外出張」へと設定を直し、映画化。夫婦がふたりでお茶漬けを食べるシーンはいまや伝説ともなっています。日本が世界に誇るもうひとりの巨匠・黒澤明監督のデビュー作「姿三四郎」も、再上映に際して検閲にひっかかり、男女の逢引のシーンが15分ほどカットされてしまいました。しかも戦後の混乱でカットされた部分のフィルムは発見できず、そのシーンは永遠に失われてしまったのです。

そして迎えた戦後、GHQの占領下でこれまでの言論・出版・表現の自由を制限する法律は全廃。しかし、今度はマスメディアがGHQの監視下に置かれるようになり、映画界ではGHQ指導のもと、映画の上映内容を審査するための機関・映画倫理規程管理委員会―いまの映倫の前身となる団体が誕生しました。
そして今度はこれまでとは逆に、「反民主主義」的な表現が取り締まりの対象となったのです。その代表が、忠義・あだ討ちを描いた「忠臣蔵」。歌舞伎演目の多くもこのとき上映禁止となりました。
映倫の誕生と性表現
その一方で、GHQは、それまで日本映画にはなかったあるシーンを取り入れるよう、積極的に奨励しています。それは「キスシーン」。アメリカ文化の普及に積極的だったGHQは、アメリカナイズされた男女の在り方の象徴ともいえるキスシーンを日本の映画にもなんとか取り入れさせようとしたのです。それを受けて1946年作られたのが、「はたちの青春」。
この映画で日本初のキスシーンが披露されました。ちなみにキスシーンを演じたのは大坂史郎と幾野道子。ふたりは、消毒薬を含ませたガーゼを唇に当てて撮影に臨んだといわれています。

GHQにひとつのきっかけを与えられた日本映画は、それからわずか数年で急速にエスカレート。そして誕生したのが、自称・性教育のための映画・性典映画です。53年には若尾文子・南田洋子らが出演し、高校生の愛と性を描いた「十代の性典」が大ヒット。そして次々と性典映画が作られるようになり、社会問題ともなりました。その3年後、1956年には現在の「映倫」が誕生するきっかけとなる作品が登場します。石原慎太郎原作「太陽の季節」です。社会規範にとらわれず、やりたいことをやる…そんな若者の生き方を描いたこの作品は風紀を乱すとして社会問題に。映画・原作共に大ヒットを記録したものの、日活は結局、太陽族映画続編の製作断念に追い込まれたのです。このとき、マスコミによって追求されたのが、「太陽の季節」の上映を許した映画倫理規程管理委員会。そこで委員会は映画の業界団体から、外部の人を招いて作る、第三者機関として生まれ変わり、日本で上映される映画の全てを審査・判断する現在の映倫管理委員会が誕生したのです。

この頃から映画界で問題となり始めたのが、性表現と芸術との線引き。1959年ジャンヌ・モロー主演のフランス映画「恋人たち」で、不倫愛を描いたこの作品が大幅にシーン・カットされると、その是非をめぐり、国会でも議論されるほどの大きな騒ぎとなったです。1976年、「一般」と「成人映画」の間に中学生以下は見ることが出来ないという、「R指定」が新しく誕生しました。そのきっかけは、1975年公開された映画「エマニエル夫人」です。オランダ人モデル、シルビア・クリステル主演で、洗練されたエロティシズムを描いたこの作品は、ポルノとしてではなく、芸術性の高い作品として多くの女性客を集め、話題となりました。そしてこの作品をキッカケに「R指定」が誕生したのです。

そんな中、公開されたのが、日本初のハードコア映画大島渚監督「愛のコリーダ」。愛しすぎたゆえに男性を殺害、局部を切断し持ち歩いていたという安部定事件を描いたこの作品は、カンヌ映画祭でも大絶賛を受け、11回も上映会が行われたほど、世界的に高い評価を受けました。しかし日本では、完全な形での作品を見ることはできなかったのです。審査によって合計2分間の本編カット、さらには多くのモザイク処理などを加え、かろうじて上映にこぎつけたのです。

実はこの頃、映倫が目を光らせていたのは主に性表現。そのため、「愛のコリーダ」などには厳しいチェックが入るものの、逆に暴力シーンには極めて寛容でした。

こうした暴力が問題となるのは実はごく近年になってから。記憶に新しいものとしては、過激な暴力描写が国会でも取り上げられ、社会問題となった、深作欣司監督の「バトルロワイヤル」があります。「中学生にささげる」作品だったはずが、結局15歳以下は保護者の同伴なしには見ることができないR-15指定となったのです。ではこうした指定の基準は一体どこにあるのでしょうか。続編の「バトルロワイヤル2」が再びR-15指定となったことについて、深作監督の息子、健太氏は映倫からこう説明を受けたと語っています。「少年犯罪が多発する世相を背景に、仁侠映画や時代劇は何人殺してもいいが、中学生同士の殺し合いはいけない。使用する武器は包丁やナイフなど身近なものはダメ。銃は現実的でないからいい」と…
日本より厳しい?米映画の審査・格付け
こうしたR-15など、格付けを決定するのが、先ほども登場した映倫。現在日本で上映される映画は、すべて映倫での審査を受けています。審査するのはわずか5人の管理委員と8人の審査員。年間600本近い映画に対し、社会の倫理水準を低下させたり、青少年に悪い影響を与えたりすることのないよう、チェックし、「一般」「PG−12」「R-15」「R-18」と4つの指定を与えるのです。
ちなみに2003年度、映倫が審査した映画は邦画・洋画含め、589本。そのうち一般ではなく、なんらかの「指定」が入ったのはおよそ4割、242本でした。では、映画大国・アメリカではどうなのでしょうか。映画の都、ハリウッドを抱え、年間400本以上もの映画が作られているこの国では、実は映画は日本よりも更に細かいチェックを受けているのです。アメリカ映画協会が実施しているレイティング・格付けは、日本より多い5段階。G(一般)、PG(保護者の判断を必要とする)、PG-13(13歳以下は保護者の強い注意が必要)、R(17歳以下は保護者の同伴が必要)、NC-17(17歳以下鑑賞禁止)となっています。なんの規制もない、Gとなる映画はほとんどなく、「アラジン」「ファインディングニモ」などごくわずか。家族で楽しく見られそうな、「もののけ姫」「タイタニック」でさえ、発砲シーンがある、などの理由で13歳以下は保護者の同伴が必要なPG−13指定。「MRインクレディブル」さえ、PG指定となっているのです。実は日本でも公開されている人気映画の多くは本国では規制つきのもの。アメリカでは実に9割もの作品になんらかの規制がかかっているのです。

ヨーロッパで最多の映画製作数を誇るフランスで、映画の審査・レイティングを行うのは、文化省管轄の国立映画センター。つまり国の管轄で格付けが行われています。25人の正式委員と50人の委員代理が審議会を開き、「指定ナシ」「12歳未満入場禁止」「16歳未満入場禁止」「18歳未満入場禁止」「フランス国内で完全公開禁止」の5段階に指定されています。

ここでは規制されるのは主に暴力で、性表現にはかなり寛容。現在パリで公開中の映画26本のうち、何らかの指定がはいってるのはハードなホラー映画など4本だけです。また韓国でも指定の審査は政府が管轄する「映像物等級委員会」が行います。こちらも「制限なし」「12歳」「15歳」「18歳」「制限上映」の5段階。去年公開された362本のうち、何らかの制限を受けたのは304本とアメリカ並に厳しくなっているのです。世界では映画の検閲・レイティングは、政府管轄の機関が行う場合がほとんど。第3者機関などいわば自主的に規制しているのは、日本やアメリカなどいくつかの国だけなのです。

黒塗り映画の上映を続けているイム・サンス監督は、現在、シーンの削除命令を不服とする訴えを起こしており、監督が勝訴すれば、もう一度全編を公開しなおしたいと話しています。なお、「その時、その人々」は、日本での公開は未定だそうです。
 
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