ディレクターズアイ


 ■制作後記

“日本に2つの原爆が落とされ、終戦をむかえた”
私は、学生時代歴史の教科書でそう習った。太平洋戦争という泥沼の戦争を、アメリカが2つの原爆によって終わらせたと思っていた。私の同世代はもちろんのこと、多くの日本人もそう思っているに違いない。もはや常識といっていいだろう。
 しかし、原爆投下に関して、調べれば調べるほど、この常識が疑わしく思えてきた。
ほぼ敗戦が決定的だった日本に、なぜ原爆をしかも2発も落とす必要があったのか?それも軍人でもない市民の頭上に。いつかその真相を明らかにしたいと思っていた。
 そんな時、昨年の秋頃、鳥越キャスターから、戦後70年の年は、原爆の非人道性を正面から問いたいとの言葉を頂き、関連本を読み漁り、今回の番組が動き始めた。
結果的には、貴重な公文書や高名な歴史学者などの証言を重ね“原爆は戦争を早期に集結させたのではなく、原爆を投下するために戦争終結は遅れた”という常識とは逆の結論に辿りつくことができた。さらには新兵器の実験という目的があったことを、ザ・スクープ、ザ・スクープSPの長年の取材で培った貴重なインタビュー映像で証明することができ、まさに70年目の集大成というべき作品を担当することができて本当によかった。
そして、原爆投下を決断したトルーマンの孫と、原爆症でなくなった折り鶴の少女・禎子ちゃんの兄雅弘さんが共に平和を目指し活動している姿を取材することができ、とても心を動かされた。私には想像すらできないような地獄を目の当たりにした雅弘さん。しかし、そんな雅弘さんが取材中仰った「心の終戦」という言葉は、取材から帰ってもずっと耳に残っていた。
戦後70年という節目に、とてもピッタリな未来に向けてのメッセージだと思った。
今が“戦後”であり続けるよう、また新たな“戦前”にならぬよう日々、世の中を注視して番組を制作していきたいと思った。

ディレクター 堀江 真平


 ■制作後記 

核兵器のおそろしさを語り継ぐべきは、日本国内だけではない。
世界で唯一、それを使用した国にこそ、
その悲劇はしっかりと継承されていかなければならない。
アメリカ国内ではいまなお、半数以上の国民が、
「戦争終結を早めた」などとして原爆投下の判断を支持している。
今回の取材でも、アメリカ国内の「原爆神話」の根強さを肌で感じた。

被爆70年を迎えた今年、被爆者の平均年齢が80歳を超えた。
被爆者の中には、体調不良を理由に、これまで続けてきた被爆証言をやめる人も少なくない。
在米被爆者の笹森恵子さんも、2度目のがん手術を経験し、
被爆証言がいつできなくなるかわからないと焦りを口にした。
「あの日」を知る人々から
私たちが話を聞くことができるのは、本当に限られた期間になっている。

トルーマン大統領の孫・ダニエル氏は
その危機感を感じていた。
自ら被爆地を訪れ撮影した被爆証言は、
トルーマン博物館のオンラインで公開する予定だという。
ライターとして、今後も被爆者の声を発信し続けると語った。

核兵器廃絶に向けた法的な枠組みづくりが進まない理由は、
何も各国の政治的な思惑だけが原因とは言えない。
核超大国の「原爆神話」が消えない限り、被爆者の悲願は叶わない。

被爆者の証言をまとめた本の制作は最終段階に入ったという。
トルーマンの孫が訴える核兵器廃絶の声が
アメリカ国内でどれだけ広がりを見せるのか、注目している。

トルーマン大統領の孫ダニエル氏と

吉野篤志(広島ホームテレビ)


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