ディレクターズアイ


 ■取材後記

知人の弁護士から、あるビデオの鑑定を依頼された。
それは今から11年前、兵庫県姫路市内にある郵便局で起きた強盗事件の防犯カメラ映像だった。
犯人がかぶっていた目出し帽を取ろうとした瞬間、画像が突然砂嵐に変わり、数秒後に元の画像に戻った。
こんな現象が実際に起こるのかを鑑定して欲しいというのが依頼内容だった。
裁判にも証拠として出されたこのビデオはマスターテープではなくVHSにダビングしたものであった。
そこで私は画面に記録されている時間表示に着目した。
砂嵐に変わる瞬間の時刻は15時13分41秒、元に戻るのが2秒後の15時13分43秒。
私は早速、このVHSを我々が仕事に使っている業務用のVTRにダビングした。
というのは、正確な尺(時間)を知りたかったからだ。
我々が普段使っているVTRは1秒間が30フレーム。
つまり30コマの画像が送られると次の秒数に変わる仕組みになっている。
例えば、9分59秒29Fの次は10分00秒00Fとなる。
こうして私はVTRにかけてみた。すると時間表示されているVHSと2秒2フレームの時間差が生じていた。
時間表示の砂嵐が2秒、ダビングされたVHSは4秒。
VHSは正確に時間を刻んでいないため、長時間ダビングすると時間がずれるが、わずか2秒間で2秒ずれるのは考えにくい。
私は鑑定依頼された弁護士に、砂嵐について語っている検察の法廷証言記録を見せてもらった。
そこには信じがたい記述があった。
「マスク(目出し帽)を取ろうとしている直後に砂嵐が入って、映っていませんでした。それで、とても残念だったことを覚えています」
これが、今回の番組を企画するきっかけとなった。
大阪地検の証拠改ざんよりも、もっと前の事件でまさか同じことが。
一体、検察という組織はどうなっているのだろうか・・・
この国では、起訴されれば、99.9パーセント有罪というのがその答えなのかも知れない。
犯人とされた人物は7年間刑務所に入り、出所後も無実を訴えている。

プロデューサー 堀内雄一郎(ワイズ・プロジェクト)


 ■取材後記 

捜査機関がここまで杜撰な取り調べをするのだろうか、こんなに稚拙な証拠の改ざんをするのだろうか、
もし自分が無実にも関わらず、容疑者として身柄を拘束された時に、彼らの圧力に屈さずにいられるのだろうか。
ジャクソンさん(仮名)が関わったとされる郵便局強盗事件の取材を進めるうちに、自分の中に得体の知れない恐怖が生まれました。

私たちは法治国家に暮らしています。
犯罪者は法によって処罰され、犯罪者でなければ処罰されることはないと、無意識に安心している人が多数だと思います。
しかしジャクソンさんは全く身に覚えのない犯罪で長期間拘束され、服役した後、
現在妻や子ども達と引き裂かれるかもしれない境遇に立たされています。
弁護団や支援者らの必死の努力によって辛うじて国外退去は免れていますが、余談を許さない状況です。

私は取材者としてジャクソンさんがえん罪の被害者であると信じていますが、同時に検察が自らの襟を正す可能性も信じています。
それは無実を訴えるジャクソンさんに対して、正義の心で応じた検察事務官の存在があったからです。

事件の真相が明らかにされることが、結果として検察改革に繋がることを、一人の国民として願っています。

ディレクター 西尾雅志


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