ディレクターズアイ
ディレクター 田中伸夫
■警察組織ではなく、警察官個人の責任を問う
現役警察官の内部告発があった。冒頭、彼はこう言った。
「今回内部告発をするのは、(警察)組織のためである」と。さらに現役警察官はこう問い掛けてきた。「なぜこれまで、住民の方々が警察に抵抗すると思いますか?」と。私が「住民が無い事件で、濡れ衣を着せられたからですか?」と答えると「その通りだ。無い事件を無理やりやったから・・・。だからあそこまで住民の皆さんが警察に対して抵抗をする。その報いを受けているのが今の県警だ。志布志住民の方々には、本当に申し訳ない気持ちで一杯だ」と。
警察官の方々とは、4年前の「警察の裏金問題」以来、度々お話する機会がある多くの警察官が先般、人命救助のため亡くなった東京・板橋区の宮本邦彦巡査部長のような、正義感と自己犠牲の精神をお持ちの方々ばかりである。特に内部告発をする人たちは、「組織をよくしたい」という共通した思いが、強く伝わってくるケースが多い。今回も同じだった。
しかし、組織内部では、こうした声は封殺され、勇気を出して声を上げる人は、組織に刃向かう者という烙印を押される。この事件でも実際、捜査に異議を申し立てた捜査員は、あからさまな差別を受け、仕事を与えられない状態になった。そして鹿児島県警内では、今もその状況が続いているという。
警察組織の中に自浄作用は期待できるのか?いま、被害住民たちは、自分たちの安心と安全を守るために、今回の事件を主導した幹部警官の「懲戒免職」を求める署名運動を始めた。自分たちの生活を脅かしたのは、警察組織ではなく、あくまで警察官個人であるというのだ。
こうした発想の転換は、警察官個人の責任を問うことで、警察官一人一人に
違法な行為は罰せられるのだ、という強い警告を発することにある。組織は決して個人を守ってくれないと。これが浸透すれば、「上司の命令だから」と違法行為に手を染める警察官が少なくなることを期待しているのだ。
「正義が通る組織にしなければならない」と内部告発者は危機感を募らせ、被害住民も「悪い警察官は辞めてもらわないと安心できない」と署名活動が続いている。漆間巌警察庁長官、久我英一県警本部長は、こうした警察内部と住民の声に、きちんと耳を傾け、答えて欲しい。そして同じ悲劇を繰返さないためにも、取調室の録音録画は、早急に実現しなくてはならないと確信する。
それが懐集落の人々が21世紀日本の刑事司法に突きつけている、本質的な問題指摘なのだから。