ディレクターズアイ

ディレクター 田中伸夫
【わるいのは えらいひとだけ・・・】


昨年8月から取材は始まった。去年11月23日の第一弾を放送。その後も現場の警官から内部告発が寄せられた。
そして今年2月には、元道警最高幹部の原田宏二さんが実名告発に踏み切った。警察の最高幹部がこの問題で実名告発したのは、1984年の松橋忠光元警視監以来、実に20年ぶりのことだった。

今回の告発が20年前、松橋氏が告発した時と何が違って、何が同じなのか?
違いの第一は、不正を示す客観的な証拠が出てきていること、第二にトップではない偽装工作をした警察官本人が証言者として報道機関に接触を求めてきていることである。内部告発が更なる内部告発を呼んでいることだ。
取材できた警察官は、皆さん、警察の仕事に誇りと愛着を持っていらっしゃる方々ばかりだった。組織への「闇雲な」忠誠心ではなく、是々非々で、自分の考え方をきちんと持っていらっしゃる方々だった。現場が好きで、地域の人々と日常的な付き合いを大事にされていたのが印象的であった。そんな現職、元警官が内部告発に踏み切っていた。

「もうやめるべきだ」「ここで膿を出さないと」「嫌だった」「腐っている」
「内部では何もいえない」「言ったら飛ばされるだけ」
「警察は暴力団と同じ。黙っていても下が上の金を用意する」
「警部以上は推薦だけで昇進が決まる」

現場警察官の心のうちを初めて聞けた感じがした。警察の実態とその問題点を現場警察官自身が最も感じていた。当たり前のことだったが・・・。
先の警察刷新会議にこうした現場の警察官の声は、果たしてどの程度反映されていたのか?
マスメディア側にも反省すべき点はあるのではないかと思う。
警察の裏金問題は警察幹部を直接告発することになる。幹部たちの多額の餞別やヤミ手当ての存在は、これまで一部では指摘されてきた問題だった。
政治家もマスコミも二の足を踏んで来た側面は否めない。
ただ今回は、特に地元メディアを中心に粘り腰の報道が続いている。
名誉挽回をかけて、頑張るしかないと思う。
では、20年前と同じなのは何か?道警本部であり、警察庁だった。
「捜査上の秘密」。特権ともいえるこの言葉を振り回して、今度もまた追及をかわそうとしている。そして最後は、お決まりの『トカゲの尻尾切り』。
積年のつけはあまりに重すぎて、今回もまた問題を先送りするつもりなのか?誰も止められない官僚組織の暴走の怖さを思わずにはいられない。
いま、警察の幹部は、どんな顔をして第一線の現場警察官に、命令を下しているのか?そして、不況やリストラに不安な日々を過ごしている国民にどのように幹部はそのポケットマネーを説明するつもりなのか?

最後に、番組終了後、大量のファクスの中にあった一通の便りを紹介したい。その文面は、小学1年生と思われる幼い文字だったが、しっかりとした筆致で書かれていた。
佐藤英彦警察庁長官には、是非、この手紙に返事を書いて頂きたい。
わたしの おばあちゃんと おじいちゃんと おかあさんが
みんなでないています。
わたしも おとうさんが、けいさつの人なので、
おかねをひとから うそをついて もらっているって
テレビで まえにやったり、きょうもやったので、
学校で わたしは いじめに あうように なりました
おじいちゃんは、おとうさんの けいさつの えらい人だけしか
わるいことや おかねもらってないよ。
おとうさんは がんばって がんばって はたらいて
つかれたりして、にゅういんして 手じゅつで 
人の いの はんぶんに なっても やってるのに。
わるいのは えらいひとだけだと ゆってください。
ニュースの人たち おねがいします。
わるいのは、えらい人と いっぱい いってください。

このページのトップへ△