7月6日放送のディレクターズアイ
7月6日放送 ディレクター/丸山真樹
※後半に杉岡靖久ディレクターの記事を掲載しています。
【放送を終えて】
我々の生活にとても身近になった冷凍食品。今回のテーマとなった冷凍ホウレンソウは、かつて私も利用したことがある。レンジでチンすればすぐ食べられ、とても便利なものだ。
しかし、先日、中国産冷凍ホウレンソウから高濃度のクロルピリホスという農薬が検出された。中でも、“国の安全基準値の250倍”という高濃度クロルピリホスが検出された中堅商社の蝶理。いったい何があったのか。
早速取材を開始すると、驚いたことに、蝶理は、その時点まで把握している内容をすべて教えてくれた。違反商品を出した他の多くの会社が取材を拒否する中、「すべては今後どうするかだ」という姿勢で、我々の取材に応じてくれた。世の中にこんな会社があるのか、とつくづく感心した。
その蝶理の実態調査などから、収穫直前に農薬を散布した可能性、日本の安全基準値が農家に伝わっていない現状など、中国の農家や商社の問題点が次々と浮かび上がってきた。
しかし、中国はいま、農作物の安全性を急激に追求しているという。ある人は「中国は20年前の日本に似ている」といったが、農薬の危険性などが認識されつつある過渡期といえる。
また、ホウレンソウに関しては、中国国内のクロルピリホスの安全基準値は1.0ppmで、日本の基準は0.01ppm。つまり、日本は中国より100倍厳しい基準になっているが、この格差が認識されていなかったことも違反続出の原因のひとつではないかと思う。
ただ、何が一番問題かといえば、冷凍ホウレンソウなどの加工品に関して、これまで厚生労働省が管轄している検疫所では農薬の検査を行っていなかったことだ。我々の口に入るものがなんら検査も受けず食卓に並んでいたことになる。
実は、輸入冷凍ホウレンソウの残留農薬の危険性は数年前からあり、厚生労働省はそれを認識する機会が度々あった。にもかかわらず、それを無視してきた。行政の怠慢としかいいようがない。我々の食の安全を守るべき国が何もしていなかったとは許されることではない。
最近では、輸入冷凍野菜に関しても検疫所で残留農薬検査が行われているが、その他の加工品に関しては、検査の難しさなどから野放しになっているのが実情だ。
厚生労働省など関係機関は今後、さらに加工品全般に関して農薬検査を検討すべきだ。
厚生労働省は「基本的に加工品について残留農薬基準を設定しているというのはジュースなどを除いては世界的にもどこでも作ってないというのがほとんどだ」というが、なぜ、他国に先んじようという発想が生まれないかが本当に不思議だ。
後手後手に回るいつもの行政の姿はいつになったら改善されるのだろうか。
<参考>
厚生労働省 輸入食品監視業務ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/tp0130-1.html
※検疫所での農薬違反等の速報が記載されています。
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ディレクター/杉岡靖久 「検証!“毒菜”日本上陸 」
「また出たぞ」「今度は250倍だ」
連日のように中国産冷凍ホウレンソウの記事が躍り、メーカーや商社のお詫びと自主回収の社告掲載が相次いでいた6月、素朴な疑問が湧き上がった。
“今売られている商品は、本当に安全なのだろうか?”
早速店頭で中国産冷凍ホウレンソウを探すも、大手スーパーなど、ほとんどのところはすでに反響を考慮して、販売中止を決めていた。違反品ではない商品もだ。
それでも、商品は売られていた。都内のスーパーをまわり、5つの異なる中国産冷凍ホウレンソウを購入、研究所に持ち込んだ。
結果、5つの商品のうち1つから、基準値を超えるクロルピリホスが検出された――
今回、研究所を訪れて、感じたことが2つある。
1つ目は、今回のケースが氷山の一角に過ぎないと言う事。
野菜はホウレンソウだけではないし、残留農薬もクロルピリホスだけではない。実際この研究所では、ほかの中国産冷凍野菜からも、フェンバレレートやマラチオンなどといった農薬も検出されていた。
2つ目は、農薬の分析に、意外なほど時間がかかるという事。
そこから想像するだけでも、検疫所での分析作業がいかに大変かということがうかがい知れる。今回のような異常事態になれば、さらにその負担は増大する。しかも、ここで食い止められなかった違反品は、市場に出回り、そのまま一般家庭の食卓に上ることになるのだ。
坂口厚生労働大臣は次期国会で、繰り返し基準に違反するなどの場合は、特定の国からの食品を輸入禁止できる条項を食品衛生法に盛り込むと発表した。水際で防ぐ能力にも、限界があるとのことだった。
この一連の事件は、はたして本当に予測不可能だったのか。今回も国の対応は、後手を踏むこととなった。