5月25日放送のディレクターズアイ 

5月25日放送 ディレクターズアイ/浅中賢志
【韓国取材日記】

今回初めて北朝鮮からの亡命者数人と会った。
亡命してから1年近く経っていることもあって、見た目は韓国人と変わらないが、通訳の人(韓国人)によると、言葉のイントネーションが随分違うという。(標準語と東北弁のように)
彼らは命がけで北朝鮮を脱出してきた。インタビューの中で顔色が曇ったのは、やはり北朝鮮時代の話。飢えをしのぐために野草を食べたこともあったなど我々日本人には想像も絶する話だった。

■潜伏、亡命の方法
北朝鮮から脱出後、亡命の明暗を分けたのは、中国での潜伏生活の時、支援者と出会えるかだった。ギルス君一家の場合、国連事務所へ駆け込み、チュンシク・ソニ(兄妹)の場合、偽造パスポートまで作成してもらい、ソウルに到着後、亡命の意思を伝えたという。

一方、支援者と会うこともなく、自分の力だけで亡命した男性にも会った。37歳の彼は北朝鮮で軍で作家をしていたという。父親も有名な作家だったが、やはり食糧難などの理由で96年に北朝鮮を脱出した。そして中国に潜伏中に朝鮮族の女性と知り合い女の子が誕生、事実上の結婚生活を送っていた。しかし、このままではいつ身の危険が及ぶかもしれないということで、99年に密航船に乗り込んで大連から韓国に亡命した。そして韓国籍を取得し、1年後中国に残っていた娘と妻を韓国に呼んで正式結婚。3人でソウルで暮らしている。
現在、彼は大学生として勉強する一方、北朝鮮からの亡命者たちのネットワークの会長として、亡命者たちの相談に乗っている。だが亡命者たちの現実には、いろいろな問題点があるという。

■亡命者たちのその後の問題点
(1)生活
亡命後、亡命者は韓国社会に適応していくために「ハナ院」と呼ばれる教育施設で数ヶ月訓練を受ける。そして出る際に定着金(世帯主 370万円、家族1人80万円くらい)の支給と職業の斡旋を受けるが、慣れない資本主義の社会での生活のために半分以上はうまく適応できていないという。

例えば、定着金の使い方。北朝鮮では配給制だったためにお金の使い方がよくわからず、すぐに車など高額なものを買ってすぐに定着金を無くして生活に困るという。また、仕事に就いても北朝鮮時代の経験を活かす職に就けず苦労しているという。

(2)離婚の増加
亡命者夫婦の離婚も多いという。男社会の北朝鮮と比べ、韓国社会は女性の社会進出や意識が高く、妻から離婚を突きつけられる夫も多い。また未婚の男性も韓国の女性と付き合っても亡命者とわかり結婚に反対されることも多いという。

■今後の亡命はどうなる?
今回、2歳のハンミちゃん一家は日本領事館に駆け込んで中国当局に拘束されたものの、最終的には韓国に亡命できた。この拘束直後、駆け込みを計画した支援団体のリーダーとソウルで会った。緑色の覆面と外科医の服を着て(病んでいる北朝鮮を治す意味のため)彼はインタビューに応じてくれた。命の危険があるため名前・素顔は具体的に言えないが普通の中年のサラリーマンの印象だった。

彼は言った。「日本が中国に彼らを渡したことは予想していなかったが、今回の件は成功です。世界中に亡命者の姿を知らせることができたからです」

そして複数の支援者たちは言う。今後もあらゆる方法で亡命は続くと・・。

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