5月18日放送のディレクターズアイ 

5月18日放送 ディレクター/佐藤英和
【もう一つの集団暴行事件】

取材では多くの人に話を聞くのですが、今回発生現場周辺の住民の声は一貫して警察に対する批判に終始していました。住民曰く、「交番を訪ねても、誰もいない」「道を尋ねても分からないと答える」「呼んでも来てくれない」などです。それは、老若男女を問わずここまで擁護する人がいない警察ってなに?と首を傾げたくなるほど惨憺たる結果でした。日本が世界に誇っていた交番制度とは一体何なんだったのか、常時警戒態勢とは有形無実になってしまったのでしょうか。

取材中、一人の住民が私に言いました。
「去年もすぐ近くで同じようなことがあったでしょ?」
「何ですかそれは?」

話を聞くと、去年の9月21日に発生した暴走族による集団暴行事件でした。場所は今回の発生現場からおよそ北に1キロ離れた神戸市西区伊川谷町の河川敷。
「一方的に殴られている」との近隣住民からの110通報で急行した伊川谷交番の署員3名は現場で対応した暴走族の「ただの内輪もめ」という言葉を信じ、近くにいた被害者の会社員五名を捜索せずに、短時間で事情聴取を終えてしまったのです。

しかし、署員が到着した時、事情聴取していた場所から100メートル先では実際に暴行が続けられていました。さらに、署員撤収後、会社員らはよりいっそうの暴行を受けたうえ、免許証のコピーを取られ脅迫までされていました。署員が事情聴取したのは河川敷の公衆便所前。その便所内で数名の暴走族に見張られ、拉致されていた被害者の一人は警官と暴走族の会話の一部始終を聞いていました。被害者は「これで助かったと思ったのに…」と語ったそうです。

だが、警察の不手際はこれで終わりませんでした。その対応の鈍さは今回の浦中さん殺害事件と同等と言ってもいいくらいです。翌日、早期解決を望む被害者は被害届を提出しに現場近くの伊川谷交番を訪れます。しかし、対応した署員に「連休中で人手がないので対応できない」などと言われ、被害調書の作成を拒まれたのです。事件三日後の24日、明石市に住む被害者の一人が自宅近くの交番に事情を説明したところ、神戸西署員がやってきてやっと調書を作成。翌25日、他の被害者が、再度、神戸西署に調書作成を要請しても、西署は「体制が整わないと出来ない。何ヶ月もかかるときもある」「お礼参りの可能性もある。そうなったときに気持ちはぐらつかないか?」「慎重にしないと」などと言った後、ようやく調書を作成したといいます。被害者感情など、微塵も感じないようなこの対応の鈍さは一体なぜ生まれるのでしょうか。

警察ジャーナリストの黒木昭雄氏は地域警察のシステムの問題だと指摘します。
「警察官は出来れば事件にしたくない。それでなくても多くの通報で出動し、その調書・報告書を作成するだけで毎日過ごす」それが「交番勤務の警察官に過剰な仕事量として背負わされている現実がある」。
有瀬交番で我々も同じような話を聞きました。
「仮眠時間をずらすとか、同時にとらない方法はないのですか?」と言う問いに警察は「無理。我々はもう24時間ぶっとうしで働いているんだから、連続4時間の仮眠をそんなに都合よくとることは出来ない」と答えたのです。しかし、これは神戸西署だけのことだとは、とうてい思えないのです。警察組織全体にはびこる問題だと思えて仕方がありません。

浦中さんの事件を受けて神戸西署では警察体制の検討委員会が作られました。交番のシフトや現場対応などが見直されているといいます。そこに、被害者やその家族の思いが報われるような警察体制が出来ることを心から願うばかりです。

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