3月16日放送のディレクターズアイ
3月16日放送 ディレクター/飯島広介
【指紋の謎~45万円の窃盗事件 無罪判決まで957日】
■傍聴に来ていた愛知県警の刑事
「判決が出たら直撃」。
3月12日(火)午前9時30分から名古屋地方裁判所で始まる判決公判。もし、愛知県警の刑事が傍聴に来ていたら閉廷後、今回の誤認逮捕について話を聞こうと決めていた。しかし、愛知県警の刑事は現れるのか。9時過ぎには法廷内に入り、寺崎貴司アナウンサーとともに法廷に入ってくる人物をチェックしたが、なかなかそれらしき人物は現れない。そして9時27分・・・開廷3分前に現れた2人組。思わず寺崎アナウンサーと目が合った「あの2人だね」。2人ともスーツを着ていて一見サラリーマン風。根拠はないが醸し出す雰囲気から刑事だと確信した。彼らは最前列の右端に座った。
9時35分、裁判官が入廷。全員起立、一礼、そして着席した直後だった。
「主文、被告人は無罪」青山さん本人も「理由を述べてから最後に判決だと思っていた」と言う程、あっけないものだった。その後、一時間近くに渡って、判決理由が述べられた。傍聴に来た刑事は話もせずに忙しそうにメモを取っていた。そして閉廷・・・
傍聴していた刑事を見失わないよう2人の後を追うようにエレベータに乗り込んだ。そして9階から1階へ。エレベーターには地元名古屋のテレビそして新聞の記者も乗っていた。おそらく愛知県警の刑事に気づいていなかったのだと思うが、彼らの一人が「なんで焦って逮捕しちゃったんだろうねー。指紋が出てるんだからさー、焦ることなかったのにね」と笑いながら話をしていた。刑事2人は表情を変えずに黙って、階数表示を眺めていた。
1階に到着。裁判所の敷地内ではカメラを回すことが出来ない決まりがあるので、敷地を出たら声を掛ける段取りになっていた。しかし何故か刑事2人がトイレの方向へと歩いていく。仕方が無いので戻ってくるのを待とうかと話していたその時「あっちにも出口があるよ」寺崎アナウンサーが叫んだ。カメラクルーを促し、急いで後を追いかけると刑事2人はすでに地裁を出て、100メートル前方を歩いていた。その後は言うまでもない。走って追いつきカメラを回す・・・「愛知県警の方ですか」彼らは無視を決め込んで返事をしない。「今回の判決をどう受け止めているのか」「誤認逮捕じゃないんですか」「青山さんは2年半も時間を奪われたんですよ」彼らは全ての質問を無視し、愛知県警の職員通用口へと消えていった。
何故無視するのか・・・納得いかない。我々は愛知県警の広報課へと足を運んだ。しかしそこでも、「緑署が回答することになっている」とのこと。では緑署に行こうということで1時間程車を走らせて緑署に到着。署長が対応したものの、出てきた言葉は「この事件が起きた頃、別の署に勤務していて詳細は分からないんだよ」。結局、今回の件について警察、検察は以下のようなコメントを出した。
≪愛知県警緑警察署≫
「判決内容を確認して、本部主管課、検察庁と今後の対応について協議して参りたい」。
≪次席検事のコメント≫
「無罪判決は遺憾。判決の内容をよく検討して、既存の証拠関係の評価を分析し、また、更なる立証方法の有無等をも考えて、上級丁と協議した上、控訴するかどうかを決めたい」。
--------------------------
◎名古屋地検「控訴を断念」~青山さんの完全勝利が確定控訴期限前日の3月25日(月)、名古屋地検は「控訴審で無罪判決を覆すだけの証拠が見当たらないため」として控訴を断念することを発表、青山崇さんの無罪が確定しました。
足立敏彦・名古屋地検次席検事の談話
「捜査・公判は適正に行われたと考えているが今後の捜査処理を慎重に尽くしたい」
控訴断念を受け、青山さんは次のよう話しています
「無罪判決を素直に認め、二度と同じ過ちを犯さないで欲しい。失われた2年7ヶ月と私の名誉を回復するために心からの謝罪を求めます」
--------------------------
■動き出したら止まらない
証拠の王様「指紋」。愛知県警緑警察署は青山さんがエアコン工事のために被害者宅を訪れていたという「指紋の履歴」が明らかになる前に逮捕、拘留した。なぜ逮捕に急いだのか。それも疑問だが、「履歴」が判明した時点で、「もしかしたら誤認逮捕じゃないか」と立ち止まることは出来なかったのか。判決が出るまで957日、この2年半を取材すると、「警察は動き出したら止まらない」という印象を受けざるを得なかった。
そして青山さんが失った2年半という時間の責任は誰が取るのか。当時の緑署長?それとも青山さんの弁解を無視し、引出しに残った成分の鑑定をしなかった鑑識捜査員?
青山さんの賠償請求が認められたとしても、そのお金は税金・・・責任の所在が明らかにされないこの構造が、誤認逮捕を生む要因の一つだと思う。
今回「指紋の謎」の放送のきっかけになった、藤井成俊弁護士が作成したホームページがありますのでこちらも是非ご覧ください。
Http://club.pep.ne.jp/~fujii.s/