12月15日放送のディレクターズアイ
12月15日放送 ディレクター/田中伸夫
【事件はあったのか、なかったのか】
事件を追跡取材して1年になります。放送も第5弾目で、これほど長期の取材になるのは初めてです。事件の全貌は、未だ深い闇の中ですが、少しずつ闇に光があたりつつあると感じています。
第1の光は、二階堂前院長の証言でした。殺人罪の事件が、一転して「心筋梗塞」と主治医が証言しました。二階堂医師に番組で証言して頂いたのは、今年7月。先生は当時、健康上の問題から「事実だけは残しておかねば…」という瀬戸際の決断をなさって、裁判に先だって、証言して頂いたのでした。大正生まれの先生は、良き大正デモクラシーの時代の人らしく、公正な人格の持ち主でいらっしゃいます。
第2の光は、鑑定結果の数値に関する考察でした。この数字の謎はどこにあるのか。専門家の先生方と共に何度も検討を重ねて辿りついた結論は、実に単純な事実でした。筋弛緩剤・マスキュラックスは事件のような使い方はされない。つまり、筋弛緩剤・マスキュラックスは、「静脈に一気注入する薬剤」で、「点滴に混入する薬剤ではない」という事実でした。主要な科学的なデータは当然、ほとんどが「一気注入」を前提にしており、事件のように初めから「点滴に混入して注入」という詳細なデータは、この世に存在しないでした。つまり、鑑定結果は世界でも初めての知見になるはずでした。が、その数字は「一気注入のデータ」と見事に一致…なぜなのか?
そして第3の光。それは全国の特定機能病院(81病院)の麻酔科の先生方からお寄せ頂いたアンケートでした。「A子さんの尿の鑑定結果は、科学的にあり得るのか?」。率直で大胆な質問でしたが、日本人の体を使った臨床的見地からどうしても必要なアンケートだと考えました。そして得られた結論は、「科学的にはあり得ない」というもの。全国の主要な大学の専門医が、結果的には「鑑定結果」を科学的に否定する回答を下さり、また製造元の日本オルガノン社も同じ回答を寄せて下さいました。いずれ裁判の場でも明らかにされる事実だとしても、それはいつになるのか…。
21世紀初めに、30歳の若者が、24時間監視カメラつきで、暖房のあまり効かない狭い極寒の独房で、今この瞬間を生きています。何故に…どんな根拠で…。市民的な常識が通用する司法を期待したいです。これからも、第4、第5の光を求めて、取材を続けるつもりです。「明けない夜はない」ことを信じてー。