12月8日放送のディレクターズアイ 

12月8日放送 ディレクター/浅中賢志
【21世紀大失業時代】

取材が始まったのは、完全失業率が過去最悪という発表がされる前だった。ある大手自動車メーカーの早期退職者を探すために地元のハローワークに通った。それはゼロからのスタートだった。冬の木枯らしが肌身にしみる11月中旬、記者時代に朝回り・夜回りをしていた頃がふと脳裏をかすめた。

ある日の午後だった。うつむき加減の中年男性がハローワークから出てきた。「○○会社を早期退職された方ですか?」「はい」・・「でも今、後悔しています」。立ち話で聞いていたところ、他の再就職活動中の早期退職者たちとは事情が全く違っていた。今回の早期退職者は、積極的な自分の意志で退職を決断した。50代が一番多かったが、家のローンや子供の学費・養育費などの支払いもほとんど終わり、退職金も優遇されていたため、他の会社の退職者たちに比べ、経済的にはまだ余裕があった。しかし、この中年男性の場合、生活用品の一部をリサイクルショップから買ってくるなど、経済的な余裕は無かった。確かにハローワークから紹介される求職の数は多かったが、中一の息子との生活のために、職種・給料が制限され、思うような就職先がないという。完全失業率が上昇している背景には、こうした男性のケースが多くあるようだ。

もうひとつは、リストラ勧告を受け500日間闘ったあるサラリーマンの物語。万が一に備え、記録に残していたテープに壮絶なリストラ手口の全容が隠されていた。彼が500日間闘い抜くことができたのは、今ここで負けてしまうと一生落ちっぱなしになるという思いからだった。当時は完全な会社人間だったという。残業に明け暮れる日々だったが、会社の業績悪化のためにある日、がんばってきたその会社からリストラ対象者の烙印を押されることになった。孤立無援の中、彼を支えたのは近くの労働相談センターの職員と、妻だった。特に取材をしてみて、奥さんの強さが印象的だった。

現在、彼は新会社の社員となったが、500日間闘った弊害もある。それは、会社側への根強い不信感のため、仕事への情熱が無くなったというのだ。そのため、今は生活の糧(かて)のためにサラリーマン生活を続け、定時になると帰宅する日々を送っている。家族とのふれ合いがまず大切だという。

今回の取材は同じサラリーマンとして、何度も考えさせられることが多かった。もし自分が退職を迫られたら…、果たしてどんな選択をするのだろうか…?



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