10月13日放送のディレクターズアイ 

10月13日放送 ディレクター/江野夏平
【アメリカのアフガニスタン空爆が始まった】

私たち取材クルーがこの一報を聞いたのはイスラマバード国際空港、まさにパキスタンを出国する5分前のことだった。乗客たちは皆飛行機が無事に飛ぶかどうか心配しながら、CNNを食い入るように見ている。我々は東京の報道本部と連絡し、今後の動きについての判断をあおいだ。結果、社員である私と同僚のディレクター、飯島広介は、テレビ朝日の責任として現地に残り、キャスターの長野智子は東京へと戻ることになった。

しかし既にチェックインした後で、カメラ機材などを飛行機から降ろしてもらう手続きを申請するも、いかんせんフライト直前であったため、航空会社のスタッフもなかなか応じてはくれない。私たちがジャーナリストであることを告げ、今アメリカの空爆が始まったことを説明して、なんとか無事空港を出ることが出来たのは、それから1時間以上もたってから。空港の外は既に軍隊が配備され厳戒態勢がとられていた。だが、この苦労の甲斐あって、私たちは何とか歴史的な瞬間に立ち会うことができたのである。

翌日取材クルーは、首都イスラマバードから車で2時間ほどの所にあるペシャワルという町に向かった。アフガニスタンとの国境から50Km地点にあるアフガニスタン難民やパシュトゥン人が多く住む場所である。現在、アフガニスタンへ通ずるトライバルエリア内には外国人は基本的に入ることが出来ないため、アフガニスタンの現状を知るためには、この町で新たに空爆をさけて避難してきた人たちを待つしかない。そういう判断のもと、ペシャワルへ入った。

しかし、この町はクエッタ等と並び最も危険なエリアとされていた。先にも述べたが、アフガン難民やパシュトゥン人など、アフガニスタンに近い人たち=タリバン支持者が非常に多く、もしアメリカがアフガニスタンへの攻撃を始めれば、この町の人々は暴徒化し町のあちこちでテロが起きるといわれていたからだ。

事実アメリカの空爆前後から、テレビ朝日以外の日本のテレビ局は全てペシャワルから撤退し、比較的安全なイスラマバードへと避難していた。数日後に日本テレビなどが戻ってきたものの、それまでは少数のフリーランスのジャーナリストの他はテレビ朝日の取材クルー3班が現地に残るのみだった。また、欧米のジャーナリストたちもテロでねらわれている5星ホテルから避難し、ゲストハウスのような地元の人間しか使わないような小さなホテルへと移動を始めていた。このテロの話の半分は噂だという人たちもいるが、3年前にはイスラマバードで国連関係のビルやマリオットホテルに小型のミサイルが撃ち込まれる騒ぎが起きているのは事実である。いずれにせよ、町のあちこちに警察だけではなく軍隊が装甲車を配備し機関銃を手にしているのを見ると、今この町がどのような状況にあるのかはたやすく見て取ることができた。

「空爆の後、何を報道すべきか」をディレクターの飯島と話しあった結果、やはり今アフガニスタンがどのような状況にさらされているのか出来る限り詳細に取材をしようということになった。だが、アフガニスタンへの入国が許されない現在、その方法は一つしかなかった。空爆後にアフガニスタンから避難してきた人たちに話を聞くことだ。自ずから、取材場所はそうした人々が集まる場所へと絞られていく。アフガニスタン難民キャンプ、国境、反米デモンストレーション。どれひとつとっても安全が保証された場所はない。

まずはじめに取材を行ったのが、カチャガリーという難民キャンプ。ペシャワルでも一番古いキャンプで数千人の難民たちが暮らしている。このキャンプでは、アメリカの攻撃が始まる前から外国人ジャーナリストが暴行を受けるというトラブルが絶えなかったが、だからこそ、ここに住む人たちがアメリカの空爆についてどのように考えているのかを聞くことは、どうしても欠かすことが出来ない取材となっていた。カチャガリーでは、アフガニスタンのジャララバードという町でアメリカ軍の空爆を目撃し、命からがら逃げてきたという難民に出会った。

「アメリカ軍の空爆は空軍のレーダーを破壊し、町はゴーストタウンになった。一般市民にも多くの犠牲者が出た」。そう話してくれた彼だが、聞けば親戚3人がまだこの町に残っているのだという。取材では運もあって、他にもトライバルエリアの入り口、反米デモ等、それぞれの場所でアメリカの空爆直後にアフガニスタンから逃げてきた人たちに出会うことができた。彼らの言うことは一様に同じだった。「何故、アメリカ軍は罪もない一般人を殺すのか」と。皆、家族や親類を爆撃によって奪われているためインタビュー内容には説得力がある。アメリカではワールドトレードセンターでのテロで、同じように多くの一般人が犠牲となった。「報復」という言葉を使えば、それですむのかもしれない。しかし、そこに新たな犠牲者が出ることをどう考えているのだろうか。

今回、アメリカが「報復」という言葉を使ってアフガニスタンに空爆を始めたことについては、短い言葉では言い尽くせないのでこの場でのコメントはさけたいと思う。しかしアフガニスタンでは、ただでさえもここ数年の干ばつによる食糧危機で多くの人たちが亡くなっている。ここにきてアメリカ軍の空爆によって、彼らがさらなる厳しい状況を強いられていることは言うまでもない。そして、何度もいうようだが、彼らのほとんどは今回のテロには関係のない人たちなのである。

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