10月6日放送のディレクターズアイ 

10月6日放送 プロデューサー/原 一郎
【今、伝えるべきこと】

20年にわたる内戦で、世界中の誰も関心を示さなくなってしまっていたアフガン難民問題。皮肉にも、今回のテロはアフガン難民の存在に再び光を当てる千載一遇のチャンスかもしれません。番組では、アメリカ発の一方的な報道ではなく、難民救援の現場の声を聞きながら彼らの実状と日本がなすべきことを伝えていきたいと考えています。
まず、客観的事実としてアフガン国内には餓死の危険に瀕した600万人の難民たちが存在しています。これは、今回のテロとは関係なく20年に及ぶ内戦とここ数年続いている干ばつのためで、彼らの命は国連などによる援助に支えられていました。ところが、今回のテロにより外国人スタッフは国外退去し、物資を運搬する補給路も閉鎖されてしまいました。食料や医薬品の備蓄はあと数週間で尽きるとも言われています。普段なら、今頃アフガニスタン全土で小麦の種まきが行われる頃ですが、干ばつに加えて今回のテロで来春の収穫も絶望的です。また、国外に逃げたくても周辺の国境は閉ざされています。・・・何も手を下さなくとも、これからマイナス15度にもなる冬を迎え、数百万人の餓死者が出るのです。そこは、放っておくだけで自滅の道が待っている国なのです。アメリカが爆撃を開始したアフガニスタンとは、そういう「既に瀕死の国」なのです。

国連難民高等弁務官事務所の山本芳幸カブール事務所長によれば、現地の国連職員レベルでは、けっして「タリバン=悪・北部同盟=善」という図式ではありません。10年前のアフガニスタンは、レイプや盗賊団が跋扈する完全な無政府状態でした。そこにタリバンが乗り込んできて、イスラム原理主義に戻ることで治安を回復していったのです。もちろん、その過程で公開処刑など恐怖政治の一面があったことは否定できません。しかし、わずか数百人の神学生が瞬く間にアフガンを支配していったのは、何よりも治安を求める民衆の支持があったからにほかなりません。実際、ある意味で純粋培養されたピュアな理想主義に燃える彼らは、けっこうマジにレイプや強盗の取り締まり、麻薬の根絶に取り組んだようです。方法は多少残酷な面もありましたが。結果、それまで国連や赤十字の職員ですら誘拐されとても援助どころでなかったのが、タリバンによる治安のもと再び大量援助が可能になりました。

もし何ら共通理念もない寄せ集め集団である北部同盟や、民衆の支持を失った元国王(しかも外国のヒモ付き)が政権を執ったとしても、アフガニスタンは元の混沌とした内戦状態に戻るだけです。数百万の命を救うためには一体何をなすべきなのか? アメリカなどが模索する力による政治的決着とは別の次元で、つまり難民を餓死させないためには、むしろタリバンとうまくつき合っていくしかないと山本さんらは考えています。

一方、アフガン国民がさすがにタリバン強行派のやり方に嫌気が差しているのも事実です。タリバン支配地で取材しているチャンゲス記者の報告では、国民の大多数の支持はタリバン穏健派に移ってきているようです。
 
とすれば…タリバン穏健派によるクーデター→引き続き穏健派によるタリバン政権。600万難民の命という見地からは、それが最も現実的な解決方法のような気がします。仮にオマル師暗殺などの手法でアメリカやパキスタンがそれに手を貸したとしても…もちろん、タリバン自体にビンラディン氏を匿い、今回のテロの温床と言われても仕方ない側面もあります。タリバンというだけで国際社会でのバッシングは大変なものでしょう。しかし、タリバン穏健派の中では、もともと「オサマは禍根を残すやっかいな存在」と認識はされていたものの、パシュトゥン族独特の「客人歓待の掟(メールマスティアー)」から、ソ連軍と戦ってくれた恩人を簡単に見捨てられない彼らなりの板挟みの事情もあるのです。こうした西欧文明の尺度では測れない民族的・文化的側面はもっと考慮されてもしかるべきです。

最近の報道を見ていると「タリバンがレイプした」「タリバンが臓器密売している」などタリバン=極悪人という世論誘導が顕著なようです。山本さんによれば、これらは怪談レベルの話で、実際のタリバンはその対局に位置しているようです。何が真実なのか・・報道機関としてもその見極めが必要な時期に来ていると思います。

もうひとつ、女子教育を禁止しているタリバンは許せない、という意見もあります。これは近代人権思想からはもっともな指摘ですが、優先順位としては、まずアフガニスタンを再び泥沼の内戦状態に戻さないこと。まず治安を維持して、彼らが国際政治の舞台に復帰してからのテーマにしてはいかがでしょうか。今一番重要なのは、600万人といわれる餓死に瀕した人々の命と考えます。

日本は対米協力と同時に、自衛隊による難民援助も打ち出しています。しかし、山本さんらは「(アメリカ寄りという)旗を立ててしまった国にもはや人道援助は不可能」と考えています。これまで、パシュトゥン族にとって日本人は想像以上の好感をもって見られてきました。これは「日本人=アメリカに原爆を落とされカミカゼ・ジハードをした民族」という歴史の皮肉にもよるものですが、親米の”SHOW THE FLAG”をしてしまったため、イスラム文化圏でもキリスト教文化圏でもないアドバンテージを放棄し、日本にしかできない人道援助のチャンスを自ら閉ざしてしまったことは間違い有りません。

10月13日の放送では、ついに報復攻撃が開始された今だからこそ、もう一度難民問題をきっちり考えてみたいと考えています。

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