戦評
女子シングルは浅田真央優勝、村主章枝2位でファイナル出場決定 男子シングルは高橋大輔優勝、織田信成2位でファイナル出場決定 日本勢が表彰台独占。28年の日本大会の歴史で初めての出来事が、なんと男女シングル同時に起こってしまった。この快挙、出場予定だった海外の強豪選手が来なかったことなど、いくつかの要因はあった。それでも男女シングル出場選手、6人全員がショートプログラムでノーミス。男子に至ってはフリーも3人揃ってほぼノーミスという驚異的な強さを見せる。これはランビエールやコストナーなど、世界のメダリストたちが来日していても、かなりいい戦いが出来たのではないか……そう思わせてくれる一戦だった。 男子シングルフリーは高橋・織田・小塚、3選手ともが課題となるトリプルアクセルをクリーンに決め、高橋大輔は久しぶりに国際大会で4回転トウループも成功。織田信成は従来のキャラクターを立てた演技重視のものではなく、音楽そのものを表現しなければならない難しいプログラムに挑戦。振付師のウィルソンが「彼のスケーティングの美しさを見ている人に堪能させたい」と語っていたように、たっぷりとした流れのあるスケートを雄大な交響曲の中で見せてくれた。小塚崇彦は初陣のフランス大会、SPで最下位だった選手とは思えない堂々とした戦いぶり。フリーでは華麗なフットワークを武器に、恐れるもの無し! という素晴らしいスピードで一気に4分半を駆け抜けていった。そして最後に登場した高橋大輔。絶好調だったライバルたちへの歓声や得点コールが聞こえてくる、そんななかではいつも大崩れしてしまう「ガラスの心臓」の持ち主が、この日は見せてくれた。序盤に高難度のジャンプを連発してからは、ステップでもマイムでも、「大輔の世界」を思いを込めて氷上に描く。元々傑作との呼び声が高い「オペラ座の怪人」のプログラムだが、ジャンプが決まってこそ、この物語もきれいに浮かび上がるようだ。お客さんは充分納得させた、あとはスピンなどできっちりレベルを取り、審判も納得させれば、ファイナル制覇も夢ではないだろう。 女子シングルは浅田真央が歴代最高得点を更新する199.52点をマーク。ジャンプだけでなくステップやスピンでも高い評価を得ての得点だが、見ている人にとっては「去年の真央ちゃんの方がもっとすごかったかも?」という印象だったかもしれない。玄人好みの正確な技術できっちり点数を取れた浅田真央だが、プログラムに派手なアピール力はまだなく、点数の割にはお客さんを乗せきることはできなかったかもしれない。審判には認められた演技、高橋大輔とは逆に、観客たちをどう納得させていくかが今後の課題となりそうだ。2位の村主章枝は、歳の離れた選手たちに追いかけられるプレッシャーの中、大きなミスなくショート&フリーをまとめ、ファイナル進出決定。しかしジャンプを大事にしすぎたか、本来の彼女の持つ強いオーラが出せなかったのは残念。ファイナルではキム・ヨナ、安藤美姫なども登場し、さらに若手との争いが続くが、自然な踊り心をそのまま出せる、フミエ・スグリらしい演技を期待したい。去年の優勝者・中野友加里は、残念ながら3位。フリーでは果敢にチャレンジしたトリプルアクセルがシングルになり、もっとたっぷり見せられるはずの演技がおざなりになるなど、やはりプレッシャーの中で最高のスケートは見せられなかった。しかしずっと磨いてきたスピンはさらに速く、音楽の盛り上がりに呼応したスパイラルもより美しく進化している。ズウェア振付のキュートなプログラムも、万全の状態で滑れば極上なパフォーマンスを見せられるはずのもの。今後の大会での奮起を待ちたい。 表彰台独占が確実されてていた女子シングル3人が、少しプレッシャーを感じてトップコンディションの演技はできなかった。それに対し、いつも女子に注目をさらわれていた男子勢が、今持てるものすべてを発揮して、大金星の表彰台独占。「これからは僕らに、もっと注目を!」そんな声が表彰台から聞こえてきそうな第6戦だった。 文/Hirono Aoshima
結果 SP=ショートプログラム FS=フリースケーティング
【女子シングル】
【男子シングル】
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