モットーは「出演者が楽しめる現場」。プロデューサー・山田ひろし(『サイサイてれび!』等)インタビュー

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ももいろクローバーZ、でんぱ組.inc、AKB48 Team8らのオリジナルコンテンツが配信される動画配信サービス「logirl」がこの4月に再始動! 動画配信だけでなく、noteでは記事コンテンツも更新していく予定だ。

そこで、今回はlogirlの制作スタッフへのリレーインタビューを掲載。第1回目は『サイサイてれび!おちゃの娘サイサイ』や『Musée du ももクロ』のプロデューサーを務める、山田ひろし氏に話を聞いた。

(イラスト:SILENT SIREN あいにゃん作)

山田ひろし(やまだ・ひろし)1976年、岐阜県出身。プロデューサー。
<現在の担当番組>
『サイサイてれび!おちゃの娘サイサイ』
『Musée du ももクロ』
『小川紗良のさらまわし』
『WAGEI』
『まりなとロガール』

美術や編集も行う特殊なプロデューサー

──具体的な仕事はどのような内容になるのでしょうか?

山田 プロデューサーなので企画の立ち上げはもちろんですが、時には自ら編集も行いますし、作家の台本をチェックしたり、直したり。美術セットを作ることもありますよ。収録で使うスタジオの背景にサイサイがデザインした巨大な段ボールを置いたり、「箱の中身はなんでしょう?」のコーナー用に特殊な箱を作ったり。

まあ「特殊なプロデューサー」ということでいいんじゃないでしょうか(笑)。

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(写真:『サイサイてれび!』#191

──浪曲師・玉川太福さんの番組『WAGEI』では、太福さんの代表作「地べたの二人」を実写ドラマ化していましたよね。

山田 『WAGEI』では、ちょっと違うことをやりたいと思っていて。芸人の方にただネタを披露してもらうのはどこもやっていますし、ほかの番組はすごいキャストを呼んで華やかにするじゃないですか。うちは小規模でそこまでの予算がかけられないので、だったら別な方向性でおもしろい番組が作れないかと、太福さんとも密に相談しながら今回のドラマが決まりました。

──logirlは出演者さんと長期的な関係が築かれることが多そうですが、それぞれやりたいことも常にヒアリングしているのですか?

山田 そうですね。僕自身、あまり押し付けるのが好きじゃないというか、楽しい現場がいいなと思っているので、基本的には「出演者さんが楽しめる現場」というのをモットーにしています。

それはディレクターではなくプロデューサーの目線だと思いますが、第一に出演者さんに寄り添った上で、お互いに納得するものを作っていこうというところから始めています。とはいえ、たまにムチャ振りはしますよ。そういうところもないと、視聴者が楽しめないですからね。

配信番組は「同じものを作っちゃダメ」

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(写真:『サイサイてれび!』での無人島企画にて)

──山田さんは地上波でもたくさんの番組を手がけていますが、logirlのような配信番組を作るときの考え方に違いはありますか?

山田 やっぱりお金に頼らないということですかね。さっきも「特殊なプロデューサー」と言いましたけど、人手が足りないから、美術も、ADも、作家も、ディレクターもやるんです。いつも「自分は何をやってるんだ?」って感じになってます(笑)。

キャスティングにもお金がかけられないので、いかに関係性を築きながらキャスティングしていけるかも大事です。そういう手作りの部分が魅力でもあって、今までこういう経験はしてこなかったから毎日楽しいです。

番組を作るのは自分のお店を作るようなものです。お店をどう宣伝していくか、どうやって人気を得るか、どうやってお客さんを呼ぶかと、いろんな視点で考えながらやっているので、そう簡単ではないですね。単純に「視聴率が取れればいい」という考えではないので、今のほうがよっぽど考えることは多いなと感じます。

今、地上波のゴールデンは似た番組が多いじゃないですか、キャスティングも代わり映えしないし、同じものを作ればとりあえず視聴率が取れるみたいな感じがある。配信番組はその逆で「同じものを作っちゃダメ」なんです。今はYouTubeなどで、無料で観られるいろいろな動画が乱立していますが、うちは有料配信なのでそのぶん、違ったものを作らなければいけないと思ってやっています。

半泣きで見守った『関ジャニの仕分け∞』

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(写真:『サイサイてれび!』での「マタギに弟子入り」企画、熊狩りにて)

──テレビ業界を目指したきっかけを教えてください。

山田 まじめに話すとつまらないんですけど、小学校から大学までずっと野球をやっていて、スポーツが好きだったのでスポーツ番組がやりたくて……って感じです。

あと、これもクソまじめな話になっちゃうんですけど、大学のころに自分がテーマとして勉強していたのが「砂漠緑化」だったんです。ただ、自分にはそこまでの能力がないし、仕事にはできないだろうと思って、テレビ業界で違う角度から携われたらいいなという思いもありました。今でこそバラエティにどっぷりですけど、当時はまじめくさったことばっか考えてたんですよ(笑)。

実際、NHKとかバラエティじゃないところばかり受けたけど、「向いてねえなあ」って。結局、バラエティ畑に入ったらなじんじゃって、抜け出せなくなったりして。当時の熱意はもう忘れちゃったけど、年取ったころに、またそういうのがやりたいと思えるかな。チャンスがあればやりたい気持ちは今でもあるんですけどね。

──過去に手がけた番組で、特に印象に残っているものを教えてください。

山田 『関ジャニの仕分け∞』ですね。『太鼓の達人』の企画や、「柔軟女王ナンバーワン決定戦」、「ピアノ王No.1決定戦」のようなトーナメントバトルをやっていたんですが、そのキャスティングと能力的なバランス調整が本当に大変で(笑)。

『太鼓の達人』は、関ジャニ∞の大倉(忠義)さんの対戦相手として、いろんなタレントさんにしっかり戦えるレベルまで訓練してもらうんですよ。でも大倉さんのレベルがすごすぎて……。できなすぎてもダメだし、もちろん圧倒的に追い越しちゃっても……(笑)。この調整は本当に苦労しました。トーナメント戦だったからみんな上を目指す気持ちで真剣に練習に取り組んでくれていたので、自分も本番収録は半泣きで見てましたね。

「柔軟女王No.1決定戦」の対戦相手探しも大変でした。どれだけ低いリンボーをくぐれるかというバトルだったんですが、当時、SKE48の須田亜香里さんが29センチくらいをくぐっていたから、同じぐらい体の柔らかい人を探さないといけなかった。当時の日本にはなかなかいなくて、ロシアやアメリカなど海外のアスリートに交渉して呼んでいたんです。

でも、たとえばロシアのフィギュアスケートのメダリストをスタジオに呼ぶには、何百万円というお金がかかるんですよね。それだけお金かけて連れてきた人が、一回戦で負けたら最悪なので「なんとか決勝まで残ってくれ!」と、このときも半泣きで祈りながら見守ってました(笑)。

ゴールデンで培った経験を活かして

──『関ジャニの仕分け∞』は土曜ゴールデン帯の人気番組でしたよね。

山田 反響がすごくありました。未だに「見てたよ」って言われることがありますし「実は、それやってたんだよ」みたいな話で盛り上がる機会もあるので、よかったなと思いますね。実際、自分もやっていて楽しかったですし。

──『太鼓の達人』企画では、サイサイのひなんちゅさんも活躍されていましたし、須田亜香里さんが『WAGEI』のゲストに来られたこともあります。当時からの関係が現在の仕事につながっていることも多いですか?

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(写真:『WAGEI』に出演する浪曲師の玉川太福(右)と、#1で番組進行を勤めた清野茂樹)

山田 まさにそうですね。キャスティングに関しては、ゴールデンで培ってきたものがあるので、そこは今に活かされていると思います。logirlチームとしても貢献できているところじゃないかと思います。

──『WAGEI』の玉川太福さんは異色な感じもありますが、どういう経緯で始まったんですか?

山田 これは特殊なケースですね。元をたどると
、地上波で『サン・ジェルマン伯爵は知っている』をやっていたときに、MCの小川紗良さんが浪曲にハマっていると聞いて、ゲストに太福さんを呼んだのがきっかけです。

実際にネタも観に行って、太福さんともお会いして、一緒に番組をやったらおもしろくなりそうだなと思いました。

新しい仕掛けに取り組んでいきたい

──企画のアイデアはどういうときに思いつくことが多いですか?

山田 まちまちですね。でも、せっぱ詰まったときに本気が出るというか、ギリギリで思いつくことが多いです(笑)。普段の生活だと、子供と接する機会が多いので、たまたまEテレの番組を一緒に観ているときにハッと気づいたりすることはあります。

若い人の流行もチェックしてはいるんですけど、おっさんだから、なかなか追いつかないんですよ。並木万里菜アナウンサーが進行役を務める『まりなとロガール』は話題のインフルエンサーを取り上げる番組なので、知っておかないといけないんですけど、もう自分で調べるより若い子に聞いちゃったほうが早いので、いろんな人に聞くようにしています。

──logirlの再始動で、目指していることはありますか?

山田 『サイサイてれび!』から実現した、『にゃんにゃんにゃんたのおくりもの』と『にゃんにゃんにゃんたのだいへんしん』という絵本のシリーズがあるんですけど、それが話題になって、ミリオンセラーを達成したいですね。

基本的には動画収入だけでは厳しいので、いろいろ仕掛けたいとは思っています。今はお客さんが呼べない時期だけどオンラインチケットを販売したり、新しい取り組みをやっていかないといけないかなと。

僕自身、そんなに大それたことができるタイプではないですし、まだ模索中ではありますけど、logirlチームに貢献できるように、地道にコツコツとやっていきたいなと思います。

<logirl制作スタッフインタビューは今後も不定期で更新予定です>

文=森野広明 編集=田島太陽

 

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