まるで夢の国?お城でアートと自家焙煎コーヒーが堪能できる「パペルブルグ」|「奥森皐月の喫茶礼賛」第3杯

奥森皐月の喫茶礼賛

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「奥森皐月の喫茶礼賛」
喫茶店巡りが趣味の奥森皐月。今気になるお店を訪れ、その魅力と味わいをレポート

少し前に引っ越しをした。長らく住んだ街を離れるのはやはり寂しかったが、新たな土地の喫茶店を開拓できているのはとても楽しい。

これまで使っていなかった路線沿いにも多くの喫茶店があることがわかったので、寂しさはあっという間に飛んでいき、今は喫茶店を巡る日を楽しみにしている。

インターネットや本や友人からのおすすめで、行きたい喫茶店は日に日に増えていく。それらはすべてスマートフォンのメモに記録しており、実際に足を運んだらチェックマークをつけるようにしている。

ただ、遠方や慣れない土地はどうしても腰が重く、なかなか行けない。

そこに差し込んだひと筋の光が、この連載だ。記事に書くという大きな目的があることで、普段なら行けない場所へもスキップで向かえる。

八王子に現れた、お城のような喫茶店

今回、私は新宿から京王線で京王片倉駅へ。そこからさらにバスで15分ほど御殿山のほうへ進み、八王子と橋本のちょうど間のあたりの自然公園前というバス停で降りる。

バス停を降りてすぐ目の前に現れる、別世界のお城のような建物。ここがお目当てのお店「Pappelburg(パペルブルグ)」さんだ。

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さっそく店内に入ろうとするのだが、まずお店の入口の扉から空気が違う。引き合いに出すものでもないが、夢の国にいるときのようなワクワクとした世界を感じられた。ほんの少し息を吸って立派な木の扉を開く。

遊園地に来た子供さながら、「わぁ〜!」という声を抑えられなかった。

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高い天井に大きな壁画、鹿の剥製やアンティーク調の照明や家具たちがお迎えしてくれる広い空間は、おとぎ話の中に入ってしまったかと錯覚する。

SNSで写真は見たことがあったが、その何十倍も圧倒される空間だ。窓際の席に案内してもらい、温かみのある木の椅子に座る。

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魔法の書のようなかわいらしいメニューを開くと、コーヒーはもちろん、食事もデザートも種類豊富。注文を決めるのについ悩んでしまうが、優しい音楽が流れるゆったりとした店内にいると、優柔不断でよかったとも思えた。

ランチの時間に伺ったので、今回はランチセットの日替わりセットをいただくことにした。

平日の14時過ぎだったもののお客さんは何組もおり、途切れることなく常に人がいた。休日は満員で、店内に入るために外で数組待っている日もあるとのこと。

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昼下がりの店内には陽の光が差し込み、柔らかな空気が流れていた。開店してすぐの時間帯や、陽が落ちたころもそれぞれ違う表情があるのだろうと思うと、訪れてまだ何分も経っていないのにまた来たいと感じる。

春の訪れを感じる、本格クリームパスタ

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彩り鮮やかなランチセットのサラダ。サラダにパプリカが入っているとうれしいし、ナッツが乗っているともっとうれしい。これはとてもうれしいサラダ。さっぱりとしたドレッシングもおいしかった。

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この日の日替わりは菜の花とサーモンのクリームパスタ。店員さんいわくパスタは人気メニューのひとつらしい。

春の訪れを感じる、とてもおいしいメニューだった。クリームが濃厚で、具材もたっぷり。オリーブとチーズも相まって絶妙な味わい。

セットでついてくるバゲットでクリームを食べるのもまたおいしい。喫茶店のメニューというよりは、専門店で食べているような本格的なパスタだった。

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ランチにプラス500円でドリンクデザートセットを追加できる。ランチのコーヒーは、ランチ用にブレンドされたものだという。香りがよく苦味が強めのコーヒーは食後にぴったり。なにより甘いデザートによく合う味わいだ。

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デザートは焼き菓子とオレンジのジュレ。食後にちょうどよいサイズで、コーヒーを飲みながらゆったりできる最高のセットだ。

建築時から30年以上続く、アトリエのような店内

店長さんに、お店についていろいろと伺った。

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パペルブルグは1991年に先代がオープンしたお店で、一から建てられた喫茶店だそう。素晴らしい外装や内装は、2年ほどかけて国内外からこだわって集めたレンガや木材を使って、イギリスやドイツの建築をモチーフにデザインされている。

床板に船の甲板の板が使われていたり、日本家屋の廃材に彫刻を施したものを柱にしていたり、細部までとことんこだわられているらしい。

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店内の家具も統一感があって素敵だったのだが、これらはすべてオープン時に職人さんに一から作ってもらったとのこと。

それ以降、新しい家具を買い足したりすることなく30年以上営業しているそうで、お店全体がひとつの物語のように感じられるのはこの影響だろうと感じた。

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店内でひときわ目立つ大きな壁画は多摩美術大学の先生が描いたもので、グリム童話の『命の水』のクライマックスシーンを描いているのだそう。

外壁にも絵があるのだが、そこからストーリーがつながっていて、店内のクライマックスに向かっているとのこと。教えていただかなければ気づかなかっただろう。

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店内のドアノブのタペストリーに至るまで、隅から隅までお店を形成するものはお店のために作られたものなのだ。

6人のアーティスト・職人が携わって完成したのが、このパペルブルグ。アート作品も飾られていて、アトリエのような側面もある。

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都心の喫茶店では味わえない魅力がたくさん詰まった喫茶店。各テーブルの間隔が広く、贅沢に空間が使われている。

お店の賑わいを考えると席数を増やしてもいいところだが、お客さんにゆっくり過ごしてほしいという思いからゆとりのある客席にしているのだそう。

鮮度の高い自家焙煎コーヒーも

また、お店のもうひとつのこだわりはコーヒー。

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厚木の「ポプラ館珈琲」という名店ののれん分けで先代がオープンしたのがパペルブルグで、コーヒーはすべて自家焙煎。週に3回ほど焙煎をしており、鮮度の高いコーヒーがいただける。

店長いわく、鮮度が落ちたコーヒーは油が出て表面がテカテカしたり、酸味が強くなったりするそう。たしかにこちらのコーヒーは酸味がなくすっきりとした味だった。新鮮なコーヒーというものをあまり知らなかったため、とても勉強になった。

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焼き菓子の販売もされており、かわいらしいパッケージに惹かれてお土産に買って帰った。焼き菓子の販売は昨年から始まったそうで、こちらもパペルブルグのコーヒーに合うものをレシピから作ったとのこと。

パッケージもオリジナルでお店のイメージにあったものが描かれている。オープン当初から完成されていた世界を引き継ぎ、その世界のままより広げるような新たな試みがされているのがとても素敵だと感じる。

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一から作られているお店だからこそ、何もかもがパペルブルグ仕様なのだとよくわかった。

都心では体験できない特別な時間。少し足を延ばしてでも行くべき名店だった。一度はこの素晴らしい世界の扉を開いてみてはいかがだろうか。

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次回もまたどこかの喫茶店で。ごちそうさまでした。

Pappelburg(パペルブルグ)
10時〜19時(ラストオーダー:18時30分)不定休
東京都八王子市鑓水530-1
神奈川中央交通バスで「自然公園前」下車すぐ
八王子みなみ野駅から徒歩30分

文・写真=奥森皐月 編集=高橋千里

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