「日常の小さな感情を大事にする」根本宗子のサボり方

サボリスト〜あの人のサボり方〜

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クリエイターの「サボり」に焦点を当て、あの人はサボっているのか/いないのか、サボりは息抜きか/逃避か、などと掘り下げていくインタビュー連載「サボリスト〜あの人のサボり方〜」。

今回は、およそ1年の充電期間を経て、演劇活動を再開したという劇作家の根本宗子さんが登場。上演を控えた新作『Cape jasmine』の話を中心に、演劇で今描こうとしているもの、日常の過ごし方などについて聞いた。

根本宗子 ねもと・しゅうこ
東京都出身。劇作家・演出家・俳優。19歳で劇団、月刊「根本宗子」を旗揚げ。以降、劇団公演すべての作・演出を手掛けるほか、さまざまなプロデュース公演の作・演出も担当。近年では清 竜人、チャラン・ポ・ランタン、GANG PARADEなど、さまざまなアーティストとタッグを組み、完全オリジナルの音楽劇を積極的に生み出している予測不可能な劇作家。

「ブランニューオペレッタ」という、ほかにはない音楽劇

──新作『Cape jasmine』の話から伺いたいのですが、この作品は「ブランニューオペレッタ」と称されているんですよね。

根本 「グランドミュージカル」と言われる、全30曲ぐらいあるいわゆるザ・ミュージカルをいつか作りたくて、その道のりとしてここ数年音楽劇をやってきたんですけど、昨年からご時世的に大勢で歌うような作品を世に出すのは自分にはむずかしくて。そこで、今の自分の力でやれるものを考えたときに、「音楽劇」というのもしっくりこなくて、ちょっと真新しくてなじみのないもの、「オペレッタ」っていうくくりにしてみようと思ったんです。

オペレッタって、日本だと子供向けの小さいミュージカルみたいな扱いになっていることが多いんですが、本来はオペラから派生した喜歌劇なんですよ。今回は喜劇を書こうとしている私に、音楽家の小春さんが加わるとオペレッタになるんじゃないかなと。

音楽を担当するのがチャラン・ポ・ランタンの小春さんなんですけど、アコーディオンをメインにした小春さんと作る特殊な音楽劇が、単に音楽を使った劇として片づけられるのはもったいないなという気持ちもありました。アコーディオンがバンマスのミュージカルって、ほぼないんですよ。そもそも彼女が作ってくれる音楽で芝居をやれること自体、私は恵まれていると思っていて、根本×小春タッグにそろそろ名前をつけたくて。なんでもありの間口の広い音楽劇ということで、「ブランニューオペレッタ」としました。

──ミュージカルの記者会見というシチュエーションの舞台ですが、作品自体はどのようなものになるのでしょうか。

根本 今は「私にとって演劇とはなんだったんだっけ?」と考えながら台本を書いています。横山由依(AKB48)さんが物語の主軸になるんですけど、彼女だけ「そこにいるけど、いない」ような役なんです。自分と演劇の関係性を見つめ直して書いた人物というか。横山さんに初めて舞台を観たときや初めてステージに立ったときの感想を聞いて、彼女の原風景と私の原風景を混ぜ合わせたような役にしています。もちろんフィクションなんですけど。

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──ほかにも私立恵比寿中学の中山莉子さん、ニッチェの江上敬子さん、ラッパーのあっこゴリラさん、チャラン・ポ・ランタンのももさんなど、バラエティに富んだキャストですよね。

根本 演劇の間口を広げたいというのが前提にあるんですけど、自分の中で俳優とやったほうがいい演目と、そうじゃない演目があって。今回は、あまり「演劇をやろう」としない人の力を借りるような台本になる気がしたんです。

たとえば、あっこゴリラさんはいつもアーティストとしてステージに立っているから、演劇でも「あっこゴリラ」として舞台に立ってくれると思うんです。そういうアーティストだから伝わるセリフがあると思っていて、ほかの方もそうなんですけど、その人が持っている魅力によって、いろんな人に届く作品にしたいという気持ちがありましたね。

──役柄も、演じる人の資質を活かしたものになっているんですか?

根本 そうですね。本人に近い状態で、極めてフラットにやってもらえる役を用意しています。たぶん、稽古をするときも、「こういう場合、江上さんだったらどうします?」などと聞いて、セリフを増やすようなこともあるんじゃないかと思っています。

──キャスティング以外にも、普段とは異なるアプローチがあったりするのでしょうか。

根本 今回は照明も、演劇の照明家さんではなく、ライブの照明を手掛けている方にお願いしているんです。演劇の照明って微妙な変化でお客さんの目線を誘導するような細やかなものなんですけど、ライブの照明はもっとバキッとかっこよくキメてくれるものだと思うので、どんな照明になるのか自分でも楽しみなんですよ。あと、音楽と照明の相性を重視したかったというのもあります。

やっぱり今は演劇を観に行くにしても、なんでもかんでも好きに行けるわけではなくなってしまったので、来ていただいた方に贅沢な時間を楽しんでもらえたらいいなと思っています。オリジナル楽曲の生演奏があって、歌もお芝居もあって、いろんなものが一度に観られるようになっているので。

──たしかに、贅沢な作品ですよね。

根本 いつも企画の要素が多すぎてどこを取り上げていいのかわからなくて、「そういえばバンドも舞台上にいるって贅沢ですね!」って、あとになってみんなが思ったりするんですよね(笑)。

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ブランニューオペレッタ『Cape jasmine』は、日本青年館ホールにて
2021年10月6日(水)、7日(木)に上演予定

今は自分のミニマムな感情を描きたい

──今回の舞台では、根本さんにとっての演劇像や原点を振り返っているとのことでしたが、そのきっかけなどはあるのでしょうか。

根本 これまで、年に4本新作を上演するようなペースでずっと演劇をやってきたんですけど、去年から1年ほど演劇活動を控えていたんです。コロナの少し前から、お客さんの演劇離れが起きているような気がしていて。演劇好きな人は劇場に来てくれるけど、新しいお客さんが増えていない、広がりがないというか。それで、もっと演劇がお客さんに届くにはどうすればいいんだろうと考えるようになって、一度普通のお客さんに戻って外から演劇を見つめてみようと思ったんです。今の演劇界で自分がどの立ち位置に行くのがいいのかな、というか。

──演劇を客観的に見つめるようになって、再発見などはありましたか?

根本 ドラマの脚本を書いたりはしていたんですけど、ドラマや映画に関わることで、改めて何が楽しくて演劇をやっているのか気づくことはできましたね。編集やCGによって制限なくいろんなシーンが描けるドラマや映画と違って、劇場に決まった予算で美術を作る演劇はそもそもできることが限られている。じゃあ、なんで私は演劇が一番楽しいのかというと、制限がある中で人が無理しているのが楽しいんですよね。

日本でやっているミュージカルでも、「ここはアメリカです」という前提で押しきっていたりするじゃないですか。アメリカじゃないのに。でも、演出や俳優の力によって、その押しきりに乗って楽しむことができる。それがうまくいっているものを目撃して、「うおおお!」ってなるのが好きなんです。実現できそうもないことを、演出を考え、キャストやスタッフの力を借りて実現していくのが、演劇の総合芸術としてのおもしろさなんですよね。お客さんと「ここはどこどこです」って設定を共有していく作業というか。

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※撮影時のみマスクを外しています

──作りたい作品のイメージについても、再確認したり、原点を思い出したりされたのでしょうか。

根本 自分の劇団(月刊「根本宗子」)に劇団員がいた時代、とにかく演目を観てもらう機会を増やそうと、毎月新作を作っては、小さなバーで毎週末上演していたんです。そのとき一緒にやっていたメンバーと今年会って話したんですけど、当時のくだらない事件なんかが今でも鮮明に思い出せたんですよね。どうでもいいことで誰かが怒ったとか、どんな人の日常にも起きる小さな出来事なんですけど、私はそういう日常の小さな感情を演劇で表現したいんだなって思いました。

世の中的にはコロナで大変だし、その前から大変な思いをしている人もいる。でも、食べたいものを先に人に取られて悲しいとか、そういう感情も無視したくないなって、この1年で気づいたんですよね。劇作家として、大きなモチーフで作品を書かなきゃいけないと思ったりもしたんですけど、今はもっと自分のミニマムな気持ちを書きたいなって。日常を生きるだけでみんな大変なので、やたらと大きい問題を提示されても、「ちょっと持ち帰れないんですけど……」みたいな気持ちになりそうじゃないですか。

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息抜きであり、芝居にも活かされる雑談

──充電期間を過ごされていましたが、息抜きやリフレッシュとして「サボって」いたわけではないんですよね?

根本 はい、演劇ばかりやっていたことで引き受けられなかった仕事を積極的にやってみた結果、締め切りに追われてばかりで……。仕事と関係のない趣味もないし、イギリスのお芝居が好きでロンドンにはよく行っていたんですけど、それもできなくなったので、あとは寝るとかしかないんですよね(笑)。

──家にいるときは、どんなことをしているんですか?

根本 本当に普通ですよ。寝てたり、ネットやYouTubeを観てたり、ラジオや音楽を聴いてたり、家でできることの王道。あとは、人と電話するのがわりと好きなので、友達との長電話はけっこう息抜きになっているかもしれないです。お茶を飲みに行く予定の友達とその前夜に長電話して、「もう明日会わなくてもいいんじゃない?」ってなるとか(笑)。今は直接会いにくくなりましたけど、変わらず人としゃべっているような気がします。

──そういった雑談がアイデアにつながることはあるのでしょうか。

根本 「この人の水の飲み方、おもしろいな」みたいなことをメモったりはしますけど、「こんなことがあったな、あれ使おう」と思い出してメモを確認することはあっても、わざわざメモを参照することはないですね。忘れちゃうようなことは、さほどおもしろくなかったんだなと思っているので。ただ、覚えているものはストックしないですぐに使ってしまうので、もうちょっと人と会えるようになったらいいんですけどね。電話していて思いつくこともいっぱいありますけど、リアクションのおもしろさなんかは会っていないとつかめませんから。

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──では、何も考えず、無心になるような時間はありますか?

根本 仕事を忘れる時間はありますけど、無心になることはないですね。舞台に立っていても、「今、私が舞台からはけたらどうなるんだろうな」って考えているようなタイプなので。日常的な芝居をやることが多いからかもしれませんけど。普段しゃべっているときも、話を聞きながら「この人、こんな眉毛してるんだ」とか考えたりするじゃないですか。

俳優に「『話を聞いている演技ができていない』って言われるんですけど、どうしたらいいですかね?」って相談を受けることがあるんですけど、「顔のパーツのこととか考えながら顔を見てれば大丈夫だよ」なんて言うと解決するパターンも多いんです。聞こう聞こうとするから、芝居っぽいと言われるんだと思うんですよね。

普段は「聞かなきゃ!!」って思って友達の話を聞いたりしていないじゃないですか。「聞いてるように見えない」って演出家に言われるから、「聞かなきゃ!」ってなっているだけで。それがそもそも不自然の原因だから、普段話しているときに自分がしていることを舞台上でもやればいいと。日常劇の場合ですけど。

──日常に近い心理状態で舞台に立つことで、お芝居がリアルに感じられるんですね。

根本 人や芝居にもよるとは思いますけどね。ひとつのことだけ考えたほうがうまくいく人もいますし。あと私の場合、演出も兼ねて舞台に出ると芝居の出来やテンポが気になってしまうので、演出家としての自分をいったん置いておくことに集中した結果、別のことを考えてしまうのかもしれないです。

──演出家目線で舞台に立つことは、避けたいものなんですか?

根本 観ていて演出家がわかってしまう芝居もあるんですけど、私はあまり好きではなくて。私を知らない人が観たら、誰が演出家かわからない状態がベストなんです。そこまで考えながら舞台を観ていただく必要はないんですけどね。

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撮影=石垣星児 編集・文=後藤亮平

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クリエイターの「サボり」に焦点を当て、あの人はサボっているのか/いないのか、サボりは息抜きか/逃避か、などと掘り下げていくインタビュー連載。月1回程度更新。

 

 

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