ものまね番組を全制覇してもマイペースに──レッツゴーよしまさのものまね愛|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#20(後編)

若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>

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2022年のものまね界は、地殻変動が起こった1年として記憶されるだろう。

松本人志ものまねで注目されたJPは、『ワイドナショー』(フジテレビ)で松本の、『ラヴィット!』(TBS)では川島明の代役を務め、大きな話題を呼んだ。

上半期がJPだとすれば、下半期はレッツゴーよしまさだ。9月放送の『2億4千万のものまねメドレーGP』(フジテレビ)に出演したよしまさは、「ひとりドリフターズものまね」に加え、「素の志村けん」という誰もやったことのないネタで、スタジオのみならず全国に笑いと感動を届けた。

芸人に初舞台について聞く、インタビュー連載「first Stage」。前編では、よしまさのさまざまな初舞台について振り返ってもらったが、この後編では、彼のものまねへのこだわりや、ドリフターズものまね誕生秘話、そしてものまね芸人としての野望を聞いた。

【インタビュー前編】

「素の志村けん」が世間に衝撃を与えた、レッツゴーよしまさのものまね人生|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#20(前編)

若手お笑い芸人インタビュー連載<First Stage>
注目の若手お笑い芸人が毎月登場する、インタビュー連載。「初舞台の日」をテーマに、当時の高揚や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語ります。

ドリフを観すぎて“ドリフ生成AI”になった男

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レッツゴーよしまさ

──「ひとりドリフターズものまね」と「素の志村けん」というものまねでブレイクしたよしまささんですが、20年近いものまね歴でドリフ(ザ・ドリフターズ)のものまねをし始めたのは、ここ2年なんですよね。

よしまさ そうですね。ずっとものまねの対象ではなかったんですね。子供のころからずっとドリフや『加トちゃんケンちゃん(ごきげんテレビ)』(TBS)、『(志村けんの)だいじょうぶだぁ』(フジテレビ)を観て育ってきて、志村さんはもちろんドリフのみなさんも「ものまねをする」という発想がないぐらい別格で、畏れ多かったんです。

──そんな畏怖の存在を、なぜものまねすることになったんでしょうか。

よしまさ きっかけは緊急事態宣言の自粛期間ですね。毎日家にいる日々でやることもなかった。でも、ある朝起きたら、急に志村さんのものまねをしたくなったんです。志村さんが亡くなってずっと悲しい気分が消えなかったのに、「志村さんが生きてたら、今どんなコントやったんだろう?」と、ふと思ったんですよ。その日のうちに想像でネタを作ってボイスレコーダーに吹き込んで、音源をYouTubeに上げました。「もしもこんなアマビエがいたら」ってネタです。

──いかりや長介さんや加藤茶さんもやってますよね。

よしまさ 志村さんひとりじゃコントが成立しないんで、いかりやさんと加藤さんも登場させなきゃと思って。やってみたらできましたね。子供のころから毎日家にあるドリフの録画を観すぎて、AIみたいに情報が溜まっていたんでしょうね。ものまねって、インプットとアウトプットの両方の能力が必要ですけど、ドリフに関してはインプットがほとんどの割合を占めてます。

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──すぐに反響はありましたか。

よしまさ ほかのネタよりは観られましたけど、全然バズるみたいなレベルではないですよ。結局、このネタで知られるようになるまで2年かかりました。

「素の志村さん」のほうがなじみがあった

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──やはりブレイクのきっかけは昨年9月の『2億4千万のものまねメドレーGP』ですか。

よしまさ そうですね。ドリフものまねが生まれたときは、ちょうどずっとやってきた昭和歌謡ものまねを「需要ないんだろうな」と感じていて。これからテレビのオーディションは、みんなが知ってるドリフのネタに絞ろうと決めたんです。20万円もする志村さんのカツラも用意して望みましたけど、「ウチでドリフは……」と断られ続けましたね。『2億』に出たら手のひら返してくれましたけど(笑)。

──抜群におもしろいのに、なんで落とされてたんでしょうね。

よしまさ いろいろ事情はあると思いますけど……。あれだけの大御所の方のものまねを簡単には出せないのかもしれないですし、若くて正統派な歌ウマのほうが必要とされる時期だったのもあるでしょうし。

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──『2億』の出演ですべてがひっくり返った。やはり「素の志村けん」のインパクトが尋常じゃなかった。

よしまさ そうですね。最初は「いかりやさん→加藤さん→志村さん」ってやっていくんですけど、この流れはわりとベタなものまねなんですよ。でもそのあとに「素の志村けん」ってやったら、ドンとウケました。

──その後もドリフの面々を次々とものまねしましたが、あのラインナップに「素の志村さん」を挟もうと思いついたきっかけはなんだったんですか。

よしまさ いや、むしろ素の志村さんありきで、「ひとりドリフターズものまね」のほうがあとづけなんです。「素の志村さん」によく気づいたねと言われるんですが、僕がリアルタイムで観てたコントでは、むしろキャラクターに入らずに素でやられてるコントのほうが多いんですよ。

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──なるほど。

よしまさ 一般的には志村さんっていうと、バカ殿や変なおじさん、ひとみばあさんあたりのイメージが強いですけど、僕の志村さん像は、あの地の声なんです。実際、サラリーマンや学校の先生、お医者さんの役なんかの素の声でしゃべるコントのほうが圧倒的に多いと思うんですよ。

あと、僕が平成元年生まれということもあるでしょうね。リアルタイムで『(8時だョ!)全員集合』(TBS)を観てきた世代だと、やっぱりキャラクターに入ってる志村さんの印象が強いでしょう。僕はあと追いですけど『だいじょうぶだぁ』とか『加トちゃんケンちゃん』も繰り返し観てきて、その後の志村さんのコント番組もずっと観てるからあの声になったんでしょうね。

レッツゴーよしまさの極意「残像をものまねする」

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──よしまささんのものまねはどれも絶品ですが、どんな練習をしてますか。

よしまさ 残像でものまねしようということは心がけてますね。ビデオを繰り返し観て研究して、カラオケにこもって練習するタイプではないです。「この人をものまねしたいな」って思ったら、映像も確認しないですぐやってみる。ものまねを観るほうも、わざわざ本人映像と見比べないじゃないですか。だから、みんなの頭の中にいるイメージのほうを再現するんです。完璧を追求すると、よけいな情報もいっぱい入ってきますし。もちろん、ものまね芸人さんそれぞれのやり方があって正解はないんですけど、僕のスタイルは「残像を再現する」ですね。

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──僕は「太川陽介」がすごい好きなんですよ。太川さんって今だと『バス旅』(『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』/テレビ東京)の人っていうイメージですけど、昔はすごいアイドルだった。そのことを知らしめてくれるものまねだなと思って泣きそうになるんです。

よしまさ あのネタで泣くって言われたのは初めてです(笑)。そういえば太川さんの「Lui-Lui」も「『ルイルイ♪』をちゃんと言わないところが再現度高い」と言ってもらうんですが、実際の太川さんはたぶんあんな歌い方はしてないんですよ。でもみんなのイメージする太川さんがいるから、そこをものまねしているんですよね。太川さんも苦労されてて、一時期は本当に仕事もなくて、銀行で小銭を引き出してたそうで。そんな太川さんの『バス旅』を観てたら、思わずものまねしたくなっちゃったんですよね。

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──ほかのネタでいうと、YouTubeに上がっている「郷ひろみ」は、ものまねのクオリティが抜群なのはもはや当たり前で、カメラワークまで最高でした。

よしまさ ありがとうございます。あれ、実は12回くらい撮り直してけっこう苦労してるんですよ(笑)。カメラもここ(顔の前)から引いてって、このアングルで眉毛見せたらおもしろいですよねって頼んで。完全にあとづけで笑いを取ろうとしただけなんですけどね(笑)。

全部自分でやれば、好きなことは誰にもジャマされない

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──会社員とものまね芸人の兼業は大変だろうなと思うんですが、今まで苦労や挫折したことはありますか。

よしまさ ないですね。そもそもものまね一本で食っていきたい気持ちがないですから。普段はちゃんと仕事して、休みの日に自分の好きなものまねをする。それで笑ってくれる人がいたら、こんなにうれしいことはないなっていう。ただそれだけです。

でも、ものまね番組でスタッフさんにネタをリクエストしてもらったのに、自分の中での100点が出せないときは歯がゆいですよ。そういうときは寝てる間もずっとその人の曲を流してましたね。とにかく頭と体に入れていかないといけないんで、毎日ずーっとエンドレスで聴く。もうノイローゼになるかと思いますよ。暗い曲だったりすると、気持ちも引きずられますし(笑)。

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──やはりストイックですね。

よしまさ 自分ではストイックだとは思わないですね。自己満足のハングリー精神なので。ものまねって自己完結する芸で、自分との戦いなんですよね。ものまねの人は、僕だけじゃなくてみんなひとりで淡々とネタ作って練習してますから。

──YouTubeの編集なんかも全部自分でやってるんですよね。

よしまさ そうですね。基本的に僕は全部自分でやりたいんですよ。そのほうが好きにできていいじゃないですか。誰からもジャマされないし。ものまねを始めたときから、音源も自分で編集してきましたし、進行表の作り方もいろんなものまね芸人さんのやり方を見て覚えました。今思えば、全部自分でやるっていうのも、志村さんのコント作りに影響を受けてる気がしますね。

ものまね番組をコンプリートしても、兼業は続ける

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──この先も会社員と兼業でやっていくんですか。

よしまさ そうですね。まあ会社に「辞めてくれ」と言われたらしょうがないですけど、今のところ応援してくれるんで、有給があるうちは粘ります(笑)。

──ブレイクして忙しいと思いますが、今後の目標はありますか?

よしまさ いろんなところで言ってますが、やはりドリフターズのメンバーに会うことですね。まだどなたにもお会いできてないので。好きすぎて、簡単に会っちゃダメという思いもあり、ご挨拶もしてないんですよ。だから正式にお仕事としてオファーしていただけることが目標です。

──この連載だと若手芸人はやはり賞レース優勝を目標に掲げる方が多いんですが、ものまね芸人はそういうのもないですよね?

よしまさ そうですね。ものまね番組で優勝させてもらえたらうれしいですけど、目標とはまた違うというか……。テレビでも自分のやりたいネタを常にさせてもらえるようになりたいですけど、今の時代、番組で優勝しても仕事にはあんまり影響しないと思いますし。昔だったら「ものまね王座で優勝」なんていったら、翌日から仕事が殺到して、営業で毎日埋まって、それが“ものまねドリーム”だったでしょうけど。

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荻野良乙マネージャー そういうのは“ものまね四天王”の時代だよね。ただ、よしまさ君は、前人未到の記録をすでに達成してるんですよ。『2億4千万』で話題になりましたが、その後『(ザ・)細かすぎて伝わらないものまね』(フジテレビ)にも出させてもらって、さらにフジテレビの『ものまね王座決定戦』と、日本テレビの『ものまねグランプリ』にも立て続けに出たんです。実は、この番組全部コンプリートしたのは、彼が初めてなんですよ。

よしまさ 自分では言いづらかったんですけど、実はそうなんです(笑)。僕、ものまねマニアでもあるので、昔の『ものまね王座』の対戦はすべて暗記してますけど、この番組に全部出た人っていなかったんです。

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荻野マネージャー ましてやこの半年ちょっとであっという間に達成したのがすごいよ。

よしまさ もっというと、フジには『ものまね王座』と『ものまね紅白(歌合戦)』があるんですが、『紅白』のほうにはまだ出てないんですよ。でも、この4月に出られることになったので、これがオンエアされたら完全コンプリートなんです(笑)。

荻野マネージャー 番組の格としては『王座』のほうがすごいんだけどね(笑)。紅白には出ても、王座には出てない人のほうが多いですから。いずれ、これ全部優勝できると思うよ。

──モノマネ界の藤井聡太みたいな。

よしまさ そうですね、がんばります。まぁ僕も一時的なブームかもしれないので、気を抜かず、仕事も辞めず、ものまねを楽しんで続けたいですね。

文=安里和哲 撮影=青山裕企 編集=後藤亮平、田島太陽

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レッツゴーよしまさ 1989年5月17日、埼玉県出身。アミューズメント会社に勤務しながら、ものまね芸人として活動する。レパートリーは昭和歌謡とドリフターズ。2022年9月、『2億4千万のものまねメドレーGP』に出場し、「ひとりドリフターズものまね」を披露する。『ものまねのプロ216人がガチで選んだ いま本当にスゴい!ものまねランキング2023』(テレビ東京)では61票を集め、1位に輝いた。

【後編アザーカット】

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若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>