サスペンダーズ「お笑いはズボンのチャックを閉めない人間も包み込む」|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#7(後編)

若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>

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独自の世界観で、情けなくて、毒っ気のある人間臭いコントを次々と生み出すサスペンダーズ。

前編では、彼らの信じるお笑いを突き進む上で重要だったサークル時代の話や、マセキ芸能社の社風について聞いた。

そして後編では、売れないことへの焦り、ネタの転換期、今後のコント界の展望、そしてサスペンダーズの目指す地平について話してくれた。

【インタビュー前編】

サスペンダーズの初舞台は、文字どおり“毒だらけ”|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#7(前編)

「若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>」
注目の若手お笑い芸人が毎月登場する、インタビュー連載。「初舞台の日」をテーマに、当時の高揚や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語ります。

後輩の活躍に焦る

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依藤たかゆき

──前編では、サスペンダーズの毒っ気のあるネタが、お笑いサークルやマセキ芸能社の風土の中で育まれたという話を伺いました。

一方で、その独自の路線は、大衆に愛されるポップさとは真逆なので、売れるまで時間がかかりますよね。

依藤 そうですね。たしかに売れたいと思い始めてから、毒のあるトガったネタは少しずつ減らしてきました。

古川 そのままの路線で続けていっても先がないというか……。どう売れていくか明確なビジョンがないまま、ただただダークでおもしろいネタを突き詰めて、目先のライブでウケることばかり考えていましたね。

でも同世代の芸人や、同じ事務所のかが屋とかパーパーっていう後輩が活躍し始めて、このままじゃさすがに厳しいなと思って……。

──後輩が躍進して初めて、焦りを覚え始めた。

依藤 ほんとそうっすねぇ。同世代や後輩の活躍を見て「この世代でもちゃんと売れるんだ!」と気づかされて、めっちゃ焦りました。

──お笑い一本でご飯が食べていけないつらさや、成り上がりたいみたいな野望は薄かったんでしょうか? ひたすらに自分たちのお笑いを追求するのみというか……。

依藤 いや、ずっと成り上がりたいとは思ってますよ(笑)。でも……。

古川 そういう野望には現実味がなかったです。売れてない芸人たちと一緒にライブやってたら、当然みんなおもしろいし盛り上がりますしお金はないけど楽しいから、つらい感覚がどんどん麻痺していったんでしょうね……。

僕らは大きくくくると第七世代になると思うんですけど、その世代がネタ番組にどんどん出ていくなかで現実を突きつけられました。ちょうど、僕も依藤も30歳に差しかかるころで、本格的に何かを変えなきゃという焦りが大きくなってました。

素の自分を投影して、コントが変わった

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古川彰悟

──マセキのYouTubeチャンネルに上がっているサスペンダーズのネタ動画の再生リストを通して観たのですが、ネタのテイストが明らかに変わるタイミングがありました。具体的には、2019年4月の『サークルクラッシャー』です。ここで今のサスペンダーズのスタイルにかなり近づいたのかなと。

古川 そうですね。その時期にネタ合わせで依藤から「一回いろいろ考え直してやってみないか」と言われて。

依藤 一回話し合って、今までやってこなかったこと全部やってみようって提案したんですよ。自分たちのやりたくないネタや、サスペンダーズには合わないと思ってたことも、とりあえず一回全部やってみる。

そうやっていろいろグチャグチャやっていく中で、普段の古川をネタに取り入れたら、反応がよかったんですよね。古川の挙動不審な仕草だったり、やたらと焦るところ、人目を気にしすぎる感じを、コントのキャラに反映したらウケた。そういう手応えを受けて、作ったのが『サークルクラッシャー』でした。

古川 ネタに僕の実体験を取り入れたり、素の僕に近いキャラクターを演じたら、ハマったんで。キャラクターを演じ分ける演技力がないことも自覚していたので、素の自分を出すようになってから、だいぶやりやすくなりました。

──『サークルクラッシャー』や『復讐のバーベキュー』あたりは、ウケすぎておふたりの声が聞こえないほどでした。あんなにウケたのは、初めてでしたか?

依藤 そうですね。それこそ舞台裏で観てた先輩も「『キングオブコント』の決勝も狙えるね」って言ってくれたりして。

古川 それまでも別にスベり続けたわけじゃないんですけど、あそこから反応が確実に1段階、2段階上がったというか。この方向性で進化させればいいという希望の光が見えた気がしましたね。

──ライブ動画を過去から順に観ていくと、『サークルクラッシャー』で劇的に変化するので、感動的ですらありました。

依藤 あっはっは(笑)。たしかに、動画で振り返ると、あの1カ月で一気に変わったように見えますよね。でも、ずっと水面下で試行錯誤はしてて。うちのマネージャーさんが、小手先を変えただけのネタを見せると怒るんで、事務所ライブでは今までどおりにやりつつ、外のライブでいろいろ試してたんです。

繰り返し練って「これなら間違いない」と思って満を持して事務所ライブに持っていったんですよ。

正しくない、異常な人間たちのやりとり

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──依藤さんは、バイきんぐ小峠(英二)さんのツッコミに憧れているというお話を聞いたことがあるんですけど。

依藤 そうですね。ああいう強いツッコミにすごく憧れがありましたね。

──でも、古川さんの人柄がコントに出てきたのを境に、依藤さんのツッコミはやや控えめになったように思います。自分のやりたい芸風を変えることに、葛藤はありましたか?

依藤 いや、むしろしっくりきてます。どっちかっていうと、よりよいやり方を見つけたなと思いました。

たぶん、根の部分で僕は小峠さんタイプじゃないんですよね。コントでは小峠さんみたいにツッコむんだけど、平場ではうまくできなかった。マネージャーさんと話してても「コントで大きい声で、キレよくツッコむキャラクターを演じてるんだから、平場でもガンガンツッコまきゃダメだよ」ってことはずっと言われてて。

でも、やっぱりできなかったんですよね。今はコント中と平場での差がそこまでないので、芸人としても、いい状態だと思います。

古川 でも、ここ最近のネタはさらに展開が加わって、依藤のツッコミでうねるようにまた変化してきてるんですよ。ツッコミというより、僕と依藤が大声で言い合いしてる感じですけど。

一時期は、僕だけが変人で、自意識や焦燥に駆られて暴走するみたいなネタが増えたんです。でも、お互いがお互いを異常だと思って、ドロ沼にハマっていく……みたいなネタに少しずつ変わってきてます。

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依藤 古川だけじゃなくて、僕にもまた変な部分や隙があったりするから。

古川 キングオブコントの敗退などを経て、ふたりで話していくなかで、僕も依藤もお互いを異常なヤツだと認識してるコントを作るようになりました。

──たしかに10月にスタートした6カ月連続のツーマンライブ『二掛六』でも、それは感じました。依藤さんのツッコミ気質が復活することで、よりいっそうツイストしてる。

古川 僕らは性格もほぼ正反対なので、お互いにお互いのことを異常だと思ってるんですよ。僕に共感してくれるお客さんもいる一方で、依藤の肩を持つ人もいる。そういうどっちも正しくない人間のやりとりをおもしろく見せたいです。

依藤 そうだね。お互いに共感できるポイントがある状態で観てほしいです。笑いどころは古川かもしれないけど、「どっちの異常性もわかるなぁ」っていうラインを保ちたい。

──人間誰しも変というか。普通な人はひとりもいない、そういう人間のおかしみが、サスペンダーズのコントには凝縮されているのかもしれませんね。

依藤 そうですね。人間の歪みみたいなのは、普段からずっと感じてるので(笑)。

古川 単純なボケツッコミじゃない関係性が、より深くて大きな笑いにつながるんじゃないかと思ってます。

コントブームの終焉が怖い

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──今の話を聞いていて、サスペンダーズのコントが、お互いの会話や関係性で見せる演劇的アプローチにも近づいているのかなと思いました。

依藤 あぁ……多少は演劇的要素もあるのかもしれないですけど……そこは流行りに乗っかってますね。

古川 はははは(笑)。

依藤 それこそ今年のキングオブコントがそうでしたよね。ちょっとなんか……そうっすね……。

──何か思うところがありましたか?

依藤 コントの流行りがいろいろ見えてしまった感があって、バブルが崩壊する直前な感じがして……ちょっと怖くなったんですよね。

古川 「史上最高の大会」とも言われてましたし。

依藤 昔は演劇チックなコントって「演劇みたいなことやってるよ(笑)」というメタ的な笑いになってたんですけど、今はその視点がなくて、ごく素直に「そういう見せ方もいいね」と捉えられてて。

“エモい笑い”がブームになってて、僕らもそういう流行りに乗ってるところが多少ある。でも、今年のキングオブコントの盛り上がり方を見て、演劇っぽいコントがこの先飽きられるんじゃないかと、ふと思ったんですよね。

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──ちなみに、演劇的なコントの流行って、どこから始まったと思いますか? おふたりも出演されている『テアトロコント』は、大きな流れを作ったのかなと。

依藤 テアトロコントはそうですね……あと、かが屋の存在は決定的ですよね。僕らみたいなバカバカしいコントは、何度も食われてきました(笑)。

それこそ先日の『ツギクル芸人』(ツギクル芸人グランプリ2021)や『ラフターナイト』(「マイナビ Laughter Night」第7回チャンピオンLIVE)で、めちゃくちゃドラマチックでエモくやってくる金の国に、僕らは負けたんですよね。ああいうコントと比較すると、ほかのコントってすごく薄っぺらく見えちゃう。すごいですよ、金の国。

──ただ、サスペンダーズは流行りのエモさを取り入れつつ、パワーワードというかキラーフレーズを挟むことで、ほかのコントと差別化されている気がしてます。

依藤 それはありますね、ふたりとも強いワードが昔から好きなんで。

古川 僕も依藤も大学生のときから一貫して、ダークな雰囲気とかキラーフレーズへのこだわりは一致してるので、そこを突き詰めて自分たちにしかできない形を作りたいです。

──流行を踏まえつつ、サスペンダーズは差別化して闘っているんですね。

古川 はい。僕は演技面で厳しいのも自覚してるので、もっと泥臭く、むき出しのドロッとしたコントをしたいです。バカバカしさを前面に押し出しつつ、展開にうねりを加えた形を磨きたいです。そこを突き詰めれば、今年のキングオブコントに出られてたトップクラスのコント師たちに太刀打ちできるかなと。

お笑いは、僕のダメなところも包みこむ

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──マセキで自分たちの欠けているところやトガっているところを愛されて、のびのびとお笑いをやってきたふたりが、後輩の活躍に刺激を受けて売れるためにがむしゃらになっている。そんなサスペンダーズはこれからどこを目指すのでしょうか?

依藤 自分たちのでこぼこを隠すんじゃなくて、活かしつつ、いいかたちで商品になるようにしていきたいです。

古川 僕も依藤も自分自身をさらけ出した状態で、売れるのが一番いいですよね。

依藤 そうだね。どうせ僕らは取り繕えないですし。それこそ、さっき撮影してたときも古川のズボンのチャック開いてたらしいんですよ(笑)。そういう抜けてるところとか、どうしようもない性格は変えられないので、そのままでいくしかないとは思ってます。

古川 そうですね……自分のだらしないところやダメなところも包み込んでくれるから、お笑いをやってるところがあるので。

──目標にしてる仕事はありますか? テレビ番組でも単独ライブでもなんでもいいのですが。

依藤 冠番組は持ってみたいですね。

古川 コント番組もやりたいっすね。

依藤 ゴールデンの番組やりたいし、ラジオももっとやりたいし、単独やりたいし……結局お笑いでできること全部やりたいっすね。

古川 コントだけじゃなくて、お笑い全般がすごく好きなんで、なんでもやっていきたいです。

──そのためにもキングオブコントでの活躍が重要なんですね。

古川 そうですね。今年のキングオブコントは衝撃的で、僕もめちゃくちゃ笑いました。サスペンダーズも決勝に行けるように、自分たちを研ぎ澄ませていかなきゃいけないなと思ってます。

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サスペンダーズ
古川彰悟(ふるかわ・しょうご、1990年4月26日、神奈川県出身)と依藤たかゆき(いとう・たかゆき、1990年6月7日、東京都出身)のコンビ。2014年に結成。今年、『ゴッドタン』(テレビ東京)の人気企画「お笑いを存分に語れるBAR」で、東京03飯塚悟志が注目すると語った。『サスペンダーズのモープッシュ!』(Cwave/Podcast/Spotify)でラジオパーソナリティを務める。YouTubeチャンネル『サスペンダーズの稼げ年収1000万チャンネル』は、毎週火・木曜日20時に企画動画、土曜日20時には生配信を行う。

文=安里和哲 写真=青山裕企 編集=龍見咲希、田島太陽

【後編アザーカット】

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